君の笑顔を見るだけで


俺と、付き合ってくれない、か?

俺が彼女に告白したのがつい数日前の話。そして、彼女と付き合い始めたのもつい数日前。

俺には可愛い“彼女”が出来た。


「拓人君!」


ふわりと綺麗に笑って彼女は俺の名前を呼ぶ。その度に胸が締め付けられた。上で一つに結ばれた黒髪がサラサラと動く。全てが可愛くて、愛しいと思わずにはいられなかった。


「琴音」


彼女の名前を呼べば、嬉しそうに遠くから走ってくる。そんなところも可愛くて仕方ない。ニコニコ笑いながら彼女は俺の傍まで来る。


「今日は機嫌がいいな」


彼女の頭を軽く撫でながらそう言えば、彼女は幸せそうに笑いながら、だって、っと言葉を紡ぐ。


「拓人君の顔みたら嬉しくって!」


彼女は、ふわりと綺麗に微笑む。そして俺の心臓はわしづかみされたような感覚に陥る。


「まるで口説き文句だな」

「えっ、ほっ本心で言ったんだけど」


慌てる彼女を見れば、自然と笑みが溢れてくる。彼女は俺の言葉だけで一喜一憂してくれる。本当…可愛いな。


「ありがとうな、嬉しいよ」

「うっ、うん」


一気に彼女を抱きしめたいという衝動が沸き上がる。おしいのは、ここがサッカー部員が沢山いるサッカー棟の中じゃなかったら、よかった。それだけだ。


「神童、練習始まるぞ。いちゃついてないでさっさと来いよ!」


ふと通り掛かった霧野が俺を見つけて叫ぶ。わかった。そう言い返せば霧野は先にグラウンドへ向かう。


「じゃあ、俺先に行くよ」

「うん。私も用意したらすぐに行くね」


彼女はそう言うと、俺に背を向ける。なんだかその姿が寂しそうだった。だから、俺はとっさに言葉を発する。頭の隅で後で霧野にどやされるんだろう、と思う。


「琴音」


彼女は、なに?っと言いながらばっと振り向く。


「やっぱり、待ってるから」

「うんっ!」


彼女は、急いでマネージャーの荷物を取りに行き、すぐに俺のところまで戻ってきた。まるで犬みたいだ、そう思うと思わず笑みが零れる。


「拓人君、なに笑ってるの?」

「なんでもないさ。ほらっ、行くぞ」


彼女から荷物を無理矢理受け取り、自身の右手を差し出す。そうすれば、彼女はえっ、えっ?としどろもどろになる。そして、琴音。っと名前を呼ぶと彼女はゆっくりと左手を差し出し、俺の右手と重ねた。


俺達は二人一緒にグラウンドへ向かう。彼女の顔はどこか恥ずかしそうで、そんな彼女に俺はキュンッと胸の奥が疼いた。そして彼女と繋がれている手を少し強く、握った。


「拓人君、そろそろ…」


もう少しでグラウンドに着く。恥ずかしがり屋の彼女は他の奴にこんな所を見られるのは極端に嫌がる。だから俺は渋々持っていた荷物を彼女に渡す。この前荷物くらい持っていくと言えば、ダメだって怒られたからだ。(怒った時の顔も可愛かったな…)


「拓人君、練習、頑張ってね」


あぁ、そう一言返す。笑顔で言ってくれる彼女の姿にまた惚れなおす。あぁ…こんなに人を愛おしいなんて思うとは思わなかった。そして少しでもいい。手だけでなく、彼女に触れたいと思った。


「琴音」

「んっ!」


名前を呼び俺に目線を移す彼女に一瞬、触れるだけのキスを落とした。そして彼女から手を離す。


「また後でな」


ダッシュでその場を離れる。頭の中には先程の顔を真っ赤にして驚く彼女の姿。その顔を思い出すだけで自然と笑みが零れた


【君の笑顔を見るだけで】
俺が俺で無くなるんだ
(眩しい君の笑顔は)
(俺を少しずつ狂わせる)

END

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