稲妻11 | ナノ




学生達の天敵…それはテストだ。テスト一週間前には全ての部活が活動停止になってテストに臨む為準備を強制的に強いられる。それはサッカー部も例外ではなく、毎日遅くまで練習している部員達は、この期間に頭に詰め込むように勉強しなければ学期末の通知表が恐ろしい事になる。

本当に馬鹿という代名詞が一番似合うであろう俺の幼なじみの明は、毎回この時期に悪びれる事もない顔で当たり前の様に同じ台詞が飛び出してくる


『一郎太、勉強教えてっ!』

「いいぜ、何の教科だ?」

『英語に…数学…あと国語と社会と理科!』

「明…それ全部じゃないか」


呆れた様に言えば、あはは…と頭をかいて笑う明。それを見ながら俺は全くなんて言いながらも自然と笑みが零れた。これだけはヒロトも、鬼道も、豪炎寺にも譲ってやらない。

これは俺だけの特権なんだから。

幼なじみの俺だけの…。実際、それがどうしようもなく嬉しかったりする。だからといってテストは勿論、嫌い。だけど、誰でもない俺に頼ってくれる明と二人で勉強が出来る。それが少し楽しみでもあるから嫌いなテストも捨てたものではない。

並んで帰る帰り道。テスト勉強のお供にコンビニでお菓子を買って帰る


『一郎太、どれ買うの?』

「えっと…これかな。明は?」

『私はね…パピコ!』

「お前…この時期にアイスかよ…腹壊すなよ」

『大丈夫、大丈夫!』


買った物を精算しコンビニを出る。すると早速明は先程買ったパピコを取り出し、いきなりポキッと二つに割り、俺の前に差し出してきた


「明?」

『はいっ、一郎太にあげる!』


明からハピコを半強制的に受け取らされた。ひんやりとした感覚か俺の手に移る。まぁ、たまにはいいか。と俺は受けとったハピコを口に含む。

美味いね、なんて言いながら笑う明に、そうだな、と相槌を打ち。お互いコンビニ袋をぶら下げて明の家に向かう。明の家について、お菓子をつまみながら早速勉強を始める


『一郎太、ここの答えなに?』

「明、それ基本問題だろ」

『この時間多分、私寝ちゃってたんだよね。ノートも抜けてるし』

「はぁ…お前それが分からないの結構まずいぞ?」

『嘘っ!あぁ…お願い一郎太教えて!』

「たくっ、分かったよ。ただし今回はスパルタだからな」

『えへへ、ありがとう!』


今回は俺が予想していたよりもかなりひどい様だ。教えてるこっち的には赤点をとらせる訳にはいかないけど、範囲を全てなぞって教える時間はない。とにかくテスト範囲の最初から要点をたたき込むことにしよう。平均を下回ったとしてもとにかく最低ラインである40点は確保しなければならない

必要がなさそうなところは出来るだけ飛ばし、明に一から教よう。こんな事をしていたら自分の勉強は捗らないように見えるが、案外、コイツに教えているせいか、勝手に自分の力になってくれている。
毎回こんな感じで、自分の勉強は後回し。だけど、俺はなんとかそれなりの点数をとっているから基本問題はない。というか、まぁ…コイツの為なら別に自分の事は後でもいいとか思っている。

俺が教科書を読み上げていると、やけに明が静かだった。不審に思い視線を投げ掛ければ明が半目で、ゆらゆらと船をこいでいた。

眠い。

まるで身体全体で表明しているような感じだ。ちなみに勉強は範囲の全くもって終わっていない。ここで寝られたらそうとう困る。


「おい、明!全然勉強進んでないだろ」

『…んー』

「明ー」

『…ん…』

「おーい」

『………』


いくら呼んでも無反応に近い様子。あ、もうこれは駄目だな。仕方ない一度寝かせようか…。スパルタなんて言っておいて結局俺は明に甘いのだ

完全にお手上げ状態の明は既に夢の中に旅立った様だった。机に突っ伏してすやすやと眠っている。気持ち良さそうだな…なぁ、俺も連れて行ってくれよ

明の部屋は第二の俺の部屋みたいなものなので、ブランケットをクロゼットから出して明の丸まった背中にかけてやった。気持ち良さそうに眠る明をまじまじと見つめてみる

長い睫毛に可愛い寝顔。起きている時とはまた別の魅力をかもち出している。そういえば、明の目を好きだと誰かが言っていた気がする。

そんなの俺だって昔から好きだ

他にもいくら直しても直らないくせ毛や
幼さを際立たせる丸みを帯びた頬。健康的な肌の色。細い首筋。無いに等しい胸。ハリがある足。締まった足首。

明を構成するものは、みんな魅力的に見えてしまう。それは俺が明を好きって事実に他ならない


「本当、可愛い奴…」


昔から何も変わらないこの幼い寝顔に胸が疼く。弾力のある頬を人差し指で突いてみる。ぷにっとしてすべすべしている肌触りが愛しい。撫でてやれば擽ったそうに身じろいだ。起こしてしまったかと慌てて手を引く。だが、相変わらず規則正しい寝息が響くだけだった。ホッとして胸を撫で下ろして、また明を見つめる


薄く開いた唇に喉がなる。こんなに寝入っている今ならキス出来る。なんてよこしまな考えが自分を揺らすが頭を振って凌いだ。寝ている明にしたって意味がないじゃないか。俺は明の気持ちが欲しいんだから。気持ちの篭らないキスなんて自分が虚しいだけじゃないか。

それに


「そんな事したら俺はコイツの親友でいられないか」


寂しい独り言が響いた。隣の明は夢の中。一体どんな夢を見ているのだろうか…俺の夢だったら良いな…。出来れば他の奴は出ずに、俺だけが出る夢ならさらに嬉しい

俺は寝るとき毎日お前の夢を見たいって思ってるんだぞ?夢の中の俺達はやっぱり笑っている。いつもと違うのは時々抱き合って拙いキスなんかしてる事だ。

そして、俺が我慢出来なくて、明を押し倒した所で毎回弾かれたように目が覚める

そして、なんだかひどい罪悪感に襲われるのだ。そんな夢を見た日には明の目を真っ向から見れない

明への恋心。それは日に日に成長している。いつからだったろうか…。幼なじみが親友に、親友から初恋に成り代わったのは…。

日々を重ねるごとに、思い出を重ねるごとに、淡い想いが炎を纏いこの身を焦がす


「…明、好きだよ」

『んっ…い、ち…ろうたぁ…』

「…ばか…」


起きているコイツにこの一言が言えたらどんなに楽になれるだろう。明の髪を撫でてみる。柔らかい手触りに、それだけでこんなに満たされる

暖かい気持ちが身を満たして、なんだか眠くなりそうだ。あぁ、それなら眠ってしまおう。安らかな時間に任せて、高鳴る鼓動には気付かないフリ。起きればまた…この幼なじみの勉強を見てやるんだ

結局俺は臆病者なのさ。納得なんて出来ないくせに、幼なじみの枠から抜けることを躊躇してる。この立場の居心地の良さに甘えているんだ。心は愛してくれ、なんて…泣いているのに、な


「…明」


空気にまで掻き消されそうな程、小さな声で“好きだ”と囁いた。明の長い睫毛が震えた気がしたのは…はたして俺が生み出した都合の良い妄想か…はたまた現実か…


【この思いを伝えるその日まで】
俺はお前にとっての一番の理解者でありたいよ
(夢の中の俺なら)
(この思いを伝えているのにな…)

End