稲妻11 | ナノ



昼休みに彼にあんな事をされて、私の頭の中はその事ばかりだった。移動教室には10分以上遅れて、先生の逆鱗に触れ散々な目にあってしまった。深々と溜息をしてから自分の席に座る。


「明ちゃん」


後ろから春奈に呼ばれて後ろを振り返る。どうしたの?そう聞けば、メモ用紙を持った春奈がキラキラとした目で何があったの?と聞いてきた。


「なっ、なんにも…ない、よ」


とっさに前を向いてそう答えると春奈は意地悪と言った。好きに言えばいい。あんな事…言えるはずがない…今思い出しても恥ずかしくて死にそうだ。

時間は勝手に過ぎるもので、いつの間にか5時間目が終わり次は待ちに待った体育。先程からずっと話しかけてくる春奈。お願いだから何も聞かないで欲しい。切実にそう思った。

グランドに出て、授業の準備をしている私に春奈が話しかけてきた。


「明ちゃん」

「だから、何も無いって!」

「そっちじゃなくて、見てみて、キャプテンのクラスとお兄ちゃんのクラス向こうでやってるよ!」

「えっ…?」


春奈の指差す方を見ると、サッカー部の人達が沢山いる。守君に豪炎寺先輩、鬼道先輩に半田先輩、松野先輩、染岡先輩、そして…


「いっ、ちゃん………っ…」


とっさに自分の口を手で抑える。よかった。誰にも聞こえてない。2年の男子も今日はサッカーのようだ。なんでこんな日に限って…


「明ちゃん、話し掛けに行こうよ!」


何もしらない春奈は私の手を掴みぐいぐい引っ張ってくる。あぁ、本当にやめてくれ…!


「お兄ちゃーん、せんぱーい」


私の手を引き2年の方へ向かう春奈に私はなんの抵抗も出来ずにいた。


「春奈、どうした?お前も体育なのか?」
「うん、そうなの」


鬼道先輩は春奈を見かけると楽しそうに話し出す。私は一人ぽつんとおいてけぼりで、どうすればいいのか考え中。


「おっ、明!」

「守君」


そんな時だ。どうしたんだ?といつものにこやかな顔で微笑まれる。私は逆に苦笑いで付き添い。と答える。


「そっか!あっそうだ風丸もいるんだぜ!おぉい風丸」

「まっ守君まっ「なんだ円堂」っ!」


私の静止などなんの効果もなく守君が彼を呼び…そして、後ろから彼の声。


「今さ明と話してたんだ!なんか久しぶりだな三人で集まるの!」

「本当だな!」


私を挟んで楽しく話す二人。私は今だに守君の方を見続ける。


「まっ守君、私そろそろ行くよ!授業始まっちゃう、し」

「もう少し大丈夫だろ?」


後ろから頭をポンポンと叩かれて耳元で囁かれる。びくっと肩が震える。彼の所為で変に身体が熱くなってしまって、私の身体は固まる。


「っ…」


意を決して振り返り彼を見れば、なんだか楽しそうに笑っていて…かなりムカついた。だけど、いくらムカついていても彼を見れば勝手にドキドキし始める心臓。どうしよう、なんだか今日の私、変だ。

頭の中ではまた彼の事ばかりになって、ぼーっとし始めた頃、ちょうどチャイムが鳴り響いた。今の私にとっては助け舟にほかならない。


「わっ私、行くね!」


とっさに彼の手からすり抜ける。ヤバい、ドキドキしっぱなし、だ…。囁かれた耳が熱い。いや、その前に顔全体が熱い。
そのあとは勝手に時間は過ぎるもので、私は必死にサッカーに集中した。


「明ちゃん、今日ずっと風丸先輩見てるよ?」

「へっ?」


春奈の言葉にはっと気付く。やっぱりサッカー部員が多いから、みんな上手いな。なんて思いながら2年の方を見て、休憩中もずっと見ていた。だけど、私は他のサッカー部員よりも、無意識に彼を目で追っていたようだ。真っ赤になって俯いていると春奈に可愛いだなんてからかわれた。最悪だ。


「ねぇ、明ちゃん」

「ん、なに?」

「今日、練習見に来るんだよね!」

「はっ…なにそれ…誰が言ってたの?」


目を丸くして言う私に春奈はさも当たり前のように風丸先輩!と言った。彼は見た目によらずかなりの策略家なのだという事をすっかり忘れていた。これで逃げられなくなった。


「私、明ちゃんが来てくれるのすっごく嬉しいな!」

「はぁ…」


こんな笑顔の春奈に行かない。なんて言えずに、私は大人しくサッカー部の練習を見に行く事にした。


【彼はかなりの策略家】こうなったら、もうやけくそよ!
(彼は私を)
(逃がしては)
(くれないようです)

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