稲妻11 | ナノ


「はい、あーん」

「ちょっ待って、ヒロ、んぐっ…」


卵粥を蓮華で掬い、彼女の口元に近づけ、無理矢理口にそれを含ませる。君の待ってなんて聞かない。華麗にスルーして食べさせる。


「明、美味しい?」

「……うん」


瞳子姉さんが作ってくれた卵粥を彼女は黙って咀嚼する。少し顔をムスッとさせて、頬を朱に染める。熱の所為か、それとも恥ずかしいのか。どちらにしろ可愛いのは変わらない。


「全く、明には本当呆れるよ。なんで昨日傘持って行かないの?俺、あれ程言ったよね?しかも濡れてるのにろくに拭かないでそのまま。そりゃ風邪も拗らせるよね」

「ゴメンってば。それで散々瞳子姉にも怒られたんだから。もう言わないでよ」

「自業自得。これに懲りたら少しは俺の言うこと聞いてよね」


そんな会話をしながら粥を次々と彼女口に運ぶ。明はそれを食べる。もう文句は言わないようだ。


「ご馳走様。…ちょっと気分が楽になったよ。ありがとう、ヒロト」

「うん。あっ…ちゃんと姉さんにお礼を言いなよ?」

「うん、わかってるよ」


彼女は苦笑い混じりに笑う。そして眉を下に下げながら俯く。


「…いっつも迷惑かけてるね、私」

「そんなの、晴矢や風介に比べれば増しだよ。それに明のやることには心配はするけど、迷惑とは思ってないよ。」


そう言って、安心させるように彼女の頭を撫でれば、彼女は気持ち良さそうに目を細める。


「とりあえず早く風邪治しなよ?皆心配してる。」

「…ヒロトも…?」


不安げに言う彼女をギュッと抱きしめてやる。そして、当たり前だろ?そう言えば彼女は照れたように笑った。


「俺が一番心配してるんだから。明、早く元気になって皆とサッカーしよう」

「うん!」


先程の不安げな声より、ずっと増しな声で彼女は返事をする。とりあえず安心。


「…じゃあご飯も食べたし、そろそろ寝た方がいいね。変わりの熱さまシート持ってくるよ。」


俺が椅子から立ち上がり、部屋を出ようとすると彼女はいきなり俺の服の裾を握る。俺は咄嗟にピタッっと止まる。


「明?」

「ヒロ、ト…あ、あの…」


とりあえず彼女の目線に合わせるように、もう一度椅子にすわる。どうしたの?と優しく言えば、彼女は俯き、えっと、あの…と吃る。どうかしたのだろうか…?


「何かして欲しい事でもあるの?」

「う、ううん…違う、の。ただ…」

「ただ?」

「何もしなくていい、から…どこにも行かないで…」


だんだん小さくなる声。けど、何が言いたいのかはしっかり分かった。今日の彼女はいつも以上に可愛い行動をしてくれる。


「行かないよ。大丈夫。ほら、ずっとここにいるから。安心して寝なよ。」


そう言って、優しく彼女の手を握る。そうすれば彼女は安心したように微笑む。そして、ありがとうって照れながら言って、目を瞑る

数分もすれば、彼女から規則正しい寝息が聞こえてきた。今のうちに熱さまシートでも取りに行こう。そう思ってそっと手を離そうとする。けど、彼女はギュッっと俺の手を握ったまま離さない。

仕方ない、後で風介か晴矢に持って来させよう。そんな事を頭の片隅に起き、彼女の唇にキスを一つ落とした。


【早く治るおまじない】
君が起きてる時にはしないけど、ね

END