部屋のドアが開く。そこには部屋のベッドに寝転がりながらサッカーの雑誌を読んでいる一人の少女がいた。 『あっ、お帰りなさい、レーゼ』 「あぁ…」 レーゼと呼ばれた少年は部屋に明がいた事に少し安堵しながら「ただいま」と答え、部屋へと入る。 『今回の雷門は、どうだった?』 「32対0。意気がっていたわりに、口ほどでも無かった。」 『そっか…レーゼ達が勝ったんだ。よかった』 明はレーゼ達が勝った事を知ると笑みを浮かべながら安堵した。レーゼはゆっくりとベッドに腰掛けた。 「明」 『ん、どうかした?』 「…」 何も言わないレーゼに明は溜息を一つ落とした後、腰掛けたレーゼの隣に座る 『レーゼ…?』 「明…。我は今レーゼでは、ない…」 とっさに力無く抱き着かれる。離してと言っても断固拒否なんて事はわかっている。だから、明は何も言わずに抱きしめ返した。 『じゃぁ口調元に戻そうよ』 「あぁ…じゃなかった、うん…」 苦笑いを浮かべる明はふと、レーゼの事を考えた。レーゼは明といるときと、チームメイトの前では性格が全く違う。全てはお父様の為に。その思いでレーゼは、いや緑川リュウジはキャラを作るのだ。 「明、俺ちゃんと“レーゼ”になれてたかな?」 『うん、大丈夫なれてたと思う』 「そっか…明が言うんなら大丈夫かな」 リュウジは何か緊張の糸が緩んだように明にもう一度、抱き着いた 「このキャラ、本当疲れる」 『じゃあ、止めればいいのに』 「それじゃぁ、宇宙人ぽくないだろ?」 『そうだけど…』 明は、レーゼではなく、いつものリュウジでいて欲しい。そう思っていた。無理をして宇宙人のキャラ作るなんて事をしと欲しくない。 彼には彼らしくいて欲しい。 「大丈夫さ…!ちゃんとした俺を明が見てくれてるんだから!」 『リュウジ…』 リュウジは明をさらに強く抱きしめる。ここ、エイリア学園で、唯一自分の存在を認めてくれる彼女を…。“レーゼ”ではなく“緑川リュウジ”という存在と一緒にいてくれる彼女を… 「俺、次の雷門の試合で勝ったら…話があるんだ。だからさ、もう少しだけ待ってて…明」 『うん、わかった…待ってるよ。』 ただ、抱き合う二人。それだけの行為がとても幸せに感じた。恋人ではない二人はキスをしたり、お互いを求めあう事はしない。それ以上に今、大切な事がここにあるから 『リュウジ…』 「ん、なに?」 『次の試合、頑張って』 「勝つよ…誰の為でもない。明の為に、必ず…」 決意に満ちた目をしながらリュウジはひたすら彼女の温もりを感じた。 【愛の言葉を囁くまで】 言わなくても互いの気持ちなんて分かってるけど…今は言葉にするのはできないの (まさかこの次の試合で) (この温もりがなくなるなんて) (私は予想もしなかった) END |