ローズの香りがする紅茶はほくほくと湯気を立て、私の食欲を誘う。目の前には薔薇のように真っ赤に輝くルビー色のケーキが用意され、私は机の下に置いた掌に載せたプレゼントの出番を今か今かと測っていた。

「今日は……その、ありがとうなまえ」
「え?」
「えっと、私の誕生日だからって……こんな素敵なケーキまで」
「いいんだよアキちゃん! それに、フライングどころか遅刻だし……ごめんね、遅くなっちゃって」

可愛らしくラッピングされたリボンを弄りながら紅茶を口に運ぶと、目の前に座ったアキちゃんが、申し訳なさそうにそう呟いた。私はせっかく彼女の為にと用意した物なのに、かえってアキちゃんに遠慮させてしまっただろうかと、手にしていたプレゼントをキュッと握り締める。するとアキちゃんは、そんな私の気持ちを察してか、紅茶のカップを持ったまま微笑んだ。

「ううん、いいの。私はこんな風に、祝って貰えただけで十分……」
「アキちゃん……」
「ありがとう。遊星達もお祝いしてくれたけど、貴方からのお祝いが一番嬉しいわ」
「!」

そう言って切り分けたケーキを私に差し出すアキちゃんを見て、私は顔が熱くなるのを抑え切れなかった。恐らく、遊星におめでとうを言われた事の方が彼女にとって一番嬉しい出来事であったに違いない癖に、そんな事を言う。ずるいなぁ、と思いながら、私は相変わらず笑顔を浮かべたままのアキちゃんに、手に載せられたまま出番を待っていた小さなプレゼントを差し出した。

「これは……?」
「誕生日プレゼントだよ! 気に入って貰えるか、分からないけど……」
「何言ってるのよ、なまえがくれた物だもの、気に入らないわけないわ。本当に色々ありがとう」
「ううん! お礼なんかいらない! アキちゃん、遅くなったけど誕生日おめでとう!」

「そして……生まれてきてくれてありがとう」

私と友達になってくれてありがとう、と。本当は言いたかった言葉を呑み込んでから、私もアキちゃんに微笑んだ。アキちゃんは私が贈ったプレゼントを胸の前で手にしたまま、そっと瞳を伏せる。彼女はかつて、その身に持ったサイコキネシスの力によって、一度は自分の生を呪った事があった。けれども今のアキちゃんは、遊星と出会い、多くの仲間と出会った事で、よく笑い、誰かに恋をする普通の女の子になった。そしてそんな彼女とこうして誕生日を祝い合う友達になれた事は、私にとって何よりも幸福な事だった。

「……これからも、何年だっておめでとうって言うよ」
「ふふ、嬉しいわ」
「だって、私……アキちゃんが大好きだもん」
「私も、なまえの事が大好き」
「アキちゃん……」

「私と友達になってくれて、ありがとう」
「!」

アキちゃんがそう呟いて、私は心臓を射抜かれたような気持ちがした。やっぱりずるいなぁ、敵わないよと思いながら、私は照れ隠しにそっと紅茶に口を付けた。喉の渇きを潤し、口の中一杯に広がる薔薇の香りは、目の前で私に微笑みかけるアキちゃんと同じ香りがした。




2015.08.18