マフィアのボス―――…。
裏社会に君臨する闇の支配者。
何人もの信頼できる部下を片手で動かしファミリーの為なら自らの命をはることもいとわない。彼のまわりには信望と尊敬の念がとりまきスラムの少年はヒーローとあがめたてる…
「へぇそうなのか」
「お前が無理矢理読ませてんだろ!!」
マフィアについて書いてある本を音読させられながら、苛々を表に出す。綱吉は基本、本を読むなど面倒極まりないこの行為が大嫌いなのだ。
『ツナ、ちゃんと読まないとダメだよ』
「そんな、姉ちゃん!」
「毎日読めよ。お前はファミリーの10代目ボスになる男なんだからな」
「冗談じゃないって言ってるだろ!?マフィアのボスになんて絶対なるもんか!」
先日“瑞希を守るためにマフィアのボスになる”という決意をリボーンにあらわにした綱吉。だが、今だ綱吉は瑞希に、その決意とともに、この性格などを悟られるわけにはいかなかった。
『もぉ、ツナは強情なんだから…』
「まぁ、安心しろ瑞希。あとはこっちで勝手にやったやる。」
リボーンはいつの間にか沢山の銃や武器を手入れをしていた。
「めちゃめちゃ心配だよ!!」
綱吉の不安は募る一方である。
【死ぬ気弾使用不可能】
綱吉が持田を倒してから、周りの態度が一変した。綱吉にとっては“ダメツナ”などと、屈辱的な言われ方もしなくなっていた。
「死ぬ気弾か…あんな恥ずかしい格好を毎回させられるのは我慢ならねぇんだよな…はぁ…」
死ぬ気弾を綱吉はあまりよろしく思っていない。なぜなら、今後、姉の瑞希に何度も何度もあの姿を見せなければならないからだ。
しかし、よくよく考えれば、これを利用しない手はない。綱吉はそう考えた。
「死ぬ気弾を使えば、姉さんに本性がばれる事もない…」
本性が姉である瑞希にばれるということを一番恐れている綱吉にとっては、死ぬ気弾によってカモフラージュできるかもしれないと考えた。
「沢田ぁ」
「えっ?」
綱吉の後ろから今まで自分を虐めてきたクラスメイトがやってきた。よく分からずに振り返った綱吉は一応、クラスメイトの話しを聞く。その内容は今日のバレーの試合に参加してくれというものだった。勿論綱吉はそれを快く受けた。
綱吉がクラスメイトと別れた後に向かったのは後ろから通学してきた瑞希の元だった。
「あっ姉ちゃん!聞いてよバレーの試合に誘われちゃったんだ!」
『えっ、そうなの?よかったじゃない!あっ、けど、ツナってバレー出来たっけ?』
「出来ないけど…大丈夫だって!リボーンの死ぬ気弾撃って貰うから」
『…ツナ…』
瑞希の顔が、“死ぬ気弾”という言葉を聞いて一瞬にして曇る。綱吉が死ぬ気弾に頼る事を瑞希は一番恐れていたのだ。今の話を聞く限り、頼る気満々という感じだ。
『あんまり物に頼っちゃダメだよ?』
「えっ?」
『じゃあ、私は先に行くから!ツナ、バレー頑張ってね!』
「う、うん。わかった」
瑞希の不安は募るばかりだ。綱吉は瑞希の言葉の意味がよく分かっていないようだった。
そして時間は流れ、綱吉のバレーの試合が始まる時刻が刻々と近づいていた。綱吉は死ぬ気弾をリボーンに撃ってもらう為に学校中を走り回りリボーンを探していた。
「リボーンの奴、どこにいんだよ」
そんな時だ、火災報知器の奥からコーヒーの独特な匂いとコポコポという音がすることに綱吉は気付き、顔を近付ける。するといきなり扉が開き、綱吉のこめかみにヒットした。
「イタッ!!」
「チャオっす」
『あっ、ツナ』
「ありえねぇよ!つか、なんで姉ちゃんもいんの!!」
「俺のアジトは学校中に張り巡らされてる」
「いつの間にそんな事してんだよ!つかいいのかよ姉ちゃん!」
学校中に張り巡らされているというリボーンのアジト。こんな短期間で作れるとは、流石ボンゴレというところだ。
『んー、いいんじゃない?なかなか居心地いいんだよ?私も気に入っちゃった!』
しかし、これを作る事を許してしまった瑞希に綱吉はもう流石だとしか言えなかった。
「あっ、それより!死ぬ気弾撃ってくれよ!時間が無いんだ!!」
綱吉は思い出したように、死ぬ気弾を撃ってくれと頼む。それを聞き、瑞希の顔が一瞬で暗くなかった。
『…ツナいいの?撃たれたら死んじゃうよ?』
「なに、それ…死ぬ?」
死ぬ気弾は撃たれた時に後悔がないと復活しない特殊弾。名目状おだてられてバレーをするという事になっている綱吉に後悔など一つもない。あるのは、姉である瑞希に良いところを見せたい。そんな気持ちだけ。
「死ぬ気弾使用不可能〜〜〜!!?」
綱吉は、死ぬ気弾が使えなくなる事を知ると、一瞬にして顔を青ざめさせた。そんな綱吉にリボーンは、試してみるか?と銃口綱吉に向ける。当たり前にすぐさま拒否をする綱吉の表情は悲惨なものだった…。
「んじゃ頑張れよヒーロー」
『ツナ、頑張ってね』
アジトの扉が閉まるとすぐに、笹川京子が綱吉を体育館へ連れていく。その数分後。瑞希は綱吉の後を追い、体育館へ向かった。綱吉の様子を見る為に。
『リボーン、私見てくるね』
