悪党ハンター

※みるくビスケット様の悪党ハンターの設定を借りたお話です。こちらの設定を読まないとわかりにくいかも知れません。



「悪党ハンター」
その名の通り、世間に蔓延る悪党たちを捕まえて賞金を稼ぐハンターたちのことだ。神童財閥御曹司、神童拓人もその1人だった。本当なら、親の後を継ぎ平穏で安泰な将来が約束されていた神童だが、正義感が強い為に、親の反対を押し切り、社会勉強と称してハンターになった。
ハンターはグループ活動が殆どである。以前は、エリートハンターだけを集めた大規模グループに所属していた神童だが、そこから各地に振り分けられ、現在はキャプテンとしてグループ雷門をまとめている。
グループ雷門は非常に正統派とされ、悪党を仕留めるにしても無駄な攻撃は一切加えない。ほかのグループから甘いだのぬるいだのと言われることもあるが、そのスタイルを変えることはない。それは、ある新入りのお陰とも言える。その新入りこそ、今の神童の最愛、松風天馬であった。天馬と神童は、恋人である。

話は、天馬が雷門に配属されて数日の頃に遡る。ハンター本部より、乱闘騒動があるとの報告でその鎮圧の為に派遣された。雷門の管轄地区は比較的治安は良いが、それでもこのご時世、子供さえ銃や刀を持つのだから、安全な任務とは言い難い。神童は、腕の立つ霧野と三国、それから新入りで現場経験の少ない天馬と信助を連れていくことにした。新入り2人を入れたのは経験を積ませる為に仕方のないことだったが、こんな世間の闇を知らなそうな幼い2人を連れていくことに、神童は若干の不安を抱えていた。とはいえ上層部の指示もあり、この5人で現場に向かったのだった。

現場は郊外の空き倉庫。神童は愛刀の竹刀を、天馬は弓矢を携えて倉庫の裏口で息を潜める。
今回の作戦はこうだ、二手に別れ、正面と裏口から一気に攻撃を仕掛け、怯んだところを速やかに鎮圧する。無駄な攻撃を好まない雷門お得意の戦術だ。霧野と三国と信助は正面に回して先に突破させる予定である。薙刀という目立つ武器を使う霧野と、籠手だけして拳で戦う三国を突撃させ、その後ろから偽の隠し弾として信助が吹き矢で攻撃をする。その後、裏口から神童が確実に親玉を仕留める。天馬は万が一仕留め損ねたときの援護に就くことになる。
神童は突撃のタイミングを裏口の扉の隙間から覗く。乱闘は悪党同士の喧嘩らしい。十数人の大人たちが殴り合いをしているのが見えた。神童が横の天馬に目配せすると、天馬はこくりと頷いた。それを合図に神童は無線で霧野に指示を出す。

「今だ!いけ!」

バンッと派手な音で扉を開けると同時に霧野と三国が乱闘の中心へと襲いかかる。大人たちは霧野たちに気付くと、乱闘を続けたまま数人が霧野たちに攻撃を始める。しかし霧野はその攻撃を軽やかにかわすと、薙刀の柄で男の鳩尾を突いた。瞬間、男は気を失って倒れた。

「斬りはしないから安心しろ。」

「このクソアマァッ!!!」

仲間への攻撃に怒りを買った別の男が後ろから霧野に殴りかかる。霧野が一瞬「しまった」と思うと同時に男がバサリとその場に倒れた。

「大丈夫ですか!霧野先輩!」

男の更に後ろに、遅れて入った信助が吹き矢を構えて立っていたのだ。信助の放った睡眠薬を塗った吹き矢が首筋に刺さり、男は一時的に気を失っている。

「ありがとう信助。ったく…誰が女だ…」

霧野は倒れた男に一度軽い蹴りを入れてやった。しかし霧野が信助から目を離した隙に、男たちが次々に信助に襲いかかる。毒矢で殺したと勘違いされたようだ。霧野は急いで信助の援護に回る。そして、

