好きの意味、知りました
恋愛とか愛ってなんだろうね。そうクラスメイトに聞けば馬鹿にされたように笑われた。疑問に思って何が悪いのだろうか。実際私は恋だの愛だのそういった経験がないので全くわからないのだ。
恋っていうのは、人それぞれで感じ方が違う。実際答えは数えきれないほどある。いや、もしかしたらないのかもしれない。
だから今私の胸の中で渦巻いているこの感情は、それと呼ぶのに等しいのかさっぱりわからなかった。
「…どうしたんだよ琴音」
「あぁー、ううん。なんでもない」
「難しい顔してたのに何もないのか?」
「考え事よ、考え事。」
「へぇ…琴音でも考え事なんてすんだな」
失礼な奴だな。そう言えば、蘭丸がケタケタと笑いながら私の隣に座る。
「で、何考えてたんだよ、琴音」
蘭丸が私の顔を覗き込む。ピンク色で羨ましい程さらさらな髪がふわりと舞う。そして碧色の瞳が私を捕える。その瞬間、なんだか胸が締め付けられて、上手に呼吸ができなくなり、体温が上昇する。
最近、彼を見るたびこんなふうにおかしくなる。もしかしたら病気なんじゃないかって思った。けど、この前この事をサッカー部のマネージャー友達の水鳥、茜、葵ちゃんに聞いてみた。三人は顔を見合わせてニヤニヤしながら答える。
大丈夫、病気じゃないよ!琴音は霧野が好きなんだよ
そう言った彼女達の言葉に、私は目が点になった。蘭丸の事が…好き?いや、有り得ないよ。けど翌々考えれば、最近、蘭丸とちゃんと接する事が出来い。たまに自分から避ける事がある。
もしかしたら、だけど…多分、これが恋ってもなんだろう。こんな感情、生まれて初めてだ。嬉しい気持ちと、戸惑いの気持ちでいっぱいになる。頭の中が爆発寸前だ
「…ねぇ、蘭丸」
「ん?」
「恋とか、好きって、なんなの?」
「は?」
目を丸くして驚かれてから、これでもかってくらい笑われた。私はおかしい事を言っただろうか。首を傾げながら、目をぱちぱちさせる。なにか答えが返ってくるのではないかと期待の視線を蘭丸に送る。
好きな人本人に聞くなんて私もどうかしてると思う。だけど、蘭丸に聞いた方が早いような気がした。
拓人とか南沢先輩とか、サッカー部員に聞く事だって出来た。だけど、きっとこれは私にとってすごく大切なこと。だから直接彼自身に聞くのだ。
「まさかお前からそんな質問されるなんてな」
蘭丸は何故か苦笑し、腕を組む。
「なんだ?ついに好きな奴でもできたのか?」
「…わかんない…」
「いや、お前自身のことだろ?」
「よく分からないから蘭丸に聞いたのよ。」
なんか少しムカついて、ムスッとしながら言ってしまった。早くこのよくわからない気持ちの正体を知りたい。
そして、できれば消し去りたい。だってもしこれが所謂恋だとしたならば絶対叶わない。だって、私と蘭丸では釣り合わない。蘭丸のことを恋愛対象として見ていたなら今までの関係が、音を出しながら崩れていってしまうに違いない。
いつもみたいに接する事が出来ないかもしれない。もう一緒にいてくれないかもしれない。…それは何んだか嫌だった。
蘭丸との関係を壊したくはなかった。だから、もしこれがそれという感情ならば胸の中にしまい込んで忘れてしまおうと心に決めた。
「…俺の考える好きは…」
蘭丸は少し考え、そして口を開いた。
「誰かに渡したくないって思うし…」
「うん」
「触れたいって思う…」
うん、そう相づちしようと思ったら蘭丸がいきなり私の頬に手を添え始めた。えっ…っと声が漏れる。
「それと、そいつの全部を俺の物にしたいって思う。」
そう言うと、いきなり視界がピンク色へと染まった。何が起こったんだろうか。思考がついていかない。…何かあたってる、唇、に。視界が近すぎて、どうなっているかわからない。分かるのは何か柔らかくて、暖かいものが…
そして、瞬間的に気付く。これはもしかして蘭丸にキスされているのではないかと。そうと知ってしまえば疑問ばかりがふつふつと沸き上がる。
え、えっ…ななな、なんで蘭丸が!?
もう何がなんだかわからなくなった。頭が、働かない。
「俺の好き、分かったか?」
悶々とパニック状態になっている私から唇を離して、しっかりと視界に入った蘭丸がやんわりと笑う。
「お前が誰の事を好きかなんて知らねぇけど…」
私の鼓動は更にどくどくと脈を打つ。蘭丸が何を言ってるのか分からない。
「誰にもやらねぇぞ。お前の事」
そう言って蘭丸は私の目の前からいなくなった。頭の中が真っ白になる。ただ、無性に唇が熱くて、身体も火照ってる。
先程蘭丸に触れられた唇を自分の指先で触れてみる。
「…(蘭丸の唇…柔らかかった…)」
ドクドクと脈打って、先程の蘭丸の言葉の意味も二の次で…考えるのは全く的外れで馬鹿みたいな事だった。
【好きの意味、知りました】
次はこの思いの伝え方
(早く、この気持ち)
(貴方に伝えたい)
END
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