一騒動あったその日。綱吉は瑞希の部屋へと来ていた。昼間の瑞希の様子が気になったからだ。
「姉ちゃん、ちょっといい?」
綱吉はノックをして、そっと瑞希の部屋に入る。目に入ってき来たのは、やはりどこか様子が変な姉の姿だった。
『ツナ…どうかした?』
「あっ、いや…その」
このままいきなり聞いていいものだろうかと少し不安になる。だが、今はそうも言ってられない。綱吉は意を決して口を開く
「姉ちゃんの様子が変だったから、気になっちゃってさ」
『あー、そんなに変だった、かな』
苦笑いを浮かべる瑞希を見て、綱吉はやっぱり。と思った。まぁ、何が理由かは分からないのだが。
「少し、だけ…」
『そ、か…ねぇ、ツナ』
「ん?」
瑞希はどこか重たい雰囲気で綱吉を見ながら、問う。
『ツナはさ…私の事、どう思ってる?』
唐突にきた質問に綱吉は困惑した。何故そんな事を聞くのだと思った。そして一気に不安にな気持ちと、どこか期待している自分がいる事に気付く。
「なんで、そんな事…」
『隼人が、ビアンキの事嫌いって言ったでしょ?私も、ツナに嫌われてるのかなって思うとなんだか、ね…』
落ち込んだ雰囲気のまま瑞希は笑っていた。その姿がどこか儚げで、不確かな物に思えた。
「姉ちゃん…」
『つ、な?』
変なモヤモヤとした気持ちが綱吉を襲った。そして不意に瑞希を抱きしめた。まるで彼女がそこにちゃんといるのだと確かめるかのようだった
「俺は、姉ちゃんが、大好きだよ」
秘めた気持ちを隠しながらも、今一番彼女が必要としている言葉を発した。この言葉に嘘は何一つない。いや、偽りがあるとすれば、気持ちの大きさの違いだ。
綱吉は、瑞希が大好きだ。いや、愛してると言えるくらいだ。愛おしくて、壊してしまいそうになるくらいに自分のモノにしたいと思っている。
だが、そんな事を言えるはずもなく、綱吉は表面の気持ちだけを述べた。それでも瑞希の気持ちを元に戻すには十分な程だった。
『ツナ…ありがとう。私も、ツナが大好きよ』
いつもの優しい笑みを浮かべる瑞希を見て、綱吉は少しドキッとした。そして、同時に複雑な思いを抱く。
自分の言う“好き”と瑞希の言う“好き”の意味合いの違いに、だ。それを理解しているのは、今ここにいる中では綱吉だけだ。
これがもし、二人とも姉弟愛で終わらせられるのなら、これほどまで苦しむ必要ないのに…綱吉はただそれだけを考えた。
『ツナ、今日一緒に寝よっか』
手を差し出す姉の姿を切なそうに見た後、綱吉はその手をとった。それを肯定だと理解した瑞希は自身のベッドに綱吉を招き入れる。そして、部屋の電気を消す
『おやすみ、ツナ』
「姉ちゃん、おやすみ」
これはただの生殺しに等しい行為。だが、綱吉はそれに堪える。我慢する。姉に嫌われる事の方が生殺しよりも数百倍酷な事だからだ。
数十分たつと、隣から聞こえるのは愛しい姉の規則正しい寝息だ。それだけで、綱吉の心臓はただ強く強く脈打つ。
「姉さん…」
深く眠りについた瑞希の頬に綱吉は手をそえる。微かに、んっ、とくぐもった声が聞こえたが、すぐに瑞希は規則正しい寝息をたてる。ただ幸せそうに眠る彼女に綱吉はまた切なそうに見つめるのだ。
「こんなに、好きなのに…」
本当神様って残酷だよね。
自重的な笑みを浮かべた。これが、自身への飽きれなのか、どうにもならない事に対しての絶望かは分からない。だが、これだけは言える事がある。
「姉さん、俺は何があっても…姉さんを」守るからね
綱吉は瑞希の額にキスを落とし、そして、抱きしめる。彼女の存在を確かめるように、綱吉は瞳を閉じた。
【残酷でリアルな夜】
彼女の体温を感じると思うんだ。
(姉弟だから、何もできない)
(世の中って本当に)
(ザンコク)
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