(綱吉+10)


君の辛さや悲しさを俺に預けてよ。お願いだから、一人で抱え込まないで欲しいんだ。


「いやっ、触らないでっ…!」


ばし、と乾いた音が部屋に響いた。そして、後に頬に感じる痛みと熱。俺が叩かれた頬に手を遣ると、瑞希は、ばつが悪そうに目を逸らした。


「瑞希」


それでも俺は優しく彼女の名前を呼ぶ。瑞希はびくりと肩を跳ねさせたがすぐに俺を睨み、噛んで吐き出すように呟いた。


「ボス…お願いほっといて…」

「それはできないよ」

「な、んで…」


来ないで、触らないで、私に構わないで。そう言って瑞希は俺を拒絶する。彼女は、不安になったり、誰かを暗殺する仕事が入るとこうして他人を遠ざける癖があった。

いつもいつも明るく振る舞って、ファミリーの皆の中心でいる反動なのか、一度こうなると治まるまでがとても酷いのだ。

ボンゴレに…いや、中学に入る前の彼女…つまり、俺達が出会う前の彼女に何があったのかは知らないし、調べようとも思わない。知ったところで過去を変えられるわけでもないのだから。

ただこうなってしまう理由はきっと過去の出来事が原因なのだろうと、なんとなく理解できた。


「一人ににしないで…!私を置いていかないでっ…!」


また、そう言って彼女は泣く。


さっきの言い分とは矛盾しているけれど、本心は恐らく後者なのだと思う。だけど俺は、ボスとして、一人の男として傍に居てやることしかできない。強がりを受け入れてしまったらそれこそ瑞希は独りになってしまう。


「大丈夫だよ」

「嘘っ!どうせ私なんか誰も必要としてない!」

「瑞希、」


彼女の身体を押さえ付けるように強く抱きしめる。だけど、彼女はフラッシュバックでも起こしているのか余計に激しく暴れる始めた。こんなに近くにいるのに今の瑞希には俺が見えていない。

昔から、彼女を一番近くで見てきたのに、俺は彼女の為に何もできないのかと己の無力さを痛感する。

なおも抵抗を続ける瑞希の爪が頬を掠めたけれど不思議と痛みは感じない。流れ出る血なんて気にも留めなかった。乱れてぐしゃぐしゃになった髪を優しく撫でてやる。すると瑞希動きを止め、いっぱいに涙を溜めた黒い瞳が俺を見上げた。

「っく…、私、こわ、い…よ…ツナぁ」


いつもはボスと呼ぶ俺を昔のあだ名で彼女は呼んだ。そして俺に縋り付いてぼろぼろと泣き崩れた。

俺はせめて抑えられない感情だけは受け止めてあげたいと思いの丈を込めてきつくきつく、彼女を抱きしめる。いつか彼女が、縛り付けられたこの悲しみから解放されるまで。


「瑞希、俺はここにいるから」


彼女は声が枯れるのでは無いのかと思う程長い時間思いっきり泣き叫んだ。


【君のその悲しみを】
俺も一緒に受け止めるよ
(俺は痛くてもいい)
(だって君はもっとつらいんだから)

END


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