稲妻11 | ナノ


同じ学校にいる一際目立つ明るく空色のポニーテール。物静かで大人。面倒見がよくて優しい。何をやっても完璧にこなす。勉強もスポーツも。もちろん料理も出来るから、当然女子からはモテモテ。

ノリが悪い訳じゃないし、自然に誰かの聞き手にまわる。話自体も面白くない訳じゃないから男友達も多いし、後輩からも慕われている。女の子のような容姿から、男のファンまでついている(という噂がある)。

風丸一郎太という人物はそういう奴だった。そんな彼と私の関係は所詮幼なじみ。彼は私の憧れで、私の思い人なのだ。まぁ誰にも彼が憧れで、好きな人だなんて言わない(だってそんなの恥ずかしいでしょ?)


「えっ、風丸先輩と幼なじみなの?」

「うん。知らなかった?」

「知らなかった。じゃあキャプテンとも?」

「守君とはお隣り。」


春奈の質問に短く答えながら、購買で買ったパンを頬張る。春奈の質問はまだまだ続く。


「そうなんだ!仲良いの?」

「まぁまぁ?」


疑問形で答えると、何それ。なんて言いながら彼女は笑った。

「明ちゃんは風丸先輩の事どう思ってるの?」

「…お母さん」

「いや、そうじゃなくて」


苦笑いを浮かべる彼女。なんとなく分かるよ。そっち系の話って事くらい。だけどさ、やっぱり恥ずかしいから、あまり言いたくないわけだ。


「なぁ、明いるか?」


聞き慣れた声で名前を呼ばれた。春奈に小さくゴメンと行ってから後ろの扉を見る。空色が揺れている。


「明ちゃん、風丸先輩が呼んでるよ」

「あっ、うん。」


なんで来たかは知らないけど、なんだかちょっぴり嬉しい。軽くだけど口元が緩むのが分かった。


「ふぅん」


ちらっと春奈を見るとにやにやと笑いながら、後で教えてね!なんて言われた。流石春奈。感づかれた。


「どうしたの?」

「これっ、お前の母さんに頼まれた。」

「えっ…あっ!」


6時間目に必要な体操服。今日の授業はサッカーだから出来ないな…なんて思って、テンション下がりまくっていたのに…


「ありがとう、いっちゃん!」

「あ、あぁ」

嬉しさのあまり、とっさに出てきた昔の呼び名。こんな所で私は何を言ってしまったんだろうかと焦りを感じた。


「あぁ、えっと、わざわざありがとう。それじゃ」

「あっ、待てよ明」


どうしたの?と平然を装うが心臓はバクバク。そして辺り視線が痛いわけだ。


「最近あんま話してないんだから少し喋ろうぜ。もうちょいお前といたい」


爽やか笑顔に殺し文句。彼は私を可笑しくさせたいのだろうか。


「風丸といたらもの凄く目立つから恥ずかしい」

「…別に気にする事じゃないだろ」


少し声色が低くなった。あっ、なんだか怒ってる。どうして?なんて聞かなくても分かる。私が風丸と呼んだからだ。いつも私が風丸と呼べば名前かいつものように呼べと彼は怒るのだ。

今だに色々なところから降り注がれる視線。あぁ、本当に痛い。春奈みたいにサッカー部のマネージャーでも何もない私が彼と話す事はやはり珍しく、彼の事が好きな子達にとっては私はあまりよろしくない存在だ。しかもここは一年の校舎。二年の彼がいる事はやはり目立つ。

注目をされるのはやっぱり馴れなくて、彼といれるのは嬉しいが、やっぱりなんだか恥ずかしいという感覚が私を襲うわけだから、かなり挙動不審。しかも顔も多分、赤い。


「明…?」

「えっ、あっ…な、なに?」


彼は何を思ったのか必要以上に近くで私の顔を覗き込む。空色の髪が揺れている。心臓が早い。心臓に悪いな、本当。


「大丈夫か?」

「なな、なにが?」


適当にその場を濁す。彼はこの状況を理解しているのか疑問なところだが、まぁ大丈夫だろう。だって風丸だもん。守君よりはましだが、彼も鈍感な部類だから。


「顔、赤いぞ?」

「きっ気のせいだよ」


そういえば、なんとも納得行かないという顔の彼が目に入る。納得なんてしなくていい。何も気付かずに終わって欲しい。早くチャイムよ鳴れ!


「あっ…そっか」


何か理解したかのようにそう呟くと、彼は私が持っていた体操服の袋を掴み彼の手で口元を隠された。いきなりの事で理解なんて何も出来ないまま唇に暖かい感覚。


「!?」


何が起こった?今、どうなった?きっキス、された…?頭の中がパニック冗談の私を彼はとてつもなく良い顔をしながら見る


「明って、昔から俺の事好きだったろ」

いつもなら見れないどこと無く得意げな顔。なんだか、ムカつく。だけどやっぱり、格好良い。これが惚れた弱みってやつなのだろう


「な、に言って…」


反論しようとした瞬間に鳴り響く予鈴のチャイム


「あっ、それじゃあ俺戻るから。帰り、待ってろよ?久しぶりに一緒に帰ろうぜ」


人の話すら何も聞かずに、自分の言いたい事を言い終わるとスタスタと二年校舎へ帰っていった。


「…なっ何、今の」


いつもより行動的な彼に少し驚いた。なんであんな事を?あっ、それよりなんで昔から好きだって知ってるの?えっ、ばれてたって事?いやいやいや、まさか。


頭の中で自問自答を繰り返す。そりゃ、好きな人にきっキスをされて嬉しくない奴はいない。それに、なんの配慮か知らないけど、体操服で一応先程のは隠れていて、見えてはいない(と思う)。見つかったら大騒ぎになる。ファンの子に殺されるな。

それにしても…なんだったんだ、あれ…


「本当になんで、バレて…っ…」


さっきはパニックになってたからだけど、よくよくちゃんと考えてみると、何あんな恥ずかしい事を…!一気に顔に熱が溜まるのが分かる。トボトボと歩きながらゆっくりと教室に戻る。辺りは誰もいなくて、話をしていた春奈も先に移動教室に向かったようだった。

誰もいない教室で一人しゃがみ込む。


「いっちゃん、狡い、よ…」


あんな事をされたら自惚れてしまうじゃないか。今だに唇に残る熱に、私はただ溺れていく。再びチャイムが鳴り響いた。


【貴方の手の中で回る私】
なんだか、悔しい。
(放課後なんか)
(来なければいい。)

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