部活の練習の為に学校へと向かう途中、花屋の前を通りかかった。店頭には色とりどりの花。鼻を擽る花特有のふんわりとした春の香り。その中でも、俺の目を奪ったのは真っ赤なチューリップだった。 別段珍しいものでもなければ、人一倍大きいというわけではない。チューリップなんて、どこの花屋にも置いてあるし、大きさなんて、大きいどころか、少し小さいくらいだ。なのに、俺はそのチューリップを見て、足が、止まった。 「お客様、何かお気に召すものがありましたか?」 ぼーっとチューリップを見ているといきなり声をかけられた。少しびっくりして、顔をその声のした方へ向ける。そこにはここの店員さんらしき女の人が優しそうな笑みを浮かべながら、そこにいた。 「あっ、いや…えと」 かなり動揺しながら、自分の目の前にある花を指指す。 「こっこれ、一本下さい!」 「かしこまりました」 店員さんはにっこり笑いながら花が沢山あるなかで一つの赤を手にした。目の前にあった真っ赤なチューリップ。それを店員さんは簡単に包む。 「110円になります」 たった一本しか入っていないチューリップ。それを店員さんは大事そうに抱えていた。店員さんにサイフから出したお金を渡す。 「誰かにプレゼントですか?」 「あっ、いや…そんなんじゃ」 慌てて繕う俺を店員さんはクスクス笑う。「あっ」店員さんは何かを思い出したのかいきなり声を出す。 「お客様、赤いチューリップの花言葉、知ってますか?」 「花言葉…?」 知らない。そう答えれば、そうですか。とにこにこと笑うだけだった。赤いチューリップの花言葉が少し気になるところだが、時間がそろそろヤバくなってきたからその花屋を後にする。 ありがとうございました。頑張って下さいね。 何を頑張るのだろうか。よくわからないまま、学校へと急ぐ。先程買ったチューリップが今だに綺麗に咲いている。 「一之瀬君、遅かったね!」 「明」 俺の姿を見つけて彼女が駆け寄ってくる。可愛いな本当。 「何かあったの?」 「うん。ちょっと色々あってさ。ゴメンな」 そう言うと、彼女はそっか!気にしないで!と太陽のように笑う。 「あ…ねぇ、一之瀬君、それ…」 彼女は俺が手に持つ花束を指す。なんだか不思議そうな顔をしている。そりゃぁそうか。部活に花束なんてあまりにも似つかない。 「明にプレゼント」 「わっ私に!?」 とっさに買ってしまった物だけど、彼女にプレゼントしようと思ったのは本当だ。真っ赤になったところも本当可愛い。 「えっ、なっなんで?秋ちゃんじゃないの?」 「なんでそこに秋が出てくるのさ」 「なっ…なんと、なく。」 目を合わせようとしない彼女を見て、俺はなんとなく理由がわかった気がした。だけど、それを口にしようなどとは思わなかった。 「そういえばさ、明はチューリップの花言葉知ってる?」 「花言葉…?ううん、知らない」 だよね。俺も知らない。そう言えば彼女は何それ、と苦笑いを浮かべた。花言葉、秋なら知ってるのかな?まぁいいか。 「あっ、明それ俺の気持ち!なんてね」 冗談まじりに言って、ダッシュで彼女の横を通りすぎてグラウンドへ向かう。多分そんな大した意味じゃないだろう。 「あっ一之瀬君、遅かったね」 「うん、ちょっとね。あっ、そうだ…ねぇ、秋」 チューリップの花言葉って知ってる? そう聞けば、秋は知ってる、と答えた。興味本位で教えて。と聞く。 「えっと、確か…」 秋は、俺が渡したチューリップを持った明を見て笑みを浮かべながらこう言った。 【愛の宣言】 どうしよう。何が、俺の気持ちだ。 (チューリップの花言葉) (まだ彼女には) (知られたくない。) END |