月明かりが姉さんを照らした。その光はいつにもまして怪しく輝いた…
「姉ちゃん、こんな所に居たんだ」
真夜中、トイレに起きた綱吉はなんとなく姉である瑞希の部屋を覗いた。ベッドにいるはずの愛すべき姉の姿は無い。どこにいるのだろうか…そう思いながら綱吉は外を見た
外を見ると、月明かりに照らされて、下に誰かの影が写っていた。恐らく、これは姉さんだ。綱吉はそう思った。少し躊躇いながら、窓から屋根に移り、上を見ると案の定、そこには姉の姿があった。
『あっ、ツナ…。ツナも眠れないの?』
瑞希は、呼び声のする方を振り返って小さく笑った。瑞希は真夜中になるといつもよりも悲しそうな顔をしている。それを分かり始めたのは最近…リボーンが来てからだろう。
「姉ちゃん、横…いいかな?」
『うん、いいよ』
その言葉を合図に、綱吉は屋根の上へひょいっと上った。いつもならここで、ダメツナの様に落ちる振りなりいろいろとやるはずだ。だけど、今日の綱吉はそんな事は何も考えていなかった。ただ、何か可笑しい姉の傍に一秒でも二秒でも一緒にいたいと思ったからだ
「どうしたの?寝不足だと明日の生徒会の仕事大変なんじゃない?」
優しい声がじんわりと瑞希の胸に染み渡った。ただ少し寝苦しいだけだったのだけど、本当の所は自分を探しに来てくれる誰かを待ちたかったのかもしれない、と瑞希は思い、そして笑った。
『ふふっ、大丈夫だよ。ツナが来てくれた…だからもう寝るよ。』
「なんだよ、それ」
二人で顔を見合わせて笑い合う。姉弟という関係で今までずっと過ごしてきた。けれどそれはいつからか、綱吉は瑞希に恋心を持ってしまった。
姉としての瑞希と、弟としての綱吉
結ばれないのは重々承知の上だ。ましてや姉さんは雲雀さんの事が好きだから、俺が姉さんに抱く気持ちはただ邪魔なだけだ。もし、俺が姉さんの事を好きだと…いや、愛していると伝えたら…このかけがえのない関係が変わってしまうのが怖い…だから綱吉は何も言わない。
『ツナ、ありがとうね』
「えっ、何が?」
『見つけて、くれて…』
瑞希は今までずっと一人でいるように感じていた。大切な人も弟も、家族も仲間も友人も…。自分のせいで、大変な事に巻き込んでしまうのではないかと思ったからだ。だから、一人でいることを願って、そして寂しさのあまり誰かに傍にいて欲しいと願った
一人でいるなんて悲しい事を自ら望んだ。それなのに誰かを求める。自ら望んだ事なのに…本当、ただの我が儘だ…
『私ね、ツナが私の弟で、本当に良かった。』
瑞希が夜空を見上げながらなんとなしに呟いた。少し冷える夜の空気を吸い込んで、じっと星を見つめている。そんな瑞希の横顔に綱吉は目を奪われた。
いつからだろう、姉さんをこんなに綺麗だと愛しいと思うようになったのは…。綱吉は片手を伸ばして瑞希の手に重ねた。
『ツ、ナ…?』
目線が合うと胸が高鳴る。綱吉が僅かに微笑んで重ねたその手を自身の方に引き寄せる。
「姉ちゃん…」
伝えたい。だけど、この思いは絶対に伝えられない。そのもどかしさを誤魔化すように、ぎゅっと瑞希の体を抱き締めた。辺りは静かで、周りには他の誰も居ない。
「俺も、姉ちゃんが俺の姉ちゃんでよかった」
『つ、ツナ?』
体と体が密着していて、この早い鼓動が綱吉のものなのだという事はすぐに分かる。瑞希は綱吉のこの行動に意味がわからなかった。だけど、傍に居てくれる大切で愛しい弟が綱吉でよかったと心から思った
『ツナ、ありがとう、大好きっ!』
ぎゅっと瑞希からも抱き返され、綱吉の体温が再び上昇した。瑞希の言うこの“好き”という単語は弟としての好きなのだと綱吉は理解している。
だけど…とても嬉しかった。
いつもはこの言葉にどれだけ苦しんでいるかは分からない…だけど今日は違った。ただ、嬉しいと思った
少しして、抱き合っていた二人は離れて満面の笑みを浮かべた。綱吉は思った。あぁ、この笑顔に皆惹かれていくんだ。勿論自分も…ずっと、ずっと昔から。
「姉ちゃんは太陽みたいだね。」
『私が太陽なら…ツナは月だね」
「月?」
不思議そうに首を傾げた綱吉に瑞希は得意げに頷く。
『月の光ってすごく落ち着くでしょ?静かで、柔らかくて…頼りになる…。ツナみたい。』
なんてねっと言いながら照れたように笑った瑞希に、綱吉の胸をざわめかせた。
好きだと、愛してると…口にしてしまいそうになるくらいどんどん気持ちが大きくなっていくようだった。
「ねぇ、もし姉ちゃんがピンチな時は、俺が姉ちゃんを守るからね。」
『ふふっ、期待してるよ、ツナ』
じゃぁ約束ね、と小さく笑って二人は小指を重ねた。
【太陽と月】
姉さんは、俺を月だと言った
けど、姉さんは太陽も月も両方持ってる
(小さく笑う姉さんは…)
(世界を照らす太陽にも)
(闇を照らす月にも見えた)
END
2010.11.13