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コビーの一目惚れ

「ほら、あいつだよ」
「あァ、海軍将校になるって大声で宣言したやつか」
「あんな贅肉だるだるでなれんのかよ」
「ははは!」

ガープ中将に連れられ海軍本部に来てから、雑用しながら鍛えてもらっている最中、ぼくのあまり良くない噂が広まりつつあった。既存の訓練兵たちからはあまり良く思われていなかったみたいで、その事で少し落ち込んでいたらヘルメッポさんに「気にするな、俺なんかマッシュ野郎と罵られた」と励まされながら昼食を取ってきた時に、事は起きた。

「っ冷て!んだよ!誰だ!?」
「人のことを笑う前に自分をなんとかしなさいよ」
「なんだとっ!?」
「私たちは誰一人、笑うことは出来ない」

みんな、上を目指しているんだから
そう、意思のこもった言葉を言い放つ彼女から目を奪われた。彼女はいきなり現れてぼくの悪口を言っている兵士に水をぶっかけて、颯爽とその場から去り水を入れ直してから空いている席に座って名物の海軍カレーを食べ始めた。

「…かっこいい」
「コビー、お前…オチたな…」
「えっ!?」

はあ、とため息をついたヘルメッポさんにどういう意味だと聞いても答えてはくれなかった。

その日から彼女を見かけるたびに目で追ってしまっている自分がいた。でも彼女の周りには常に誰かが居て話しかける事すら困難だ。あの時のたった一瞬の出来事を覚えているかも分からないけど、せめてお礼くらい言わないと…!と思いながもあれから2週間がすぎていた。
最近は修行が過酷すぎてもう朝方になっていることが多く、その日も歩きながら寝てしまうようなそんな疲れ切っていた時だった。早く布団に入って眠りたいと、一直線に寮へ向かっている時に聞き覚えのある凛とした声が聞こえてきた。

「あの、落としましたよ」
「…っ!あ、え!ああ!」
「起きて、ます?」
「はい!今!覚めました!」

後ろから声が聞こえて振り返ってみれば彼女がいた。なんでこんなタイミングで…!寝ぼけ顔に服装もしゃんとしていないのに…!慌ててシャツを伸ばして、ぼくが落としたであろうハンカチを彼女から貰ってお礼を言う。
やっと、話すタイミングが出来たことに喜んでつい「あの!」と声をかけた。

「こ、この間は庇っていただきありがとうございました!」
「かばう…?あぁ、あれか。全然大したことは…」
「いえ!ぼくは嬉しかったです!」
「…なら、どういたしまして」

ふふ、と小さく笑った彼女は花が咲いたように可愛くて、どうしても目が離せない。ぼくより身長が高い彼女を見上げて、思い切って名前を聞こうとしたら彼女の方からぼくの名前が飛び出した。

「コビーくん、だよね?」
「え、あ!は、はい!」
「あ、私はなまえっていいます。二等兵です」
「なまえさん…」
「私たち、多分同い年だよ。だから敬語とかなくて大丈夫ですよ」
「で、ですが!ぼくはまだ雑用なので…!」
「…気にしなくていいのに」
「気にしますよ…!」
「まあ、いいや。よろしくね、コビーくん」

彼女に名前を知られていたことも彼女の名前を知れたことも嬉しくて眠気なんてどこかへ消えてしまった。
そのまま彼女は、どこかへ向かう途中だったみたいで「じゃあ」と言って去っていこうとした。名残惜しくさよならをすれば何かを思い出したかのように彼女は振り向いた。

「あ、コビーくん」
「ぅえ!」
「君、かっこいいよ」
「っ!」
「お互いがんばろうね」

そう言ってニコッと笑って去っていく彼女の後ろ姿を見て胸が締め付けられた。ぎゅうと心臓部分の服を掴んでいるとヘルメッポさんが偶然通りかかって、心配されたが何も答えることは出来なくてただただ悶えていた。

その日から、半年ほど彼女の姿が見えなくなった。食堂にもいないし、訓練場にもいない。どこを探しても彼女は居なかった。でもぼくは、彼女の言った"お互いがんばろうね"の一言でただひたすらに修行に打ち込んだ。そのおかげでぼくは曹長にまで上り詰めることができた。ガープ中将の鬼の修行は厳しかったけど、結果が出て本当に感謝だ。ウォーターセブンであったルフィさんにも新たな目標を告白して、それでも笑わずに聞いてくれたことに心が熱くなった。

