夜明けの光でカーテンが明るく染まる。あぁ、朝か…なんて思いながら、まだ覚醒していない頭で時計を見ると短針はまだ4時を過ぎたところを差していた。早すぎる。まだあと2、3時間は寝れる。もう一度布団の中へと入ろうと思ったときに、ふと隣ですやすやと眠る少女の姿が目に入る。 黒くて、艶のある髪。長い睫毛。ふっくらとした唇。今にも噛み付きたくなるような白い肌。私の全てを掻き立てるのに十分だった。 「…明」 彼女の髪を掬い上げながら名前を言う。自分の心の奥がふわふわして何だかくすぐったい。彼女の事をどう思っているのかと聞かれれば、愛してると言える。だが、それは言えない。それが彼女と私だった。 「なぜ…お前と私は…」 こんなにも違うのだろうな。 彼女はとても幸せそうな顔をしながら眠っている。よくもまぁそんな顔で眠れる物だ。関心と呆れが混じる溜息を一つ。 天使と下界の者とは決して交わってはいけない。そんな事、とうの昔に分かっている事だった。ここに呼ばれるべきなのは伝承のカギを持つ者だけ。彼女は違う。いや、まだ試していないのだ。彼女が魔王の花嫁になるのは嫌だからという個人的な願いの為だけに。 「せ、いん…?」 どうかしたの?彼女のソプラノ声が部屋に響く。愛おしい彼女はまだ眠たそうな顔をしながらただ見つめてくるだけだった。 「まだ早い。眠っておけ…」 そう言って彼女の頭を優しく撫でてやると気持ち良さそうに微笑みながら彼女は再び眠りに落ちた。 「…お前は、まだ何も知らなくいい」 そう、何も知らなくていい。こんな気持ちを知っているのは私だけでいい。 「セイン、分かってるの?…禁忌の恋なんて有り得ないって事…」 いつものように彼女と過ごし、そして彼女が帰って行ったその日に、ギュエールは口を辛くしてそう言った。 「当たり前だ…この私が人間などと関係を持つわけない」 「なら、いいけど…」 恋なんかしているつもりは無かった。ただ興味本位で彼女をここへ連れてきた。ただ、それだけだった。なのに、彼女に、明に、気付かされてしまった。 「こんなにも、愛してるのに…」 本当にただ、それだけなのに。どうしてこんなにも報われないんだ。 【私と君は違うから】 結ばれてはいけないのだ。 (頭で理解しても) (心が君を求め続け、) (私は今日も涙を流す) END |