純粋、なんて

俺、松風天馬は今すごく悩んでいた。

それはある休日の昼下がりの話。特訓をするために河川敷まで名前と来て、少ししてから全ては始まった。


「名前、名前、起きろよ。風邪ひくぞ」

「んー、ぅん…」


呼んでも揺すっても返ってくるのは曖昧な返事。なぜこうなったのか。とふと思考を数分前に巻き戻す。

確か朝方から特訓をしていた俺達の元に、秋姉がお弁当を携えてやって来た。休憩がてら俺達はお弁当を食べた後少しの間ぼーっとしていた。それが事の始まりだ。

暖かい陽気に眠気を誘うかのような気温の中、自分でも分かるくらいウトウトしている事に気がついた時、肩に軽い重みが寄り掛かった。突然の事に一瞬目が覚めて、ふと横を見れば、すぐ近くには名前の顔。

整った顔立ちが目に入って、これよがしに胸がトクンと高鳴った。規則正しい寝息をたてるばかりいる名前に対して、いったい俺はどうしたらいいのかと無いに等しい頭で考えるも、いい案が何一つ浮かばない。

揺すっても、声をかけても反応の無い彼女。信用してくれている結果なのか、男として思われていないのか。どちらに転がってもやはり無防備だ。

じっと、寝顔を覗き込んで観察をする。長い睫毛にふわふわした髪。同い年であるはずの彼女が普段よりもずっと幼く見える

淡い桃色のふっくらした唇はうっすらと開いており、まるで王子様を待つ白雪姫のようにも見えてきた。


「キスして起きたら…俺は名前の王子様になれるのかな」


そこまで考えて、なんだか一気に恥ずかしくなり自分でも分かるくらい顔に熱が帯びた。ふと気付いたら俺はとんでもないくらい名前に近づいていて、もう少しで名前の唇を奪える程近くに俺はいた


「て、んま…くん?」


いきなりの名前の声に反応して、俺はとっさに名前から離れた。俺はいったい何を考えてるんだ!


「えっ、あっ…こっこんなところで寝たら風邪引くぞ、名前」


その場をごまかす為に必死にその場を取り繕う。とりあえず、今起きてくれて本当によかったと頭の隅で考える。今さら自分に残るのは安堵感と、もし、あのまま…名前の唇を奪えば…彼女は俺の気持ちに気付いてくれたのだろうか。なんていう狡い考え。


「ごめんね。天馬君といると、なんだか安心しちゃって、眠たくなってきちゃったんだ。でも、起こしてくれてありがとう。天馬君」

「っ…う、うん」



本当に無防備すぎるって。そんな事言われたら…俺…。



純粋な彼女に、無理矢理キスしなくてよかった。心からそう思えた。そして、ありがとう言われて、無償に俺の中で罪悪感に似たものが生まれた。

俺は気を紛らわす為に、サッカーボールに手をかける


「さっ、特訓の続きやろう!」

「うん!」


あの時の気持ちを全てごまかす為に、俺はサッカーボールを蹴り上げた。

【純粋、なんて】
彼女に出会って失ったよ
(純粋で無垢な君は)
(すごく眩しくって)
(愛おしすぎるんだ)

小夏様、今回はリクエストありがとうございました!
遅くなってしまい申しわけありません!天馬君のキャラが定まってないせいか、グダグダでした。甘になってるのでしょうか…?喜んで頂けたら嬉しいです!

2011.11.18 夢桜


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