「あぁ頼むぞ瑞希。」
不安でいっぱいの瑞希と、どこか面白そうに笑っているリボーン。対照的ともいえる光景だった。
所変わって、体育館。
瑞希が体育館に着くと、綱吉達の試合は既に始まっていた。次々に襲って来るボールに何もできずにいる綱吉。それどころかもう身体はボロボロだ。
『ツナ…頑張って…。』
体育館の入口で祈るように綱吉を応援していた。瑞希の表情は心配で心配で仕方がないといったところだった。試合が進むにつる、綱吉の健闘もただ虚しく終わっていく。期待が、飽きれに早変わりだ。
「……あれがファミリーの10代目か…」
そんな時だ、男が体育館の外綱吉を見ている事に瑞希は気づく。殺し屋か?いや、違う。それにしては気配の消し方が下手くそすぎる。不信に思った瑞希は、こっそりと近付き、話しかける。勿論、最大級の注意を払いながら…。
『…あの…どちら様ですか?』
「!!」
男は驚きながら振り返る。自分が人の気配に気付かないなんて…。そんな思いからか、男は少女に対する警戒を強めた。
『はや、と…?もしかして、獄寺隼人じゃない?』
「お、まえ…なんで俺の名前を…?」
男は目を見開きながら驚く。どうして俺の名前を知っているのか。そして、なぜ俺がこの女の気配に気付かなかったのか。男はさらに警戒を強める。
しかし、瑞希の方は先程の警戒心を完全にといていた。自分が知っている人物であったからだ。昔、幼い頃に会ったぐらいだったが、瑞希にとっては大切な思い出。忘れる事など出来はしない。
『私の事、覚えてない?』
瑞希は男が自分の事を覚えていない事にシュンとしながら悲しんだ。
「っ…だっ誰…だ?」
瑞希の反応に男は動揺を隠せなかった。それどころか、不謹慎かもしれないが、男はそんな沈んでいる瑞希を見て、なんとも言えない感覚でいっぱいになっていた。顔はどんどんと赤くなっていく
『そっか…前に会ったのなんかもっと小さい頃だったし…仕方ないか…』
「すっすまねぇ」
『ううん。いいよ!仕方ないし…そのうち思い出すよ!』
男は、あぁ…。と曖昧な返事を返した。男は瑞希の顔をじっと見つめる。自分の胸がときめくのを感じながら、どこか懐かしいような気持ちを持った。俺は確かにこの女の事を知っている…。
瑞希は男と話している最中に、綱吉が体育館から出ていくところを横目で見る。瑞希は、綱吉の後を追うべく男と別れを告げ、綱吉のもとへ走った。
「はぁ…やっぱし甘かったか…そう簡単にはいかねぇって事、か…」
綱吉は後悔する。姉に良いところをを見せたい。こんな性格をばらしたくない。それだけの思いでリボーンに死ぬ気弾を頼った事を。そんな不純な動機で、他のメンバーの頑張りを無視する事になってしまった事を…。
そして綱吉は知っていた。体育館の入口で、姉が自分の事を応援していてくれた事を…。
「…少しは頑張ってやるかな…」
綱吉は、水道水で顔を洗い、頭を冷やす。そんな時だ、瑞希が後ろから近づいてきた。
『ツナ…帰るの…』
「姉ちゃん…。俺、帰らないよ。」
綱吉はどこか、清々しい顔をしながら瑞希に笑いかけ、さして続ける。
「俺なんか恥ずかしいや…調子にのって安請け合いした事も。みんなが努力してやったきた事を死ぬ気弾で楽々やろうとしたことも…。だから…やるだけやってみる。それで終わったらみんなに謝るよ。」
『そっか…。頑張ってね、ツナ』
「うんっ!見ててね、姉ちゃん!」
綱吉は、少し本気になってみよう。そう心の中で思う。せっかく、姉が俺の事を応援していてくれているのだから。
その後、心境の変化により体育館に戻った綱吉はバレーの再開と共にリボーンにジャンプ弾を撃たれた。そしてその効果により、綱吉の大活躍でバレーの試合が終わったのであった。
そして、その夜…
「ジャンプ弾〜〜〜!?」
『うん。“死ぬ気弾”って言うのはボンゴレに伝わる特殊弾が脳天に被弾した時の呼び名なの。実はこの特殊弾って体の部位によって名前も効果も変わるの。今回太ももはジャンプ弾になるんだよ。』
瑞希の説明により、死ぬ気弾がどういった物なのかを綱吉は理解する。
「なんでそんなスゲーもん隠してたんだよ?死ぬ気弾しか教えてくれなかったじゃないか」
「ツナが弾をあてにすると思ったから言わなかった。でもツナ今日弾をあてにしなかったからな」
「……………リボーン」
少しはリボーンを見直した。そんな雰囲気の綱吉に瑞希はそっと付け加える。
『ツナ…えっと、多分それはたいした理由じゃないと思うよ?』
「え?」
瑞希は苦笑しながらリボーンをみる。リボーンはニッと笑いながら、調整を終えた銃を持つ。
「撃ってないと腕がなまるんだ。これでガンガン撃てるぜ」
とてもいい顔でニヤっと笑うリボーンに、瑞希はもう飽きれを通りこし、称賛に値するな。と心の隅で思うのであった。
【死ぬ気弾使用不可能】
所詮物は物。というわけなのです!
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