稲妻11 | ナノ



遠くで見るだけでよかった。サッカーをしている貴方の姿を見るだけでよかった。けど、やっぱり貴方と触れ合っていたいと望んだ

彼は、マスターランクの一つであるダイヤモンドダスト。そのキャプテンであるガゼル様。私は彼の事が昔から好きだ。昔というのはもちろんエイリア学園が出来る前…つまり、お日さま園に暮らしていた頃から


同じエイリア学園にいてもセカンドランクのジェミニストームに所属している私にとって、マスターランクでしかもキャプテンである彼は雲の上の存在


だけど、私は前みたいに普通に呼びたい。宇宙人ネームではなく、彼自身の名前を。だがそんな事は無理なのだ。


ただじっと遠くで貴方がサッカーをしているところを見るだけで、あの頃に戻りたいと思ってしまう。



『ガゼル、様…』



いつの間にこんなに遠い存在になってしまったのだろうか。昔はずっと一緒にいたのに…。もしかしたら、彼は私の事を忘れているかもしれない。そう考えただけで悲しくなる



『会いたいよ、風介…』



ただこうして彼のサッカーをしている姿を見るだけの生活。私がマスターランクだったら…。そう思うと、


自然に悲しくなって


淋しくなって


突然込み上げてくるこの気持ちに自然に涙が溢れ出す。


私が縮こまりながら泣いていると、突然ボールが飛んできた。たぶん今練習をしているダイヤモンドダストとプロミネンスのボールだろう。コロコロと転がってきたサッカーボールを拾い上げる



「こんなところで、何をしている」

『!!』



いきなり後ろから話しかけられる。


聞き覚えがある懐かしい、声…



『ふう、…ガゼル、様』



会いたいと望んだ…。だけど今は会いたく無かった


危うく名前で呼ぼうとしてしまったが多分大丈夫だろう。それに、彼は私の事なんてきっともう忘れてしまっているだろうから…



『も、申し訳ございません…直ぐに出て行きます』



今の私の顔は涙でぐちゃぐちゃになって人に見せられるような顔ではない


その場から逃げるように出て行こうとする、が…それは彼によって止められた。


『ガゼル様、どうなさいましたか?』

「何故泣いている…」
『なっ泣いてなんかいません!』



じっと彼に見られていると、なんとも言えない感覚が私を襲う。あぁ、今私は久々に彼と話している。そう思うだけでまた泣きそうになった



「…そうか。だが、私には泣いているようにしか見えないのだが」



目に溜まっていた涙を風介は指で掬いとり「ほらっ」と私に見せる。小さい頃から見ていた優しい顔。私の目の前に風介が、いる…



「本当にお前は昔から泣き虫だな、明」
『ふ、う…すけ…』
「やっと、私の名前を呼んだな」



頭に手をのせられ頭を撫でられる。ガゼル様の時には見せない優しい顔



『私の事、覚えて…』

「当たり前だ。忘れた事など一度もない…いや、お前を忘れる事など出来はしない…」



撫でられていた手で後頭部を押され、私はすっぽりと彼の胸の中におさまる。持っていたサッカーボールがコンコンと音を出しながら落ちる



「ずっと、会いたかった」

『風介…私も…会いたかった…よ』



昔と何も変わらない風介の温かさ。心地好くて、懐かしくて安心出来る



『風介』



空いた手を風介の腰にまわす。風介は少し驚いたがすぐにギュッとさっきよりも強く抱きしめてくれた



『風介、私ねずっと風介の事見てたんだ。迷惑だって分かってたけどずっと見てた。私、見ることしか出来ないから…私と風介は違う、から…』

「私もずっとお前だけを見ていたさ。ガゼルという存在の時でさえ、お前だけを…ずっと…」
『う、そだ…』



折角抱き着いていたのに私は少し身体を離し目を丸くしながら風介の顔を見る。風介は少し照れながら「本当だ。馬鹿」と私をまた抱きしめた


「私がマスターランクでお前がセカンドランクだからなどくだらない事は関係ない。それに私は明に…他人行儀な行動をされるのは嫌だ…」

『風介…ゴメン…』



俯きながら、私はただただ謝る事しか出来なかった。



「問題無い。これから明が私の傍を離れなければ、な」
『はっ、離れるわけないよ…!』



俯いていた私に風介は優しい声で言って、またギュッと私を抱きしめる。

少し痛い、だけど凄く嬉しい。

私は今世界一、いや宇宙一幸せだと思う。だって、大好きな彼とこうして近くにいられるのだから



『風介、私…今凄く幸せだよ?』
「あぁ私もだ…。昔も今も私にはお前だけだ…明。ずっと、お前だけが好きだ」

『うん、私もだよ。風介の事ずっとずっと好き』



ランクのせいで会うことも話すことも出来ずにただ貴方を見ているだけだった。ガゼル様と呼んで私自身が距離を置いて出来るだけ近づかないようにしたんだ


だから今、貴方が私の一番近くにいてくれているそれがなにより嬉しくて、今までの事なんか忘れられた



『風介、またサッカーしようね』

「た、たまになら、してやってもいい」



風介は少し照れていて…。少し嬉しそうに答えてくれた。不意に視界の角に入ったのは先程私が落としたサッカーボール。私はサッカーボールにありがとうと心の中で言いながら、意識を風介に再び向けた



【ランクの壁】
そんなもの、私達には意味ないの
(まさか貴方が、)
(わざとボールを蹴っていたなんて)
(私は知らない)

END