相合い傘と不意打ちキス


授業の終わりをつげるチャイムが鳴った。今日はテスト前で陸上部は休み。だから早く帰ろう。そう思ったときだった。私は窓の外を見て絶句することになる。


「うわぁ…雨だ…」


さっきまで雨など降りそうもない快晴だったはずなのに、いつのまにか外は真っ暗で、強い雨が降っていた。なんだか雷も鳴りそうな雰囲気だった。


最悪だ。


正直にそう思った。折りたたみ傘持っていただろうかと制カバンを漁るも、中にあるのは教科書やノート、筆記用具、お弁当のみ。こんな時に限っていつも入れているはずの折りたたみ傘がないのだ。

とりあえず教室にいても仕方がないと思い、下駄箱の所へと行く。友達はすでに帰っていないから、友達は当てにできない。はぁっと溜息をつく。もう一度外を覗いてみる。しかし結果は変わらず大雨。

走って帰ろうかな…。っと頭の隅で考える。このまま待つか、走るか。頭をそれだけに集中していた時、とっさに誰かに肩を叩かれた。


「あっ…」

「よぉ久しぶりだな、名字。何やってんだ?」


振り返るとそこには久々に見る青色があった。


「か、風丸…」


ん?っと前と変わらない同じ笑みを私に向けた。元陸上部、現サッカー部の彼は私の陸上の憧れであり、思い人。


「あの、かっ傘忘れちゃって」

「お前…何やってるんだよ。今日の天気予報見なかったのか?」


眉を潜めながら、風丸からの説教を受ける。ただただすみませんと言うしかない。どうしよう、走って帰ろうかな…。そうボソッと言うと、彼は眉間に皺を寄せた。

そして、はぁっと小さく溜息を漏らすと、青色の傘を私に差し出してくれた。


「たくっ、ほらっ…使えよ」

「えっ、でもこれ…」

「大丈夫だ!使えって」


そう言うと、彼は私に優しく微笑んだ。あぁ、もうっ…格好良いんだから…!


「や、でも…サッカー部ってそろそろ試合って聞いたし、もし風邪でも引いたら」

「俺、意外と頑丈だし大丈夫さ」


彼は無理矢理私に傘を押し付け、じゃあっ!と雨の中を走ろとした。


「まっ、待ってよ風丸!」


流石にそれはダメだと思った私は、彼の服の裾を掴み引き止めた。


「やっぱりダメだよ!風丸に風邪でも引かれたら、サッカー部のみんなに申し訳ないよ!」

「…それじゃあ、俺だって名字に風邪なんか引かせたら陸上部のみんなに申し訳ないだろ?」

「うっ…」


言葉が詰まった。彼はこうなったら考えを曲げない人だ。だから今これ以上言っても聞かないのは分かる。だけど…やっぱり好きな人に風邪なんて引いてもらいたくない。という事で私も引くに引けない

互いに引かない状況がだいぶと続く。すると風丸は仕方ない。っと言う感じで溜息をついた。


「かっ風丸?」

「…じゃあ、二人で帰ろうぜ。それなら二人共濡れない」

「あぁ…って、えっ…」


彼は傘をバッと広げると、先に外へ出てしまった。そして私が出てくるのを待つ。ここで行ってしまって良いのだろうかと悩む。だって、私は彼女でもない。ただの元部活の同期なだけだ。


「あ、ぅ…」

「…名字、早く来いよ」

「やっ、でも…」

「俺と相合い傘なんて…やっぱり嫌…か?」


シュンっとした雰囲気を出してきた。そんな顔を見たら胸がキュンっとしてすごく困ってしまう。


「い、や…じゃ…ない、です」

「…!ならいいだろ!ほらっ、帰ろうぜ!」

「えっ、わっ!」


先程のシュンとした雰囲気とは態度を180度変えて彼は満面の笑みを私に向ける。そして腕をぐいっと引かれて、無理矢理傘の下にいれられた。つまりこれは、あっ相合い傘になってしまったということで…。


「一緒に帰るの、久々だな。」

「そ、そう…だね」


帰り道は会話らしい会話など何一つなかった。ただ私が緊張して会話なんか出来なかったのが原因だ。

帰りの中、私達の間にはただ気まずいというか、なんとも言えない空気が流れていた。そしていつの間に私の家についてしまった。


「あっありがと…そのゴメンね」

「謝るなって、大丈夫さ」

「うん…っあ…!」


彼の肩を見れば、そこはぐっしょりと濡れていた。そういえば、私は全く濡れてない。


「かっ風丸!肩濡れてるよ」

「えっ?あぁ…問題ないさ、このくらい」

「だっ、ダメだよ!何言ってるの!」


ポケットからハンカチを取り出して、濡れているところを拭く。こんな事をして何か意味があるのかわからないけど、やらないよりは幾分か増しだ。と自身に無理矢理思い込ませて、必死に肩を拭く。

心臓がドクンと、高鳴っていた。あぁ、なんか幸せだ。けど、不謹慎だよね、私の所為でこんな事になっちゃったのに。


「名字、もう大丈夫だ、から」

「えっ、でも…」

「いいんだって…俺なんかより名字が濡れなかっただけでいいんだ…」


一瞬黙り込んでしまう彼に疑問を抱く。表情を見ようにも傘の所為で全く分からない。というより、なんだろう。このなんとも言えない雰囲気は。そんな事を思っていると、彼が小さな声で、それに…っと呟く


「か、ぜまる…?」

「全部…下心っていうか、チャンス逃したくなかったっていうか…」

「しっ下心?…チャンス?」


どういう事なの?そう返そうとした瞬間、目の前には風丸の顔。そして唇には触れ合っている感触。


「…はっ早く、家に入れよ?じゃあ、な…!」


風丸は私に傘を無理矢理押し付けて、そのまま雨の中を走って行ってしまった。いつもの私の大好きな走り方で、一直線に。


「ばっばか…まる…」


雨の音なんて何も聞こえなかった。ただ身体中の熱と心臓がドキドキと高鳴っていた。

【相合い傘と不意打ちキス】
空は雨模様。私の心は…?
(とりあえず、明日は)
(彼にこの傘を返して、)
(卑怯だ好きだと言ってやる)

END

ここ様リクエストありがとうございました!大変遅くなりすみません…!

相合い傘後にキス逃げする風丸さん。という事でしたが、リクエストに沿えていましたでしょうか?在り来りなネタで本当に申し訳ありません!!ご期待にそえていれば嬉しいです!

2012.3.2 夢桜

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