(2012.02.19) ※スパロボ設定 地球から見た宇宙はいつも美しかった。だから幼い頃にはよく、あの果てには一体何があるのだろうかと憧れもした。けれど今、こうして戦う宿命のままにたどり着いたこの宇宙は、砕け散った惑星の破片だとか、壊れた宇宙船やらモビルスーツの残骸やらで溢れかえっていて、ちっとも美しく無い。あの頃抱いていた宇宙への憧れは、未だに私の中に存在しているというのに。目の前に広がる現実達が、連戦続きで磨り減った私の精神を容赦なく追い詰めていく。心はずっと痛いままだ。いっそ次の出撃で死んでしまえれば、今よりも少しだけ楽になれるのだろうか。 「……こんな所で何をしているんだ」 「あ」 ふと声のした方へ顔を向けると、不愉快そうに目を細めるカミーユ・ビダンがそこにいた。そして、彼の青い瞳と視線が交差した瞬間、驚いた私は数歩分彼から遠ざかる。普段この通路は滅多に人が使用することは無く、一人になりたい時には持ってこいの場所だった。なのに今、どうして、カミーユのような人がここにいるのだろう。まさかニュータイプであるカミーユでも、私のように一人になって考えたくなる時があるのだろうか。 ……何て、愚問か。ニュータイプだろうと凡人だろうと関係ない。ふと立ち止まって考えたくなる瞬間は、誰にだってあるのだから。 「あぁ、ごめん。邪魔なら私、自分の部屋に戻るけど」 「……」 「……おやすみ、カミーユくん」 私をじっと見つめたまま無言を貫くカミーユにそう言って、私はくるりと彼に背を向けた。冷たい奴だと思われたかもしれないが、同じホワイトベースに搭乗していても、普段の私とカミーユに親交など皆無に等しかった。だからもしもカミーユが、何かの理由があってここを訪れたのだとしたら、彼の望み通り早々に立ち去ろうと私なりの気遣いを見せたつもりだった。 「行くなよ、なまえ」 けれどカミーユは、離れていく私の腕を掴んでそう呟いた。あまりに予想外の展開に、私はさっきよりも驚いてカミーユを凝視する。しかし無責任にも私を引き止めたカミーユは、変わらず不愉快そうな表情を浮かべていた。というか、名前。なまえって、覚えていてくれたんだ。 「で、でも私……」 「いいから、黙ってここにいればいいだろ。それとも、俺が居たら困るの?」 「いや、困りはしないけどさ……」 むしろ私がここにいていいんですか、と聞き返したら、カミーユは私から視線を逸らして小さく頷いた。友達でもない私がいれば邪魔になるだけなのに、カミーユは不可解な行動をとる人らしい。とりあえずここに居ていいと言われた私は、解放された片腕を手すりに掛けてまた宇宙を見つめる。けれど意識しなくとも隣にいるカミーユの存在が気になってしまい、そわそわと落ち着かない。 「……」 「……」 「……あのさ、カミーユくん」 「くんはいらない、カミーユでいいよ」 「あ……そう。じゃあカミーユ、君はどうしてここに来たの?」 しばらく宇宙を見つめるふりをしてから、私はなるべく自然体を装ってカミーユにそう尋ねた。すると彼は、一瞬だけ視線を私に移して、それからまた考え込むように私から目を逸らした。 「別に、なまえには関係無いだろ」 「まぁ、そうだね……ごめん」 「……」 「……」 会話のきっかけをと思ったのに、あっさりとカミーユに拒まれてしまった。聞いた内容も内容だけれど、少しくらい私に付き合ってくれてもいいのでは無いかと腹が立った。せっかく、カミーユと仲良くなれると思ったのに。そういえば甲児くんや豹馬くん達が、カミーユの奴はノリが悪いなんて話していたっけ。まったく、これだからリアル系は。 「君こそ、」 「?」 「いつも何しにここへ来てるの?」 「……」 不意にカミーユからそう聞かれて、今度は私が口をつぐんだ。さっきのお返しという気持ちもあったけれど、「戦いが嫌で、死にたくなった時にここへ来ます」なんてことを言うわけにもいかない。そんなことを言ったら殴られそうだ。(実際に私は、カミーユが「修正してやる!」と言ってクワトロ大尉に殴りかかっているのをこの目で見た。)それに普段から仲の良い訳でも無いカミーユに、私の深層心理に関わる話をするのは少し気が引ける。 「……」 「今度は君が黙り?」 そう言ってカミーユは、呆れたようにため息をついた。分からない、私にはカミーユという人間の意図が理解できない。突然私の前にやって来たくせに、彼は私に何が言いたいのだろう。それにカミーユの口振りから察すると、彼は普段から私がここを訪れているのを知っていたようだ。誰にも気付かれないようにしていたのに、どうして。 「……死ぬな」 「え?」 そんなことをあれこれ考えながらじっとカミーユの横顔を見つめていると、彼はか細い声でぽそりとそう呟いた。 「絶対に、死ぬなんて思わないで」 「か、カミーユ……?急にどうしっ、」 不意に言葉を遮られた私は、次の瞬間カミーユによって抱き締められていた。カミーユがどんな人なのかはよく知らない、けれどまさか彼がこんな大胆な行動をとるとは夢にも思わなくて、私は咄嗟に彼を振りほどくこともできずに言葉を失った。無重力の中支えを失った私達二人の体は、まるで水中の中を漂うように流れていく。 「俺が守るよ」 「……」 「俺が絶対に、君を守るから……」 耳元でそう囁いたカミーユは、まるでその決意を伝えるかのように私を抱く手に力を込めた。それはもう、痛いくらいに。けれど私の頭は胸の底から沸き上がってくる感情とは裏腹に、この現状の答えを求めて混乱を極めていた。守る、なんて無論言われたことも無い私には、カミーユに何と応えればいいのか分からなかったのだ。 「いいよね、なまえ……」 「……」 けれどこの温もりに包まれていたいと思ったのは、戦争に絶望した私自身の甘えなのだろうか。 憧れの殺し方 (君の瞳の中に、あの日見上げた宇宙を見た) |