その日は一等寒さが厳しい日だった。苦渋の表情を浮かべる審神者の前には式神の管狐の姿があった。初めは不気味だと感じたが、時間が経つにつれて慣れたのか当たり前だと思っていたその何も写さぬ顔が、今日ほど気味の悪いものだと感じたことはない。


「あの少女は行ってしまわれたのですね」
「あ、ああ…知っていたのか。まあ機密には触れていない一般の人間だ。問題ないだろう」
「時の政府側は魔法少女の存在は認識しておりましたが実態が掴めず野放しにしている状態でした。しかし此度の刀剣男子と魔法少女の接触により何かが掴めるのではないかと考え黙認しておりました」
「!!」
「就きましては、少女及び魔法少女について出来得る限りで構いませんので報告書を上げて頂きたいとのお達しでございます」


確かにもしかして、と思案したがここまで知られていたのかと驚愕するばかりであった。しかしそれならば何故今更報告書などを要求してくるのだろうか。審神者は驕りではなく確かに相応の地位を持っていた。発言権も有れば、審神者同士のであるが、上位の者とのラインも獲得している。その様な事を政府が知りもしない訳がない。また、この件を広めれば政府への不信感は更に募るばかりだというのに。


「魔法少女の存在は我々と歴史修正主義者との戦いを大きく揺るがす存在にも成り得ましょう。そして御味方となればそれはそれは心強い存在となりましょう。政府はそう判断付けています。そうなれば、我ら時の政府も、審神者の皆様方も好都合となりましょう」


矢張り魔法少女の存在を手先としたい思惑はあるようだ。それに――政府は脅し付けてきているのだ。自分の為にも従っておけと、そう。審神者は苦虫を食い潰したような表情を浮かべながら是と答えるしか手立てが見当たらなかった。


「ところで、三日月宗近の様子はどうでしょうか。政府は三日月についても思慮しておりました」
「いや――変わりはないようだ」


そうですか、と返答した管狐は常套句を口にして帰っていった。机上で頭を抱え大きな溜息をついた審神者に長谷部は何時ものように茶を出すことしかできなかった。――こうして魔法少女なる異形の存在と邂逅した本丸は、日常へとその身を埋めていくこととなる。戦争は未だ、終結する気配の見せないまま。




後書き
160314