稲妻11 | ナノ




「卒業生、起立」


学年主任の先生の号令で、卒業生全員が規律正しく立ち上がった。


「礼」


礼をして、3年間、全く有り難みも興味すらも感じたことのない校長の話を聞きはじめる。


あぁ、この高校とも、もうお別れか。


正直、あまり、実感はないものだ。ただ座って欠伸をかみ殺しながら、淡々と聞き流す。

卒業なんて言葉のイメージは華やかだけど、実際はただ長い時間ずっと椅子に座り、話を聞き、卒業証書を受け取る。ただそれだけの堅苦しいものだ。華やかと言えば…まぁ、壇上に飾られた立派な花くらいじゃないだろうか。

こんな面倒な式に我慢出来ずに欠伸をしている円堂の姿を横目に見て、近くにいる鬼道や豪炎寺と顔を見合わせて一緒になって軽く笑う。そして俺はくどくど詰まらない話し続けている校長の方を見た

起立、礼。昨日の予行練習から身体に叩き込まれた行動を言われるがままに再び繰り返す。そこに人の意志など挟む余地はない。

そして最後は、卒業生は立ち上がり、ピアノが鳴ると卒業ソングだのお約束の校歌斉唱を歌い始める。在校生の挨拶やら、卒業の挨拶が終わり、体育館を出る。

外へ出ると、お世話になった先生や在校生の面々がずらっと見える。その中には、サッカー部の後輩やら、中学の時の陸上の後輩の宮坂がアーチを作っていた。


おめでとうございます!風丸先輩!

先輩、おめでとうございます


拍手をしながら所々で聞こえる声に、手を挙げて答える。そして、やっと卒業したんだなっていう実感を噛み締めた。


「明、」

「あっ、一郎太くん!」


クラスの最後の挨拶も終わり、卒業生が先生と写真を撮るのを尻目に俺は明の元へと駆け寄る。二人で卒業おめでとう、と言い合ったのがくすぐったくて、照れたような笑いが洩れた。


「ふふっ、一郎太くん、もうボタン全部ないんだね」

「お前なぁ…意外とコレ、笑い事じゃないんだぞ?これのおかげで凄く寒いんだからな」


そう言えば、彼女はお疲れ様。なんて言いながら、また笑う。


「おーい、風丸!早くサッカーしに行こうぜ!」

「えっ円堂くん!」


後ろの方で、円堂が俺の名前を呼んでいる。俺はそれに軽く返事をする。ふと気付けば、木野さんは俺らに気を使ってか、邪魔しちゃダメ!なんて言いながら、円堂を連れて行ってくれた。


「行かなくて、いいの?」

「あぁ、いいんだ。今は明の方が大切だから」

「そ、そっか…」


俺が笑みを零して言うと、彼女はとても可愛いく照れながら、笑顔を見せてくれた。それを見ると、なんだか胸が温かくなって、俺は素直にまた笑みが零れた。


可愛い。本当に、好きだな


心の底からそう思った。中学の頃…いや、中学に入る前からずっと一緒にいた明。そんな俺はまだ彼女に思いを告げられずにいた。


けど、それも今日で終わりだ。


「……なあ、明」

「ん?」

「手、出して」


握った拳を差し出された手の上にかざし、明の掌に、俺が握っていた物をコロンっと落とす。明は暫く呆けたようにそれを見て、慌てた


「一郎太くん、これ…えっ、でも…全部…あれ?」

「…それだけは、死守したんだ」


さっき次々に取られていったボタンたち。しかし、この第二ボタンだけは何がなんでも死守した。これだけは、他の誰にも渡したくなかったからだ。


「こっこういうのは好きな女の子に渡すものでしょ?」

「……わっ渡してる、だろ。」
「え、」


彼女は俺が渡した明の口がぽかんと半開きになる。間抜け面なはずなのに可愛いと思うのは、惚れた弱みって事だろうか。そう思うと、少し笑いそうになる。だが、すぐに気を引き締めた。笑ってる場合じゃないんだ。


ストレートに…直球勝負。心の中で何度も念じながら俺は息を吸う。心臓が煩いくらいに鼓動する。やばいな、手に汗までかいてきた。


「明、お前のことがずっと…中学のときからずっと好きだった。……卒業おめでとう。じゃあ、俺先に円堂のとこにいくな!」

「い、一郎太…くん?」


明は丸い目を更に丸くしてこちらを凝視する。彼女の手に乗ったそれを握らせたとき、ざぁっと強い風が吹いた。そして、早咲きの桜が勢いよく舞った。

花吹雪の中、俺はこの場から逃げるように歩き出す。後ろは振り向かない…。所詮言い逃げというやつだ。伝えられただけで満足だ。それ以上の事は求めない。


「待って!一郎太くん!待ってっ!」


後ろから誰かに抱き着かれる。誰か、なんて表現は可笑しいか。だってさ、声だけで、いや走る音だけで誰だか分かる。明、だ。


「いっ言い逃げなんて卑怯だよ!」


俺を引き止めるように、後ろから抱きしめてくる明。俺が思うに、俺なんかよりも卑怯なのは明の方だと思う。


「いっ一郎太くんは…わっ私の答え聞きたくないの?」

「…聞きたい、けど…聞きたくない」


伝えるだけで、俺は満足なんだ。それ以上を求める事はしないつもりだ。


「もう、弱気だね。一郎太くんらしくないよ?」


仕方ないだろ。お前の事になると歯止めも効かなければ、強気でもいられなくなるんだから。


そんな事を思って、言葉をぐっと喉の奥に飲み込んだ。


「明、俺っ…っ」


明はぐっと俺を引っ張り、無理矢理自分の方に向かせてきた。俺と明が向き合った瞬間だ。何故か俺と明の距離はゼロになっていた。


思考停止。今、何が起こった…?


「一郎太くん、私も…一郎太くんの事好きだよ。中学の時から、ずっと。」


そう言って、彼女はにこやかに笑っていた。俺は、さっき触れられた自分の唇を指先で触れる。熱い、凄く。

余韻に浸ったのは一瞬。呆気に取られたのも一瞬。そして、正気に戻ると、嬉しさと恥ずかしさが俺を襲う。


「っ…明…好き、だ。」


俺は無我夢中で彼女をギュッと強く抱きしめた。


【卒業しようか】
思い出深い学校と曖昧だった関係から
(卒業は終わりじゃなくて)
(俺達の関係の)
(新しい始まり)

End

まずは、今年ご卒業なされるみなさん!
卒業おめでとうございます!

今年私が高校を卒業したのでその記念に書いてみました!

ある意味卒業式では王道ネタですね…
前半の下りは昨日私が卒業式で感じた事だったりします。校長の話って暇ですよね(´д`)←

まぁ、とにもかくにも…
本当におめでとうございます!
次に進まれる場所でも頑張って下さい!


2012.2.19 卒業記念 夢桜