「女性が嫌いなんですよね」
颯斗くんは柔らかくなるまでよく煮込まれたポトフのニンジンを飲み込んだ後、白いボウルにブロッコリーを転がしたまま自分の嫌いな食べ物でも教えるように言った。
「特に、頭の悪い下品な女性が鳥肌が立つくらい嫌いです。」
私はその告白にはあ、と答える他なかった。私は彼の嫌う女という性別なので、今まさに貴女が嫌いですと言われたようなものだ。動かしていたフォークを止めて、まだ皿に半分ほど残っているパスタをどうしてやろうかと考える。昼飯時でなくても和やかな空気を上品に、でも胸糞の悪いものに変えるのは彼の十八番だった。
だけども私は図太さには自信があったし、目の前の彼のそういう所にも諦めとも違う何か、言うなれば耐性がつき始めていたので食事を続行する事にした。フォークにパスタを巻き付ける。相変わらず颯斗くんはボウルの中にブロッコリーを転がしたままだった。
「颯斗くんブロッコリー嫌いなの?」
「女性が嫌いです」
「ブロッコリー貰うね」
フォークでぶすりとブロッコリーを刺して、それを口に運んだ。
「行儀悪いですよ」
「ごめんね」
「……どうして、」
貴女なんでしょう、と颯斗くんは頭を抱えた。ごりごりとまだ固さの残るブロッコリーを咀嚼する。ここで口を開こうものならまた行儀悪いと叱られるだけなので私は黙ってブロッコリーを味わっていた。
「実はね、」
「はい」
「私もブロッコリー好きじゃないんだよね」
そう告げると颯斗くんは綺麗な顔をぐしゃぐしゃに歪めて、これが運命なら僕は神様を一生恨みますとうなだれた。
「頭が良くて、思慮深くて、品のあるしとやかな女性は好きなんですが」
「あ、そうなの?私はジョニー・デップが好きだよ」
「ですが」
「だけど」
皮肉にも貴方の隣で生きている。神様、お恨み申し上げます。