太陽と風の詩1

※パロディ


午後7時。当たりが暗くなった頃、太陽はこっそりと病室を抜け出す。この時間は看護婦たちが患者の食事の手伝いをしていたりで、隙だらけなのを知っていた。

「楽勝〜」

太陽は、自分がいないことに気付いた看護婦たちの反応を思い浮かべながらほくそ笑んだ。

病室を抜け出し、河川敷へ向かう。病室で着ているパジャマだけでは寒いので上にジャンパーを羽織ったがそれでも夜は肌寒い。太陽は手を擦りながら、息を吹きかける。

(ま、すぐ温かくなるか)

太陽は河川敷のグラウンドへ駆け下りる。と、そこには誰かのシューズケースがおおよそ忘れ物のように置かれていた。拾い上げると、綺麗な字で『松風天馬』と書かれていた。

(…松風天馬…)

その名前を、太陽はテレビで何度も聞いていた。ホーリーロード出場校、雷門中の攻撃の要だ。その松風天馬の名前の書かれたシューズケースと言うことは、これは彼の物だろう。

太陽はそのシューズケースをベンチに置くと、男子トイレの掃除用具入れに隠しておいたサッカーボールを取りに行く。何故こんなところに置いておくかと言えば、病室にあれば必ずサッカーをしたくなるからだ。

ボールを持った太陽がグラウンドの方へ戻ると、ベンチに誰かが居た。後ろから近付くと、その人が太陽を振り返った。

「あっ。ねぇ!君がここに置いておいてくれたの?」

その人こそまさしく松風天馬だった。太陽はまさか会えると思っていなかったので内心興奮した。

「そうだよ。」

「ありがとう!」

天馬はにこりと笑みを浮かべる。見ず知らずの人間に対しても警戒心をあまり抱かない、それが天馬だった。

ふと、天馬は相手の腕の中に見慣れたものを見つけた。

「それ…君もサッカー好きなの?」

「ああ。そうだよ。」

天馬はキラキラと目を輝かせた。その様子に太陽はきょとんとしてしまう。

「じゃあ!サッカーやろうよ!」

「今から?」

「あ…君はもう帰るよね。今度でいいよ。」

太陽の問いに天馬は口を押さえる。こんな時間に中学生くらいの子がいたら、帰り支度していたのだと普通思う。しかし太陽は首を降った。

「ううん。僕今サッカーしに来たところなんだ。だから相手が見つかって嬉しいよ。」

「ほんと!?」

「ああ。やろうか、…天馬。」

「うん!」

天馬が頷くと、太陽は高くボールを蹴り上げた。天馬はそれを追ってキャッチするとドリブルで進む。太陽はそこへボールを奪いにいく。

そうして30分程走り回っただろうか。ちょうど試合の前半くらいの時間を、2人でボールを追って過ごした。風を切る音を伴って太陽が誰も居ないゴールにシュートを放つ。シュートはまっすぐ決まり、すぐに天馬が太陽の元へ駆け寄った。

「君すごいね!」

「そっちこそ、いいドリブルだったよ。」

パシンッ、乾いた音を立てて2人はハイタッチをする。睦まじく笑い合ったあと、天馬は何気なく時計を見た。時刻は8時に近付いていた。

「うわああ!もうこんな時間!秋ネェ心配してるよな〜…!」

「帰るの?」

「うん!今日はありがとう!バイバイ!」
天馬は慌ててシューズケースを持つと、太陽に向けて大きく手を振った。

「うん、…またね。」

太陽もまた天馬の後ろ姿に手を振った。姿が見えなくなる頃、転がったボールを拾い上げた。

「天馬は、思った通りの奴だったね。」

太陽は、興奮覚めやらぬまま病院に戻った。病室では、眉を釣り上げた看護婦が待っていて、こっぴどい説教を受けたのだった。


一方天馬は家に着き、秋の心配したという話を聞きながら部屋に入った。部屋ではサスケが天馬を待っていた。

「ただいま、サスケ。」

天馬はサスケを撫でる。サスケは気持ちよさそうに鼻を鳴らすと、天馬にすり寄った。

「聞いて!今日すっげーサッカーの上手い子に会ったんだ。本当に強かったんだよ?」

天馬は、どうしても誰かに話したかった興奮をサスケにぶつけた。サスケはわかっているのかわかっていないのか鼻を鳴らして聞いていた。

「…名前、聞きそびれちゃったなぁ。」

天馬は、ぽつりと漏らす。ふと、名前を呼ばれたことを思い出した。

「そういえばおれの名前、何で知ってたんだろ。ケースのを見たのかな。」

シューズケースを拾ってくれていた。ケースには秋の綺麗な字で名前が書いてある。そのせいだろうと納得しながら、天馬は太陽のことを思う。

「また会いたいなぁ…」

窓の外を眺めながら、天馬は不思議な少年との再会を期待した。



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5000打リクエスト雨天
これだけで読めるようイメージしたけど、一応続きも執筆中。長くなりそうなので一旦ここまで。

もずくさんリクエストありがとうございます!ハッピーエンド目指して続き書きますね〜

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