二人でいるときも何をするときでも、俺は常に余裕の表情を見せる。それはただ、君に格好悪いところを見せたくないから。 髪を掻き分けて地肌に触れるように頭を撫でる。明は短く唸って寝返りを打ったのに少々残念な気分になりながら、源田はベッドから抜け出した。何かをごにょごにょと呟く明に笑みを零しながら、源田は勝手知ったる他人の家とばかりに階段を降りた。 今日と明日、両親が親戚の家に泊まっていないの。 最初それを聞いた時、意味がよく分からず、俺は、だから?と返したのは記憶に新しい。その時彼女は顔を赤くしながら一人では怖いから、家に来ない?と彼女に誘われたのである。恋人に誘われて首を縦に振らない男など、果たして存在のか。いや、いないだろう。少なくとも俺は違う。自分の彼女に何かあったらなどと考えるととても心配だった。だから、俺はこの誘いに、快く了承した。 昨日のことを思い返しながら、洗面所へ向かう。ばしゃばしゃと音を立てながら顔を洗い、歯を磨く。必要最低限の身仕度を終らせ、俺は再び彼女の部屋へ向かう。 「明、もう朝だぞ?そろそろ起きろ。」 「んっ…、母さん、あと5分だけ……」 「はぁ…だ、れ、が、母さんだ!」 「ひゃっ、幸ちゃん!?」 思わず怒鳴った俺の声よりも更に大きな声で彼女が叫ぶ。窓が開いていたら立派な近所迷惑な程の声の大きさだ。跳び上がった彼女はごめん、幸ちゃん、と言いながら苦笑いを浮かべた。 とりあえず彼女に顔洗って来くるように言う俺は彼女を送り出す。これではどちらが家主なのか分からない。いくら幼なじみ兼恋人でもそこらへんはしっかりしていてもらいたいところだ。 少ししてから先程よりも幾分かすっきりとした表情で彼女が自室へ戻ってきた。さっき見た寝癖はしっかりと直されていた。そして二人で朝食を食べる。まるで新婚だな。 「幸ちゃん、今日部活は?」 「休み。」 「えっ、本当!?」 あぁ、っと俺が返事をすると彼女はとても嬉しそうに笑った。朝食を食べた二人は午前中は何をするわけでなく二人でのんびりと過ごしていた。 「幸ちゃん、お昼食べたら久しぶりに一緒にサッカーしようよ!」 「サッカー?」 ダメ?なんてシュンとした顔で言われて、断る度胸なんてない俺は、仕方ないな。なんて言いながら了承する。内心、彼女と久々にサッカーができる事がとても嬉しかったりする。 俺達二人は昔よく遊んだ公園へ出かけ、当然のようにサッカーをする。必死にボールを追い掛ける彼女は何も変わらない。遊びがてらPK戦をしたり、周りにいた子供たちを巻き込みミニゲームをしたりしているうちに日は傾き、雲一つなかった青空はあっという間に夕日に染まっていた。 「明は、いつもこうだな」 底抜けに明るくて、いろんな奴を巻き込んで…そのくせ、全員笑顔にする。そしていろんな奴に懐かれる。帝国の奴らがいい例だな。 不意に思ったままの事が口から出た源田の言葉に、彼女は顔を赤くしながら俯く。彼女の名前を呼んで源田は無理矢理こちらを向かせる。耳まで真っ赤で、目をキョロキョロとさせて挙動不審な彼女を見て、源田は笑みを零した。ぎろりと恨みがましく明が睨むが、その目尻が紅潮しているのだから何の迫力もない。 「……幸ちゃん、狡いよ」 「俺が?」 「そうだよ!何かいっつも幸ちゃんばっか余裕で。私なんか、きっ、キスとかするのも毎回すっごく緊張して…なのにそんな恥ずかしいことを、さらっと!」 「…明」 彼女が小さい頃から見ていた俺だけど、こんな彼女を見るのは本当に珍しい。どうしてこう彼女は何もかも愛しいのだろうかと思う。 「ずっとお前が好きで、ずっと傍で見てたからだよ」 「わっ私、だって!それに中学に入ったとたん、幸ちゃん大人っぽくなって、女の子にはモテモテで…」 誰かに幸ちゃんを取られたらなんて思ったらすっごく怖かった。 震える声でいう彼女の本音がとても嬉しかった。俺だって、彼女に何度も思いを告げようと手を伸ばし、その度に飲み込んだ。幼なじみという関係を壊さないために必死だった。 首を傾げる明を安心させるかのように源田はいつものように笑う。 「俺なんてただの格好つけたがりさ。余裕ぶってるだけ」 「……本当に?」 「あぁ」 思案するように明は目線を下へやる。源田がその顔を覗き込むと、しばらく黙っていたがやがて意を決したように源田の頬にキスをした。 ばっ、と口づけられた部分を押さえて赤くなる源田に、本当だね、と明が嬉しそうに笑った。 【単純明快】 俺はそういう男なんだよ (不意打ちなんて卑怯だろ?) (だから今度は俺が彼女の唇に) (噛み付いてやる。) END |