(2012.02.19)
※下品


夜這いなんて、所詮平安貴族達のお遊びに過ぎないと思っていた。だって普段身の回りの世話をしてくれている人が裏で手引きをして、知らない内に知らない男が部屋に忍び込んで来るなんてあり得ないと思う。そもそも夜這いまがいのことは、機械技術とセキュリティ技術の発達したこの時代に敢行しようものなら、間違いなく警察に捕まる。不法侵入やら強姦やら、その他もろもろの罪状で。


「だから悪い事は言わない、夜這いなんてやめるんだ甲児くん!」

「何言ってやがるんだ、同意のうえでやってんだから強姦じゃねえよ」

「おかしいな同意した覚えは無いけどな!」


私がそう言って甲児くんの肩を押し返すと、彼はキョトンとした表情で首を傾げた。可愛い……じゃなくて、何おかしいなって顔してるんだよ、本当に私は同意した覚えは無い。だいたい、何故急に夜這いなんだ。その相手が何故に私なんだよ。しかもよりによって、私が愛機の整備やら他人の機体の整備やらでくたくたになった日に襲ってくる辺り、この夜這いに計画性を感じずにはいられない。絶対甲児くん以外にも協力者がいる。推測するにその人物は、普段から私に近い人間のはず。……って、ちょっと待て。これじゃまるで本物の夜這いのようなシュチュエーションじゃないか。


「思い留まるんだ甲児くん! 君にはもっと相応しい人がいるはずだ!」

「相応しいなんてのは、俺が決めることだ。いいから少し黙ってろって」

「ちょ、待って甲児くん……!」

「好きだぜなまえ」

「!」


不意に太陽のような笑顔で微笑まれ、私の心臓は冗談抜きで飛び出しそうだった。やられた。こんなのはずるいよ甲児くん。そりゃあ私だって、正直甲児くんのことが好きだ。けどきっと私の気持ちなんて甲児くんには届かないと思ったから、忘れようと必死で取り繕っていたのに。なのに甲児くんは、たった一言だけで私の全てを拐っていこうとする。私の全てを、包み込もうとするのだ。


「おーい、なまえ」

「……何ですか」

「顔、見せてくれよ」


思わず泣いてしまいそうになって、隠すように両手で顔を覆うと、その手を甲児くんが優しく退けた。それからぎこちない仕草で私の手の甲に口付けると、彼は照れ臭そうに笑う。そんな笑顔でさえ眩しく感じる私は、本当に末期だと思った。


「何か、こういうのはあんまり得意じゃねえな」

「似合ってないしね」

「おいおい、少しはその気になってるんだろ?」

「ならないよ! 甲児くんの気持ちはよく分かったけど、何で夜這いなの!」

「いやぁ、それは……万丈さんが」

「……」


あぁなるほど、共犯者はあの人か。確かにあの人ならば、普段から私の行動を把握することができるかもしれない。そういえば今日一日、何かと万丈さんに仕事を任されることが多かったような。畜生、甲児くんに余計な知恵を与えた上に、こんな状況をもたらした万丈さんは絶対に許さん。とりあえず何とか甲児くんに夜這いを思い留まらせ、今すぐ修正しに行ってやる!


「甲児くん、私今すぐ万丈さんを殴りに――……」

「んなことしなくていいからよ、続けようぜ」

「何を? いや分かるけど何をなの甲児くん!」

「だから、これは告白ついでの夜這いだって言ってんだろ」

「私も甲児くんが好きだから告白は凄く嬉しいんだけど、夜這いはまだ心の準備ってものがさぁ!」

「気持ちが通じてれば問題ねえ!」

「いや、そんなまさかの精神論……っあ……何処、触って……!」


今更走り出した甲児くん(これだからスーパーロボット系は)を止めることなどできる訳がなく、結局私達は抜いたり挿したりを幾度も繰り返して朝を迎えた。そして二人仲良く寝坊して、ピートさんにこってりとお説教された。その時影で万丈さんが楽しそうに笑っていたのが見えて、やっぱり一度くらいはあの人を殴らなければいけないなと思った。



(どうだいなまえ、いい夜になったかい?)

(あんた最低な大人だな!)

(そりゃどーも)