そしてある日の夜、ヘルメッポさんが情報を聞きつけたみたいでその噂がぼくの耳に入ってきた。

「おい!コビー!お前が惚れてるあの女、おつる中将の船に入ってたらしいぞ!」
「なまえさんが!?」
「さっき船が着いたってよ!会いに行け!」
「む、無理だよ!無理無理!半年あってなかったんだからもう、忘れられてるよ…」
「会ってみなきゃわかんねェだろ!とりあえず、行け!」

ヘルメッポさんに背中を押されて勢いのまま港へ走った。もし忘れられていたらどうしよう。僕のことなんか彼女にとってはミジンコ程度の存在かもしれない。
でもこの半年、彼女の言葉があったから頑張れた。六式の剃だってつかえるようになったんだ。だからお礼を言うくらいなら、と意気込んで走ればもう港にはおつる中将の船はついていて、みんな船から降りてきているところだった。なまえさんはまだ船にいるのか、と周りを探してみても見当たらない。会えなかった…と肩を落として俯いてUターンする。所詮、勢いだけでは無駄だった。少しでも成長した自分を見てもらいたかった。あわよくば友達になって、また励ましあったりする仲になりたいなんて思ってたのに…としょぼくれていた時、人影が見えふと顔を上げれば、上を見上げて立っている人がいた。

「っ!なまえさん!」
「…?」

声をかければ、彼女もこちらを向いてくれたけれど、ぼくの顔を見ても思い出してはくれないようで少しショックを受けた。やっぱり、忘れてるよね…と肩を落とせば凛とした声が響いた。

「もしかして、コビーくん?」
「っ!そ、そうです!」
「やっぱり!吃驚した、半年会ってないだけでそんなに成長するなんて」

男の子だね、と花が咲いたように笑うなまえさんにまた心を奪われた。忘れられていなかった。覚えていてくれた。嬉しい、天にも舞い上がってしまいそうで、思わず口がにやけてしまう。慌てて口元を押さえ、顔が赤いのを必死で隠しながらなまえさんに話したかった事を一生懸命に告げた。

「あの!なまえさん!ぼくは曹長になりました!っあ、なまえさんはもっと上に上がられたとは思いますが…!」
「ううん、私は…まだ、上がってないよ」

おめでとう。コビーくんのが上司になっちゃったね、と彼女はハの字に眉を下げながら話した。そしてまた上向いて、空高くにある月を見上げながら話し出した。

「見て、今日は満月なんだね」
「そ、そうですね…」
「もうコビーくんのが上なんだから敬語辞めてよ。あ、逆に私が敬語使わなきゃいけないのか」
「いや!そのままで!普通に!」
「じゃあ2人の時だけ…あと、さん付けもダメだよ」

微笑みながらぼくに向ける視線はとても穏やかでまた胸が高鳴った。そして、彼女は近づいてきてぼくの額に触れて「この傷…痛むの…?」と聞いてきたけど、ぼくはその質問に答えずにその手を握って彼女の瞳に視線を合わせた。

言わなくちゃ、この半年君の言葉に励まされて頑張れたって。言わなくちゃ、君のことが好きだって。

「あの!なまえ、ちゃん!!」
「ん?」

言わなくちゃ、

「ぼ、ぼくはいつか!海軍大将の座についてみせます!」
「っ!」
「だから、その時は…ぼくと結婚してください!!」

風を切るように頭を下げて、数秒沈黙が流れる。あれ?いま、ぼくは何を言ったんだ…?何か壮大すぎるような事を言わなかったか…?と不安になり、ゆっくりと顔を上げれば目を大きく見開いたなまえちゃんがいて、とてつもない事をやらかしてしまったんだと自覚した。

「いや、その!すみません!今の忘れてください!なかったことにしてください!気持ち悪いよね!ごめんなさい、自分でも何でこんなこと口走ったのか…!」
「コビーくんが、大将になったら…?」
「へ…?」
「海軍大将になったら、結婚、してくれるの?」
「あ、いや…その、そ、そうなればいいな、って…あ、でも…!」
「待ってる」
「っ!」
「待ってるね、コビーくん」

頬を赤く染めて照れ臭そうに笑った彼女は「じゃあ、またね」と言い残して去っていった。ぼくはと言うとただ放心状態でその場に立ち尽くすだけで、数秒後にハッとなって言われた意味を理解して気付けばガッツポーズで叫んでいた。