部活も終わり、着替えに行った彼をグランドの方で待つ。なんだか落ち着かなくて、そわそわしてしまう。よし。場所を変えよう。少しくらい移動しても彼なら怒らない。そんな勝手な思いから校門の方へと移動する。 「明ちゃん」 「あっ、秋先輩」 ちょうど片付けをし終えた秋先輩が移動しようとするときに来た。ちょうどいいから伝言でも頼もうと思い、彼に校門で待っているという事を伝えるようにお願いした 「わかった。任せて!」 「えっと、はい。お願いします。」 いつもより何故か楽しそうに見えます、秋先輩。うきうきしているようにも見える秋先輩を後に、私は校門へと向かう。 ぼーっとしながら彼を待つ。このまま帰れたらどれだけ幸せなんだろうな…。 「明、ゴメン。待たせたな」 ぼーっとしていた私にいきなり声が聞こえ、驚いた。恐る恐る振り向くと、やはりそこには彼か、いた。 「別に、そんなに待ってない。」 素っ気なく返せば苦笑いを浮かべた。 「ならよかった。それじゃ、帰るぞ」 突然手を捕まれた。頭が追いつかない。一気に顔が赤くなる。なんだ、これ…まるで恋人同士じゃない。ちらっと彼を見れば、涼しい顔をしながら歩いている。 「なぁ、明」 「なっなによ…」 「なんか、お前冷たい…」 しゅんとした声でそう言われた。しかしこれは彼の策略。今日の事だってそうだ。彼は私が断るのが苦手な事を知ってるからこそ、春奈に部活の事を仕向けさせた。今だってそうだ。彼は私が彼の弱った声が苦手なことを知っていてこうして私の気を引く。 「冷たくない、よ」 冷たい。というより、正直…彼の顔をまともに見られないのだ。というより見られるはずがない。赤くなっている顔を隠すだけでも精一杯なのに… 「もしかしてキスしたこと怒ってるのか…?」 それを聞いた瞬間、また一気に熱が顔に集中した。そして自然に鮮明に記憶が蘇る、彼の唇の感触…。あぁ、私は変態か!必死にそれを振り切る様に強く頭を振る。それを否定の意味に捉えたのか、彼は少し安心した様にふっ、と笑う。 「ははっ、可愛いな明」 信じられないことを言われてバッと彼の方を見ると、ふにゃりと、優しく笑っていた。なんだか何かに癒やされたかの様だ。 「やっとこっち見てくれたな」 途端に明るい笑顔を見せられたら、一溜まりも、ない。 「やっぱり…」 「ん?」 「やっぱり、いっちゃんはズルい…」 目を逸らしながら口を尖らせて呟くと、彼はきょとんとした顔をしながら私を見る 「俺が?どうして?」 「わっ分かってるんでしょ!」 「分からないさ」 嘘だっ!そう言おうとして彼を見れば、ばちりと目が合う。そして、いきなり頬に手を添えられてしまった。 「言わなきゃ分からないぞ、明」 困った顔で綺麗に笑う彼を見ると、私の心臓はとくんと高鳴る。あぁ…やっぱりいっちゃんは、ズルい 「…いっちゃんは…」 私がずっと昼から気になっていることを正直に聞こうとする。だけど私の口は緊張して言うことを聞いてはくれない。彼に頬を手で添えられている所為で俯くことは許してはくれない。 私の中で、凄く情けないと頭では分かっていてもなかなか勇気が出ない。そんな私をじっと見つめてる彼はいきなりくすくすと笑いはじめた。 「な、なんで笑うの!」 「すっ、すまん、明」 口では謝るけど笑いを止めようとしている様子は全くない。ふう、と笑いをひと段落させたら私の方を見てまた微笑んだ。 「好きに決まってる…」 全ての時間が一瞬にして止まった気がした。彼の…いっちゃんの微笑みがあまりに綺麗に保たれていたから…。 「なに、が?」 まさか、私の思考を読み取ったのかだろうか。そんなエスパーな事出来るの?えっ、えっ…? 「明が。」 さも当然だと言う様に口からさらりと出てきたのは紛れもなく私の名前。 「聞きたそうにしてしたからな、俺が明のこと好きなのか、ってな」 「な、んで…」 なんで分かるんの?さっきは言わなきゃ分からないとか言ったくせに、なんで? 「案外鈍いよな、明って」 「…え?」 「俺が何考えてるか分からない?昔からの付き合いなのに」 「ゴメン、まったく…」 読み取れない。いや、読み取れる筈がないんだ、いっちゃんの思考など。 「はぁ…仕方ない奴だな…」 呆れているのか、それとも楽しんでいるのか…。どちらかはわからないが、私には、彼にそんな表情をされる覚えなど何一つない。少しムカついて、不満を主張する為に眉をひそめて彼を見る 「明、言えよ…好きって…」 今日何回目かの彼による爆弾が投下。本当に何を言ってるの?頭は大丈夫なの?彼にそんな批判を心の中で呟くと同時に一瞬で今日の昼のことが思い出された 明って、昔から俺の事好きだったろ 「…明?」 彼に顔を覗き込まれるが、私の頭はもう何も考えられない。少なくとも私が彼のことを好きだという前提で話が進んでいるからだ。もう、頭がショート寸前だ。 「おい、明!」 「ひゃいっ!」 我にかえった途端に顔が熱くなる。私の顔は確実に真っ赤になっている。だけど、だけど、さ…いっちゃんは勇気を出して私なんかに伝えてくれたんだ…好きだって…だから私も勇気を出さなきゃいけない。 「いっ、いっちゃん…」 「なん…っ!」 なんだか彼の策略にはまりっぱなしのままなのが悔しくて、ぐっと彼を引き寄せて、頬にキスを落とす。そして… 「すっ…好き、です!」 そう伝えると一瞬きょとんとした彼だったが、その後、顔を赤く染めて…う、嘘、と小さく呟いた。と、思った矢先強い力で抱きしめられる。人が少ないと言えども、ここは道端。びっくりした私は彼から離れようとするが、離さないというようにギュッ抱きしめられた。そして、少しだけだから…なんて甘えた声で囁くのだ。これも策略だ。だって私は彼の甘えに弱い 「明…すっごい嬉しい」 体勢から自然に耳元で囁かれる形になる。なんだかくすぐったい。身体を密着させているから、彼の心臓の鼓動がとても早いを感じた。あぁ…彼も緊張してるんだ。 「明っ」 身体をゆっくり離されて、嬉しそうに笑う彼から本日二度目のキスが彼から降ってきた。 「さっきのお返し、な」 なんて余裕綽々のあの笑みで言う。そんな彼にバカっと返した。だけど、少し嬉しいなんて思った、私は相当彼に惚れてしまっているみたいだ。 【ズルイ貴方と子供な私】 彼はいつだってズルイ。 (だけど、私は) (そんなズルイ彼が) (好きなんだ。) END(?) |