バンッ

激しい扉の開く音と共に、神童がリーダー格の男に竹刀で斬りかかる。


「はぁあぁあぁあっ!」

バシンッと勢いよく振り下ろすと、竹刀は相手の脳天に命中し、男は崩れ落ちた。他の男たちも、三国や霧野、信助の活躍により粗方片が付いた。

「よし、これで…」

そう言って神童が踵を返した瞬間、目の前にはまだ意識を持っていた或いは取り戻した男が立っていた。手には日本刀。竹刀を扱う神童が正面から太刀打ちできる相手ではない。

「神童!」

霧野が声を上げたが、霧野は正面口付近にいたので今から走っても間に合わないだろう。男がニヤリと口元を歪めた。

「仲間がこんだけやられて無傷で帰す訳にはいかねぇ。せめて1人くらい殺さねーとなァ……」

ゆらりと男が一歩、神童に近付く。神童はそれに合わせて後退る。神童はもう駄目だと思った。ここで自分が倒れても、霧野の薙刀でなら男と戦える。それでいいと固く目蓋を閉じてぎゅっと歯を食いしばった。

「おりゃあぁああぁあ!!!!」

「ええぇええぇえぇい!!!!」

同時に2人が叫ぶような声がしてドサッと音がする。神童が恐る恐る目を開くと、目の前には男が倒れていた。そして

「大丈夫ですか!キャプテン!」

そこに居たのは矢を何本も束ねて握る天馬だった。天馬がこの男を後ろから攻撃したのだ。神童は気が抜けてその場にへたり込んだ。

「大丈夫か!神童!」

霧野たちはすぐさま2人へ駆け寄った。信助は目をきらきらさせて天馬に話しかける。

「すごいよ天馬!まさか矢をあんな風に使うなんて!」

「矢を普通に使ったら、この人に大怪我させちゃうだろ?」

天馬は周りを見渡した。倒した男たちは全員気を失っているが、血を流すような怪我はない。これが雷門のスタイルであり、神童が決めた信念である。

「この人たちも、ちゃんと話し合えば、乱闘なんかしなくて済んだんじゃないかな…」

「天馬らしい考え方だよね。」

信助と天馬は小さく笑い合った。三国がよくやったと天馬の頭を撫でた。

その横で、神童はカタカタと震えていた。人を傷つけるのを躊躇って竹刀を選んだ結果、危うく自分が死ぬところだったのだ。雷門のリーダーとして不甲斐ない。神童は俯いて身を抱いた。

「…俺は…なんて駄目なキャプテンなんだ…」

「そんなことありませんよ。」

天馬が神童の目の前にしゃがみ込んで顔を覗く。天馬は笑っていた。

「1人で戦おうとしないでください。仲間同士助け合いましょう?今日はそのためにおれがキャプテンと同じ裏口待機だったんですから。」

天馬は震える神童の手を取ると、両手で強く握った。

「…おれ、血を流さない雷門の戦術、すっごくいいと思います。1人では難しいけど、みんなのいろんな戦い方を合わせれば、絶対なんとかなると思うんです!」

神童が顔を上げると、天馬だけじゃない、霧野も三国も信助も頷いていた。神童の目から、涙が溢れた。

「ありがとう…天馬。」


この件をきっかけに、神童は天馬を気にかけるようになった。天馬のまっすぐな性格は神童を強く惹きつけた。やがて神童は慕情を天馬に告げた。天馬は驚いたものの酷く嬉しそうだった。今では神童と天馬は雷門の名物カップルである。

という話を聞きながら、隼総はふてぶてしくジュースを啜った。隼総はアジトで束の間の休息を過ごす中、三波から以上の話を聞いていた。

「ソレ、喜多は知ってんの。」

「言うわけ無いだろ、雷門絡みの話題が出る度に頬なんか染めて…まるで少女漫画のヒロインだ。」

三波は苦笑いしていたが、隼総は気に入らなそうだった。

「…べつに良いけどな。諦める前に乗り換えさせる。」

隼総は小さく呟いた。三波は目を丸くして驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。

「がんばれよー!応援してやる。」

わしゃわしゃと三波に頭を撫でられ、抵抗する隼総だが、先程の不機嫌さはなく、口元には既に笑みを浮かべていた。



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5000打最後の消化は拓天ちゃんです。リクエストくれた佐々凪ちゃんちの長編の派生の筈がオリジナル色が濃くなりました(笑)
佐々凪ちゃんちのこの長編が大好きなので、派生が書けて嬉しかったです。ありがとうございました。



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