真選組鬼の副長と言われている土方十四朗…さん。彼が私の好きな人なのだけれど、どうしてあの人を好きになったのか、最初はよく分からなかった。目つき悪くて、常に瞳孔開きまくり。口だって悪い。オマケに…マヨラー…。 最初は怖くて仕方なかった彼だけど、いつの間にか好きになっていた。恋に上下も何も関係ないとはいうが、彼のただの部下である私が、彼とつりあうはずもない。 女中の友達に話せば、考えすぎ!といつも言われる。けど、やっぱり考えてしまう…。本当、馬鹿だ。なんで好きになっちゃったんだろ… 『はぁ…』 「なに溜息ついてんだオメェ」 『へっ?ってふっ副長!?』 溜息をつきながらトボトボ廊下を歩く私の目の前には土方さん…。 「なに、驚いてんだよ名前?」 『おっ驚いてなんか…!すっすみません、失礼します!!!』 「…なんだ、あれ?」 その場から逃げだし、私は自室まで全速力で帰ってきた。何逃げてるの?絶対怪しいじゃん。私のバカバカバカ!! 『逃げたのはまずかったよなぁ…』 うなだれながら布団に包まる。私の心臓は今だにバクバクと鼓動を打つ。全速力で帰ってきた所為か、彼に会った所為か…。どっちにしても、胸が苦しいのは変わらなかった。 そして、次の日。いつの間にか寝てしまった私は布団から起き上がる。少し体を伸ばして外の方を見れば、また薄暗い感じ。6時前くらいだろうか。 『外の空気、吸おう』 このまま寝るにも中途半端な時間な為、私は部屋から出て、外の空気を吸う。まだ春な所為か少し空気が冷たかった。 そんな朝の頓所に竹刀の音が聞こえてきた。こんな朝早くから誰が?と疑問に思った名前は道場へ足を向けた。 「クソッ…」 道場で稽古をしていたのは土方だった。いつもの落ち着いた感じではなく、どことなく苛々した様子だ。彼の苛立ちの原因は部下である名前にあった。何故アイツは俺を避けるのか。それが苛立ちの原因だった。 「ちっ…」 いつもなら竹刀を振れば落ち着くはずの気持ちも今日に限っていっこうに落ち着く様子もなかった。土方は道場を出ようとした瞬間、襖が開いた。そこには先程の苛立ちの原因である名前の姿…。 『えっ、ふっ副長!なっなんで…。あっ、すっすみません!稽古中でしたか』 確かに聞こえた竹刀の音の正体に名前は驚きを隠せなかった。なぜなら土方は夜勤の次の日は朝稽古をしないからだ。しかし、確かにここに、いる。 「ん?あぁ、気にすんじゃねぇよ。もう終わるとこだったしな」 そう言いながら土方はマヨネーズ型のライターに火を付けタバコを吸う。 『でも…すみません、副長やっぱりお邪魔だと思うので、失礼し「待て、名前」へっ?』 道場から出ようとした所を呼び止められ、立ち去るのを止められる。 「なぁ名前オメェ最近なんで俺の事避けてんだ?」 『さっさけてなんかいませんよ!副長の気のせいでは?』 私が副長避けているというのは嘘ではない、だって、会って話すだけで胸が締め付けられるような思いでいっぱいになってしまうからだ。今だって、もう頭の中ぐちゃぐちゃでわけわかんなくなっている。 「嘘だろ」 『嘘なんかじゃないです!』 断固となく拒否する名前にまた土方は苛々し始める。その理由は分からないが…。 「チッ、理由ぐらい言えねぇのかよ…」 『す…みませ…っ…』 面倒な女だと思われてしまったのかもしれない。そう思うと、目尻が熱くなって…涙が出そうだった…。嫌われた…そんな言葉が頭の中を駆け回った。 「っ…」 『!!ふ…く、ちょ…う』 一瞬にして、身体全体が温かい感覚に襲われた。何が起こったのか、全く分からなくない。 「たく、なっ泣くんじゃねぇよ名前」 名前は土方の声を聞いたとき、ふっ…と我にかえった。その瞬間、自身が土方に抱きしめられてることを認識した。 『ふっ副長!?』 土方は何故自分がただの部下である名前を抱きしめたのか、自分でも分かっていなかった。だが、泣きそうな顔を見るのはもっと、嫌だった。そして勝手に体が反応して名前を抱きしめてた。 『あっ、あの副長!離して下さい!』 「………」 『ふっ副長?』 このモヤモヤした気持ちが、いったいなんなのか…土方はよくわからなかった。が、とりあえず泣き顔が無くなった事に土方は安堵する。 「おい、名前」 『ははは、はいっ』 真っ赤になりながら、これでもかというくらいに吃る名前を見て、軽く笑う。 「まぁ、とりあえずお前が理由言うまでこのまんまな」 『へっ、ちょっ、副長!』 「るっせぇ、命令だ」 とりあえず、このまま暫くコイツを抱きしめておこう。はっ、なんでかって?わかんねぇけど、こうしてたら苛々も全部消えていくから。 【行き着く先は】 まだまだ、分からない。 (副長、はっ話して…) (そんじゃぁ理由言えよ) End |