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誓います

「あら、あなたがなまえちゃん?」

森に迷い込んだと思い、光ある方へ歩いていけば広場があって小さなテーブルと紅茶を飲んでいる女性の人に出会った。
急に話しかけられて、しかも名前を呼ばれてしまって戸惑っていたら「座って?」と向かいの席に案内された。

「あの…?」
「ふふ、ニジは可愛い子を見つけたのね」
「ニジ様とお知り合いなんですか…?」
「ええ、そうよ」

ニッコリと花が咲くように笑う女性にはてなマークが止まらない私。ニジ様の知り合いでこんな綺麗な人、いたっけなあ…。あの香水の匂いがキツイ薄紫の髪色の女性以外にもキープはいたということなのだろうか…いや、でもこの人…誰かに似ている。
そうだ、あの人にそっくりなんだ。私の憧れの…。

「レイジュ…さま…?」
「ふふふ、そんなに似ているかしら?」
「そっくりです!髪色がピンクならまんま…っ!まさか…!」
「ニジの側にいてくれてありがとう」

優しく愛しそうに微笑むその人はまるで女神のように輝いていた。そんな言葉を貰う資格が私にはない、と首を振れば温かいぬくもりが私の手を包んだ。

「離れ離れになって辛かったでしょう」
「…っ、はい」
「でも、離れ離れになったからこそニジのことをもっと好きになったでしょう」
「はい…!」
「ならもう大丈夫ね、きっと2人で幸せになれるわ」
「あの…あなたは…!」
「さて、私ももう一仕事しなくちゃね」

気合いを入れて腕まくりする女性に再びはてなマークを飛ばせば、「安心して!」と強く抱きしめられた。それにビックリしているのもつかの間、すぐに離れてしっかりと見つめられ微笑まれた。

「あなた達の1番の障害を説得するわ!」
「障害…?説得って…?」
「私もあの人を愛しているの、今でもね」
「っ!それって…!」
「一度決めたことを曲げないのも困り者よね、私の最後のお願いは聞いてくれるかしら?」

可愛い子供たちの事だもん、聞いてくれないと困るわ!
そう言って眉毛を顰めて唇を尖らせる女性に少し笑いが溢れてしまった。すると、笑った私を見てその女性は安心したようにまた微笑んだ。

「その笑顔、もっとニジに見せてあげて」
「はい!ずっと隣で笑っています!」
「ふふふ、あの子も幸せものね!ニジが好きになった子がなまえちゃんで良かったわ」
「あ、ありがとうございます!」
「それじゃあ、もう行かなくちゃ」

そう言って残念そうな顔をしながら後ろを向いて行ってしまいそうになる女性を私は慌てて追いかけて引き止めた。

「あの!また、また会えますか?」

また会いたい、話がしたい、その想いを胸に問てみれば女性は曖昧に笑って手を振るだけだった。

そして私は目を覚ました。
ここは、何処だ…?と周りを見渡してみれば見覚えのない部屋の中で、広いベッドに寝ていたらしい。ああ、確かニジ様と一緒にジェルマ王国に向かっている最中だったな。キョロキョロと彼の姿を探してみてもこの部屋にはいないようで、私はベッドから出て窓を開けた。そこには広い海が広がっていて、そう言えば船の上だったなと思い知る。
島のみんなにはお別れを言ったが、寂しいものは寂しい。ジェルマ王国から出て行った時を思い出して涙が流れたが、それをニジ様が拭ってくれた。後悔はしない。私はこれからずっとニジ様の隣で生きて行くと決めたのだから。海から来る潮風を浴びていると部屋の扉が開く音がして振り向けば、ニジ様が入ってくるところだった。

「おはようございます、ニジ様」
「あァ」
「どこ行ってたんですか?」
「どこでもいいだろ」
「ちょっと…!」

近づいてきたと思ったらそのまま腕を掴まれてベッドに放り投げられる。人を物みたいに…!と言おうとすれば上にニジ様が乗っかってくる。まだやり足りないとでも言うのだろうか、この性欲オバケ王子め…!どうやって回避しようかと必死で考えていれば特に何をするでもなくただ見つめられただけだった。
前にその瞳がレイジュ様に似ていると思ったことがあったなあ。あれはレイジュ様に、じゃなくてあの女性に、が正しかったのかもしれない。

