(2012.02.20)
私はアムロ大尉にちゃんと釣り合えているのだろうかと、時たま不安になる。


「なまえ」


ひょんなことから、畏れ多くも軍部の英雄であるアムロ大尉の婚約者(恋人の段階はすっ飛ばした)となった私は、毎日そんな不安で頭を悩ませている。それもこんな風に、大尉が優しく私の名前を呼びながらキスをしてくれる瞬間なんかは特に。心底嬉しいと思う気持ちと、やっぱり夢を見ているんじゃないかという疑念。大尉と付き合いだす以前はただ可愛い可愛いと思っていただけのこの人も、一度好きになるとこんなにも色んな表情が違って見えるなんて思いもしなかった。短い距離から見つめた彼は、遠くで見ていた時よりもうんと大人だったのだ。それはもう、お子様な私が恥ずかしくなるくらい。


「アムロ大尉……」

「……二人きりの時は呼び捨てだって、約束しただろ?」

「む、無理ですよ恥ずかしいです!」

「ふぅ、仕方ないな」


これで許すよ、と、再び大尉によって奪われる唇。今度はさっきよりも少しだけ長く、深いキスだった。それだけで既に頭がくらくらとしてしまう私は、切ないくらいに愛おしい大尉の軍服にしがみついた。あぁ、大尉は、本当に可愛い人だと思っていたのに。今は、目を逸らしたくなるほど大尉がかっこいい。


「こっちを見てごらん、なまえ」

「……大尉、フィン・ファンネル!ってやってください」

「話を逸らすんじゃない」

「だって、だって……」


当初とイメージの違う大尉が悪い。私は可愛い大尉がただ漠然と好きだったのに、今の大尉はより確実に私を虜にしようとする。こんなのってない。私はやがて貴方の妻となるのだから、少しくらいお手柔らかに接して欲しいと思うのは別に我が侭でも何でもない筈だ。これじゃ余計に不安になってしまうだけじゃないか。私はただ、この人に結婚を餌に遊ばれているだけなのではないかと、酷く不安になる。


「大尉、」

「名前で呼んでくれないのかな?」

「……あ、アムロ……さん」

「残念、惜しい」


そう言って近付いてくる大尉の顔に、私はそっと瞳を伏せる。しかしいくら待っても唇に温もりは重ならず、不思議に思った私はそっと閉じていた目を開いた。すると目の前で、楽しそうに笑うアムロ大尉が視界に映り込む。あ、今の顔はちょっと可愛いかも。わーい。なんて喜んだのも束の間、私は不意に感じた左手の薬指の違和感に、そっと違和感の元へと視線を向けた。


「……!」


そうして視界に捉えた、左手の薬指で輝く銀色の存在に息を呑む。驚きと感動のあまり、私は涙を堪えて思いっきり大尉の体にしがみついた。背中に大尉の腕が回されるのを感じながら、私も大尉を抱く腕に力を込める。


「これで、不安は消えたかい?」

「はい、すっかりと消えました……!」

「なら、俺にも何かくれないか?」


そう悪戯っぽく笑って、大尉は静かに目を閉じる。今思えば、私から大尉にキスをしたことは一度も無かった。だから私も彼の希望通り、目の前の大尉に自分から唇を重ねる。短く、触れるだけのキスが今の私には限界だったけれど、瞳を開いて見た大尉は、指輪を貰った私と同じくらいに喜んでいた。


「愛してるよ、なまえ」

「私も、愛してます」

「何だ、アムロ愛してるっていうのを期待したのになぁ……」

「それは、また次のお楽しみということで」

「なら、そういう事にしておこうか」




薬指に約束を

(不安ごと包まれる)