寒い時は身を寄せ合って、寂しい時は慰め合って、辛い時は励まし合って。そうだなぁ……人間の愚かな所って一人じゃ生きていけない所?


「それは違うよ」

「っ」


その声に振り返ればフェイが眠たそうに目を擦りながら立っていた。独り言を聞かれていた事、こんな時間にフェイが起きてきた事、ボクは吃驚して思わず読んでいた本を閉じてしまった。


「フェイ、こんな時間にどうしたんだい?」


それからなるべく平静を装ってフェイの方へ近付けばまだフェイは微睡んだ瞳を細めてへらりと笑ってみせた。恥ずかしがる子供のように眉を垂れ下げてふらふらとボクに抱き付いて来る。


「さっきからサルが子供みたいな事言ってるから」

「子供みたい?」


いつものツインテールは解かれて今まで布団の中にあったからかフェイの体はあったかい。ぎゅっと体をくっつけてくるフェイの頭を撫でてやれば嬉しいと言わんばかりにおでこを僕の胸元に擦り付けて来る。ほら、こんな仕草とか、ボクに言わせればキミの方が子供みたいだと思うけど。


「サルは全然分かってない」


顔を埋めてるせいかよく聞き取れない声でもごもごとフェイが呟き始める。


「大きなかぶは皆で力を合わせて抜くだろ?」

「え?」

「あと、ほら…小さい魚が大きい魚をやっつけるとか」

「……」


何の事だろう。そう思いながら話を聞いてみるもボクには理解出来ない事ばかり。大きなかぶだって頑張れば一人で抜けるし、小さい魚だって頭を使えば大きい魚をやっつけられる。過去にタイムジャンプして何か絵本でも読んだのかな。


「フェイらしくないね」


思わず本音を漏らせばむっとした表情で睨まれた。でも本当、前まではそんな健気な事言わなかったのに。あ、寝ぼけてるのか。……なんて、ボクはフェイが妙にしおらしい事を言う違和感に適当な理由付けをして自分を納得させる。だけど早く寝た方がいいんじゃないかってそう言えば何故かまた睨まれて。どうすればいいものかと手持ち無沙汰にフェイの髪を梳いてみればついさっきまでボクを睨んでいた瞳が気持ち良さそうに細められる。


「サルはまだ寝ないの?」

「え?」

「眠れないなら僕が一緒に寝てあげるから」

「ボクは子供じゃ…、……」


ボクは子供じゃない、そう言おうとした途中で言葉が出て来なくなった。フェイの優しい笑顔に、ボクが眠れなくて本を読んでいた事も全部見透かされているような気がしたから。


「ね?」


人間の愚かな所。一人じゃ何も出来ない所。無意識に誰かの温もりを求めてしまう所。だけどそんな愚かな人間らしさに、たまには呈してしまってもいいのかな。


「……しょうがないな」







バレリアンと眠れぬ夜
(valerian)
(バレリアン:鎮静剤)







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3/1〜3/31のアンケートで1位だったサルフェイ。


(130429)



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