(2012.02.24)
「痛っ」


大空魔竜の格納庫で整備の仕事をしていると、背中にどすんと衝撃が走った。またか、と半分呆れながらキーボードを叩く指を止めて、背後に立った人物を振り返る。


「何すんの」

「制裁」

「……はい?」

「俺が戦って帰って来てるのに、出迎え無かったじゃねーか」


むすっと頬っぺたを膨らませた豹馬が、私にそう文句を言った。いやいや、帰還してすぐ出迎えろとは確かに言われたけどもさ、はっきりそれは無理だとも言っておいた筈だ。私はスーパーロボット系の整備士で、君らが戦っている間は特に忙しいのだよ。だから豹馬一人の為に出迎えなんかできないし、そんな事したら他の整備士さんに「てめぇ舐めてんのかこらぁああぁ!」と粛正される。


「俺のことを好きならそれぐらいできるだろ!」

「いや、だからむっ……痛い!」

「俺はなまえを守る為に戦ってるんだぞ!」

「いだだだだだだ!ちょ、待って、豹馬くん痛いよ!ギブギブ!」


私は整備士だって言ってんのに、そんな私の大切な腕を捻り上げる豹馬。意味分からん。前々から思っていたけれど、豹馬はちょっと理不尽な暴力が多すぎる。余談を言うならば、私達が付き合いだした時もそうだった。いきなりエナメルバックを顔に投げつけられたうえに「好きだから俺と付き合え」と何の脈略もないまま告白をされたのだ。もう訳が分からん。


「ご、ごめんよ豹馬……」

「キスで許す」

「え、何で?何でそうなっ……いだだだだだっ!」

「一生懸命戦った俺を労ってもいいだろ!」

「わ、分かった!分かったって!」


まさかのプロレス技をかけられ、私は半泣きになりながら豹馬を落ち着かせる。あり得ねぇこいつ。何でよりによって彼女である私にプロレス技?今度お前のコンバトラーVに起爆装置を付けてやろうか。超電磁スパーク出した瞬間吹っ飛ぶようにしてやろうか。まぁ実際にそんなことをしたら間違いなく豹馬に祟られるからしないけどね。


「ほら、早く」

「うぅ、恥ずかしいなぁ、もう……」


つーか誰か豹馬を止めてくれよ、この際誰でもいいからさぁ!と、心の中で助けてくれない整備士仲間に文句を言った。しかしこうなった以上、豹馬は私がキスをするまで許してはくれないだろう。私は半分諦めたようにため息をついてから、目の前で私のキスを待つ豹馬と向き合った。そして意を決した私は、彼の形の良い唇へと口付ける。


「……満足ですか?」


キスした後はどうも豹馬の顔が見れなくて、私は俯いたまま彼にそう尋ねた。すると次の瞬間苦しいくらいに豹馬に抱き締められて、耳元で「大好き」と呟かれた。




ドメスティックな彼

(身が持ちそうにない)