右手と左手


「うぅ、なんか最近とくに寒いね」


秋も過ぎてついに本格的に冬の寒さが到来したある日。部活帰りの風丸と名前は肩を並べて帰路にたっていた。いつもなら兄である円堂と共に帰るはずなのに、今日は、「特訓だ!」っと叫びながら先に帰ってしまったからだ。


「そうだな。まぁ冬だし仕方ないさ」

「風丸は寒くなさそうだよね」


マフラーをグルグル巻きにして、身体を縮こませながら隣を歩く名前に風丸は苦笑いを浮かべながら、そうでもないさ。っと答える。


「守兄は冬も特訓だから寒さなんて二の次なんだよね」

「名前は違うのかよ」

「私は守兄と違うよ!そりゃ特訓してたら暖かいから大丈夫だけど」


一緒じゃないか。風丸はクツクツと笑う。そんな風丸に名前はムスッとしながらマフラーに疼くまる。


「…いっちゃん、寒い。」

「たくっ…本当寒がりは変わらないな」


風丸は、はぁ…っと溜息をついた。何も変わらないこの関係は今でも健在だな。っと頭の隅で思う。

昔と何か変化があったかと聞かれれば、風丸は第一に必ず、名前が俺に対する呼び方を変えた。と思うだろう。

しかし、たまに名前の口からポロッと昔の名前を零れるときがある。そのだいたいが、よくない事を頼むときとか、焦ってるとき、咄嗟のとき。とにかく、普通のときは、昔の呼び方で呼んではくれない


「ほらっ、これ付けろ。」


風丸は自身が付けていた手袋を取ると、それを名前に渡した。名前はぽかんっとした表情で風丸と手袋を交互に見る。


「いいの?」

「その手よりはマシだろ」


名前の寒さの所為で真っ赤になってしまっている手を指差しながら風丸は言った。


「ありがとう、いっちゃん!」


風丸は自身が先程より寒くなる事など気にも止めない。ただ、今隣にいる少女が笑ってくれるのなら。風丸は自身の寒さを隠すように、ポケットに手をつこんだ。


「でも、これじゃぁ、いっちゃんが寒いんじゃ…」

「俺は平気だよ」

「…でも…んー…」


唸りなから考えた後、何か良い案が浮かんだのか、名前は左手だけ手袋を嵌める。そして、風丸の手を取り、無理矢理右手に手袋を嵌めさせた。


「おい、名前…」

「これで半分ずつだね!」

「…あぁ、そうだな。サンキューな」


風丸の言葉に一瞬にして名前は笑顔になった。


「なんか昔もこんな事あったよね」

「そう言えば、そうだな…懐かしいな」

「うん。」


そう言えば、昔はこの後、手握ったんだよね。今も、繋ぐ?昔みたいに。

はにかみながら言う名前を見て、風丸は顔を赤く染めさせた。

確かに小さい頃は、よく手も繋いだし、抱き合ったりもした。それは幼かった自分たちと、幼なじみだからというだけの関係だからこそ出来たこと。

しかし、今は違うのだ。二人とも中学生になった。こんな所で手を繋いだら執着心を駆り立ててしまう。

悶々と悩む風丸を見て、名前はふっと笑う。


「名前」

「考え込みすぎだよ、風丸。ゴメン、冗談だから」


けたけたと笑いながら告げる名前に風丸は少しだけムッとした。そして、先程考えていた執着心など忘れるように名前の手を握る。


「えっ、へ?」

「なんだよ、繋ぐか聞いてきたのはお前だろ名前」

「そ、だけど…かっかぜ、ま…」

「…今は風丸呼びは無しな。」


風丸の言葉に、一気に名前は顔を赤くさせた。いや、まさか。そんな。頭の中でふつふつと疑問が沸き上がた。


なぜ、手を繋いでくれたのか。


いつもの彼なら一言悪態をついてそのまま先にすたすたと歩いてしまうだろう。だけど、今回は…。


「なに百面相してんだよ」

「………いっちゃん」

「な、なんだよ」


決して目を合わそとしない彼に名前は、そうか。と理解した。


「いっちゃん…ゴメン、ね。今まで分からなかった」


風丸は一瞬ドキッとした。まさかとは思うが、自分の気持ちが、彼女に分かってしまったのか。と。焦る気持ちと、後戻りできない状況。いっその事、このまま…。


「名前、俺っ…」

「ううん、いいの。私だって、同じ気持ちだったから」


笑みを浮かべる彼女を見て、風丸は一つの決心を決めた。


「いっちゃん…」

「名前」


長いような沈黙の中、風丸はこのまま気持ちを伝ようとした。


「…俺…お前が!」


その時だった。名前と風丸の声が重なり合い、先に名前の声が響いた。


「やっぱり、いっちゃんも寒かったんだね!」

「……は?え?」


気の抜けたような、なんとも間の抜けた声が出る。


「え、違うの?」


名前も自身が考えていた答えと、風丸の事の相違点に気づくとキョトンとしたような表情で風丸を見た。

気まずい。なぜか、どうしようもなく。

風丸は、はぁ。っと今日何回目かわからない溜息をついた。


「……いや、そうだよ。流石に少し寒かったからこうしてみた。」

「そっか!やっぱりねっ!」


そうだ。うっかり忘れていた。コイツは円堂名前。円堂守の妹だ。名前は円堂と同じ、いや、それ以上に鈍いんだった。

風丸は諦めたように前を向き歩き始める。仕方ない。今回は間が悪かったんだ。そう自身に言い聞かせた。


「いっちゃん、暖かいね!」

「あぁ…そうだな」


どこか虚しいような気持ちを持ちながら、今二人で共有している右手と左手は温かかった。


【右手と左手】
昔からこの関係は変わらない
(互いに顔が赤いのに)
(気付かないのは)
(お互い知られたくないから)


放任主義者様、今回はリクエストありがとうございました!

L・Wの番外編は初めてだったので、とても楽しく書かせていただきました!
幼なじみ的な二人、すれ違い。との事でしたが、リクエストに添えられてますでしょうか?添えられていたら嬉しいです!

2011.12.8 夢桜

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