「父上から連絡がきた」
「え、…な、なんて…?」
「おれ達の結婚を許す、と」
「それって…!」
「やっと結ばれるって事だな」

嬉しくて抱きつけばニジ様も私の頭を撫でながら嬉しそうに笑っていた。少し離れてキスをせがむとすぐに舌が絡んで甘い口づけを交わした。

「でも、なんで急に…?」
「さァな、夢見心地が良かったそうだ」
「ゆめみごこち…?っあ!」
「なんだ?」
「あ、いや…私も、夢見心地が良かったなぁって」

誤魔化すように笑えば変な奴と言いたげな表情をされた。きっとあの人だ。あの人のお陰で私たちはようやく結ばれる。嬉しくてつい口元がにやけてしまってニジ様には気持ちわりィと言われた。かなり傷ついた。

「ねぇ、ニジ様のお母様ってどんな人だったんですか?」
「…覚えてねェ、おれ達がガキの頃に死んだからな」
「そうなんですね、でもきっと素敵な人だったんでしょうね」
「なんでそう思う?」
「勘ってやつです」

女の勘は結構当たるんですよ?と笑えばニジ様は訳がわからないと言いたげな表情になり、ため息をついた。
その時、開けっ放しにしていた窓から一匹の蝶が入り込んできて、ひらひらと飛びながら私の左手薬指に止まった。海を渡る蝶なんて珍しくて思わず凝視していたらある事に気付いた。

「っあ…!」
「…遅ェよ、気付くの」
「これ…!」
「絶対失くすなよ」

失くしたら命はないと思え、と脅してきたニジ様に口が引きつってしまったが、改めてよく薬指についたそれを見つめる。飛んできた蝶が教えてくれたのはとても素敵なものだった。

「結婚指輪…!」

嬉しくて指輪を光にかざしてみればシルバーの色味がキラキラ輝いていてとても綺麗だった。しばらくそれを見ているとまた蝶が飛び、今度は私の額に止まり、まるでキスをしたかのようにしてすぐに離れた。そして、次にニジ様の額に止まって私の時と同じ仕草をしてまたすぐに離れ、ひらひらと飛び窓から出て行った。

「祝福を、してくれたんでしょうか」
「…なわけあるかよ」
「少しは夢を見させてください…」

ジト目でニジ様を見れば大きな手で私の顔を覆って少し強めに握ってくる。それに悲鳴にも近い叫び声を上げればニジ様は大爆笑をしていたものだから相変わらずなバイオレンスさだ。
痛みに耐え、涙目になりながら顔をさすっていたらふとニジ様の左手が目に入る。その薬指にも私と同じデザインの指輪がはめられていてそっとそれを撫でる。

「私の指に指輪をはめてくれたのはニジ様ですよね?」
「当たり前だろうが」
「なら、私もニジ様の指に指輪をはめたい」

貴方のその薬指も、気持ちも、全て私のものにしたい。そう告げれば、ニジ様は嬉しそうに笑い自身がつけていた指輪を外して私に渡してきた。それを受け取りながら少し緊張して手が震える。
これをはめれば、永遠になる。そう信じて私はゆっくりとそれを薬指につけた。ホッとして肩の力が抜けたところで、いきなり指を絡ませて引っ張られる。腰に手を回されてニジ様との距離があと数センチでなくなりそうなところで止められた。

「指輪交換が終わったら次は誓いのキス、だったな?」
「え、ちょ!んっ…!」

誓いますともなんとも言っていないのに強引に行われるその儀式を何とかして止めようと頑張ってみるも無駄だった。
誓いのキスというものはこんな一方的にするものではない…!と激しく反論したかったが、嬉しそうに笑うニジ様を見てしまえばその気力はなくなってしまう。

やっと離れた唇についた唾液を舐められて息を整えていれば額と額がくっついた。至近距離でニジ様に見つめられ、少し照れていれば優しく頬を撫でられた。

「汝、このおれの妻になり一生側にいることを誓いますか」
「順番が逆です、ニジ様…!」
「いいから答えろ」

そんなの、答えなんて最初から決まっている。

「…誓います」

そして、また誓いのキスをした。