大学生になって、月子は髪を切りパーマをかけピアスを開けた。

以前と変わらないミルクティーブラウンの髪を耳にかけ、その隙間からキュービックジルコニアのピアスがしゃらしゃら揺れている。それに絡まるように、イヤホンのコードがパーカーのポケットから伸びていた。長いスカートの丈をマキシ丈というのを最近聞いた。

月子は高校の時みたいにピンクの服や、フリルのある服を着なくなった。幼なじみの癖に月子の部屋に殆ど入った事のない俺は、月子の部屋が装飾品すらないシンプルな部屋だという事も知らなかった。見る分には可愛いんだけどね、本当はあまり好きじゃないんだ。そう言う月子は流行りの恋の歌を好きだとは言わなくなった。何だか沢山の物を削ぎ落としたような月子に俺は少しばかり面食らってしまったのだが、同じ大学に進学した宮地君は当たり前のように受け入れていたのが何だか、いや、本当は凄く悔しかった。
俺が必死に守ってきた幼なじみとはまた違う独特の空気を時々二人は漂わせていて、時々話し掛けるのを躊躇ってしまう。宮地君が幼なじみとしての月子の顔を知らないように、俺は友人としての月子の顔を知らない。そして、今の月子は俺の知らない月子だった。

羊も哉太も世界に飛び出して、一人きりではないのに俺は少し孤独だ。月子が何だか遠いからかもしれない。買ったばかりのサボをつっかけた月子と最近見つけたベーカリーへ向かう。春の並木道は桜で埋め尽くされていて、花びらが時々頬を掠めた。

「ZYPRESS」
「何だ、それ」
「春と修羅に出てくるの。好きなの、何でかはわからないけど」

月子の髪と、ピアスと、コードが揺れるのを横目に俺は唇を噛んだ。
懐かしいはずの春が苦しくて仕方ない。俺は知ったかぶっていただけで、実際は何も知らなかったんじゃないか?噛み砕けない感情を幾つか野放しのまま、月日はきっとまたあっという間に過ぎていくに違いない。
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テーマ「推しとの恋」
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