稲妻11 | ナノ




私は神なんて見えないものを信じない。そう。私は所詮無神論者なのだ。だけど、今私の目の前にいるこの地に落ちた人は、私にとっては絶対無二の神なのだ。矛盾している事はわかっている。そこまで私はバカではない。ただ、私にとって彼は大切で、愛しくて絶対な人だという事


「照美、」

「なんだい、明」


長くてサラサラとした金色の髪を翻しながら振り返る彼。その姿は本当に男なのかと問いただしたくなる美しさがあった。


「この世に神っているの…?」


我ながら馬鹿な質問だと思う。けど、彼はそんな私を馬鹿にする事はない。照美は私に微笑みかける。


「明が信じればいるよ」

「照美は信じてるの?」

「僕かい?…あぁ、そうだね。信じてるよ。なんせ僕自身が神だからね」


自信満々に答える彼に私は少し笑ってしまった。


「笑うなんてひどいんじゃないかい?これでも真剣なのに」

「ゴメンなさい。だけど、地に落ちた神っていうのもいいなっと思って」


私がそう言うと、彼は少し驚いてからクスッと笑う。その姿が自然に綺麗だと思った。そして、私の胸の奥が少しだけ、キュンと高鳴った気がした。


「僕は確かに一度地に落ちた。だけどそれは悪夢が終わったそれだけの事さ。けど、君の為ならもう一度神としてこの世に君臨する」

「そう…なら、私は今のままでいい…地に落ちて、悪夢が無くなって、アフロディという神から折角、亜風炉照美という一人の人間に戻ったんだから」


私は、そっちの方がいいよ。彼は私がそう言うと、とても綺麗に笑い、私の頬に手を添えながら、私に問いた。


「なぜ?」


なぜ?と問わなくても、貴方なら理由はわかってるんでしょ?照美には何でもお見通しだもの。私が言わなくたって理由は知ってるはず


「教えない。それに、わかってるんでしょ?」

「さぁ、どうだろうね」


彼特有の微笑みで、曖昧な答を出す。そんな照美を見ると、やっぱりわかってるのだと理解する。

なんとまぁ悔しい事だろうか…そして私はこの言葉で折れてしまう


「君の口から直接聞きたいんだよ」


私は多分、この言葉が苦手だ。だって秘密だと言う事すらも、言いたくなってしまうのだから。


「明…、さぁ、教えて?」

「…アフロディが神だったら、貴方は皆のモノ。けど、照美なら誰の神でもない、一人の人間でしょ?」

「ふふっ、そうだね」


得意げな顔をしながら、クスクスと彼は笑う。やはり気づいていたんだろう。分かってたのに言わせるなんて本当にどれだけ意地悪なんだろうか


「明…」

「て、るみ?」


ギュウッと強く抱きしめられた。それが心地好くて、温かかった…


「一つだけいい事を教えてあげよう。僕は神でも、神でなくても…他の奴のモノにはならない…」

「照美らしいね…誰のモノにもならないなんてさ」

「明、違うよ。僕は他の奴と言ったんだ」

「えっ…?」


どういう意味なの?誰でなくて他の奴なんてどこかに違いはあるの…?


「僕は、僕自身のモノだ。そして、明…君のモノでもある。なんたって、君も僕もお互いを愛し合ってるからね」

「っ、うっ…」


恥ずかしい事を悠々と言う人だ。まぁ、恥ずかしいより凄く嬉しい方が高いのだけれど…


「照美はやっぱり神様だよ」

「…?」

「照美はね、私だけの神なの…。私にとって、貴方は絶対なる神」


これも、まぁ…惚れた弱みというやつだろうな。だけど、それはそれで良いとは思う。


「ふふっ、じゃぁ…僕はいつまでも君だけの神でいよう」


君だけの、為に


そういうと照美は私の頬に手を添えて、いつものように私にキスをした。あぁ、私はなんて幸せ者なんだろうか。こんなにも貴方に思われているのだから


【無神論と有神論】
矛盾なんて彼の前では意味ないよ
(神様、神様、)
(私のだけの神様)

END