初夏の夜…暑い夏を知らせるように虫たちが鳴いている。その中でおもむろにアイスを頬張りながら、一人の少女がブランコに乗っていた。


『…夏なんて、嫌い…』


少女は夏が嫌いだった。なぜなら彼女には夏にいい思い出など何もなかったからだ…。苦しく悲しい思い出が…毎年、毎年夏になれは彼女を襲う。

少女はそろそろ帰ろうと、ブランコから降りる。ファンファンっと、パトカーの音が近くから聞こえる。


『最近パトカー多いなぁ…』


少女はあまり気にせず、ゆっくりと出口へと歩いて行く。そんなときだ、ゾクッとした感覚が少女を襲う。


『えっ…だ…れか…いる?』

今の感覚がなんなのかわからない。ただ誰かに…いや餓えた猛獣に睨み付けられている…そんな感覚が身体を縛り付けた…。恐怖と共に、バッと後ろを振り向く。


『っ!!』


そこにはキセルをふかしながら少女がさっきいたブランコにもたれながらこちらを見ている人がいた。


「ほぅ…俺に気ずくたぁなァ」


ニヤリ…そんな効果音がつきそうな不敵な笑みを浮かべている…


『あっ貴方誰なんですか』
「俺か、高杉晋助だァ」


高杉晋助…彼はそう名乗った。派手な着物着流して片目には包帯。野獣なような、目…。少女の胸がトクンっと高鳴る…。


『た…かす、ぎ…?』

「あぁ…」


この人は危ない。頭の中でサイレンが鳴り響く。近づいてはいけない。関わってはいけない。だが、そう思っているのに、少女は小さな好奇心をもちながら、男に話し掛けた。


『あっあの高杉さんはなんでこんなところに…』

「暇つぶしだァ」

『なら、私と同じですね』


微笑む少女を見て、男は凍りつくような、ゾクッっとした感覚を感じた。孤独を知っている目。男は思った。コイツは俺に似ている、と。


『高杉…さん?』

「っ!!」


男はハッと我に返り、少女を見る。何を考えているか分からない。少女は思った。


「女…名はなんてぇんだ」

『私…ですか?私は…「いたぞ!!高杉だ!!」真撰組?』

「チッ…女、待たなァ」

『えっ!?あっ高杉さん!?』


真撰組が来たとたん男は少女の前から居なくなった。夢みたいな時間に少女はただ我に返る事が出来なかった。しかし、この場にいてはいけない。そう頭の隅で思ったのだろうか。真撰組が来る前に少女は逃げ出した。

あの男に、疑問を持ちながら…。そして、会いたい…そう思いながら…。

その後、少女は男と会った公園に毎日来ていた。こんな事をしても意味が無い。そんな事は少女には分かっていた。だが、もしかしたら…そんな気持ちが少女を此処へ招く。

毎日、毎日。ただあの男に会いたいと少女は思う。少女自身なぜなのか分からない。だか、本当のところはただ寂しいだけなのかもしれない。いつも一人でいるから、誰かを求めている。そして偶然その相手があの男だったのだろう。そう、思った。

そして、特に今日はいつもよりも寂しいと感じていた。なぜなら少女の両親は今日亡くなったからだ。


『会いたいよ…高杉、さん…』


少女の声は夏の闇夜に消えていく。


『高杉さん…』

「呼んだかァ」

『っ!?』


少女が後ろを振り向くとそこにはあの男がいた。前と変わらないあの笑みで。

「久しかたぶりだなぁ女ァ」

『なっなんで…』

「なんでだ!?言っただろう…「待たな…」ってなァ。それに俺ァ、オメェの名をまだ聞いてねぇ」


そうでしたね、っと少女は苦笑いを浮かべた。その笑みは前よりも悲しみに染まっているよいに男は感じた。


『高杉、さん』

「なんだ?」

『高杉さんは攘夷志士、なんですよね』

「あぁ。なんだぁいきなり。」

『いえ、攘夷志士にも高杉さんみたいな人がいるんだなって思って。』


男は、どういう意味か。と問う。すると少女は悲しそうな顔で話し出した。数年前の今日、少女の両親は天人の所為で亡くなった。その時、近くには攘夷志士も、真撰組もいたのに、誰も助けてはくれなかったのだ。だから少女は天人を、真撰組を、攘夷志士を憎むのだ。


『た、た…かすぎ…さっ…っ…』


男は何も言わず少女を抱きしめた。言葉も、何も言わずに。攘夷志士である高杉だが、大切な人を殺される気持ちは痛い程分かるからだ。

少女は何を感じ、どう思ったのかはわからない。だが、子供のように泣き出した。今までの悲しみを全て吐き出すように…。そして、数分後…。


『高杉さん、ありがとうございました。』

「もういいのかァ」

『はい。お蔭様で大丈夫です!』

「そうか…よかったな、名前」

『はい!……ってなんで私の名前知ってるんですか!?』

「さぁ、なんでだろうなァ」

『まぁ、なんでもいいですけど…』


少女は小さく笑う。その顔はどこかすっきりとした様子だ。


「…そろそろ時間だな…」


男がそういうと、数人の男達が、二人の前に現れた。誰か分からないその男達に驚きながら、少女はこれでお別れなのだ。そう思った。


「なぁ、名前よ…おめぇはこの世界を壊したくはないか?」

『え、高杉、さん…?』


俺はニヒルに笑う。


「今日はオメェを迎えに来たんだ」

『迎え…?』

「憎んでんだろ?この世を。なら俺がお前の為に壊してやらぁ。だから、俺のもんになれやァ」


確かに少女は天人を始めとするこの世界を憎んでいる。だが、壊したいとは思ってはいなかった。それは今でも同じ。だが、今この手をとらなければ、一生後悔する。少女はそう思った。


『は、は…い!』


怖い気持ちは確かにある。だが、それ以上に心を男に奪われた少女に迷いはなかった。そして少女は男の手をとった。

【温かい人】
だって、こんな私を近くに置いてくれるのだから。


End




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