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消えない

「…ニジ、言うつもりはなかったが…なまえちゃんは…」
「うるせェ、言うな。自分で探す!」

あばよ!出来損ない!!
チンタラと空を飛びやがって、これだから出来損ないは…!と援護して抱えていた麦わらとサンジを海の方へと投げ飛ばした。お前に教えられたくもねェ。余計な事すんじゃねェよ、なまえはおれが見つけ出す。お前の助言なんかいらねェ。

それから麦わらたちがナワバリを抜け出したと聞くまで、ビッグマム海賊団と闘い、やっとの思いでジェルマもナワバリを抜けてから一月がたった。サンジは麦わらの元へ帰ったし、四皇との同盟も結べなかった。危うく殺されかけるし、何一つ成果を上げられなかったあの"イベント"に腹が立って仕方がない。父上は負傷が激しくまだ治療をしていて今現在、指揮を取っているのはイチジだ。イチジも傷こそ治っていないが、父上よりは動けると言う事で国を立て直すために動いている。
今はとにかく回復をメインにしろ、と言われたが生憎おれはもうピンピンしている。やることもなく、城をウロウロしていると今はもうない花が咲き誇っていたあのベランダにたどり着いた。おれが壊したその場所は壁になっていて、かつてベランダがあったなんて思わせないような作りになっている。気が付けば無意識にここに来ているのが無性に腹立たしい。ここに立っているのをレイジュに見られるだけで「自分で壊したくせに…」と呆れられる。…っくそ、うるせェな!と反論したかったが馬鹿らしくなってやめた。

「ニジ、お前は幸せか…?」
「はァ?」
「お前の幸せを願うレディがいる…。」

サンジが城に帰ってきた時に言われたことを思いだした。そのレディってのは百パーなまえのことだろう。その時は知らねェと答えたが、サンジがなまえと接触したことに激しく怒りを覚えた。
なんなんだよ、幸せを願うって。そんなの願う必要なんかねェだろ、ならお前がおれを幸せにしろ。何度そう思ったことか。父上に忘れろと命令されても忘れられなかった。なまえがふと頭をよぎって夜も眠れなくなる日もあった。こんなにおれを苦しめる奴はお前しかいねェんだよ、バカ。帰ってきたら、覚えておけよなまえ。


****

世界は広いと、改めて痛感した。

あれからイチジになまえを探しにいくと宣言をして国を出た。父上には帰ってきてから話すと言った。が、いくら探してもなまえは見つけられない。似たような女なんかわんさかいたけど、どれもピンとこなかった。あいつはなまえじゃねェ、こいつもなまえじゃねェ。たく、どこにいやがんだあの女。お前は一生おれの召使いだって言ったはずだ。なのになんでお前は勝手に居なくなったんだ。
思い出しては苛立っての繰り返しでキリがない。とにかく今は早く見つけだしてこの腕に閉じ込めたい。そんで、鎖で繋いで頑丈な部屋に閉じ込める。そしたらどうあがいても逃げられない。ぜってェそうする。なまえを捕まえたあとの野望を抱いて次の島へと向かった。

何日なんてもんじゃねェ、何ヶ月だ。一体どれくらいの島や国に足を運んで探し回っただろう。あいつ、おれにこんな苦労させるなんて絶対に許さない。ビッグマム以上に苛立ちを覚える。くそ、この島にもいねェのかよと独りごちればガキが1人こっちを向いて立ち止まっていた。なんだよ、ジロジロ見てんじゃねェよとガンを飛ばしてそのまま去ろうとしたら、声をかけられた。

「ねえねえ、変なかっこうのおにいちゃん」
「あァ?」
「何か探してるの?」
「…んでもねェよ、あっちいけ」
「誰かを探してるの?」
「うるせェな、お前には関係ねェだろ」
「…ぐるぐるまゆげ」
「はァ?」
「ぐるぐるまゆげの、王子様?」

ガキは真っ直ぐおれを見つめてそう言った。まるでおれのことを知っているみたいだった。それに疑問を持ちながらそのガキの身長に合わせるようにしゃがむと、嬉しそうに"なにか"を語りだした。

「ある日、池を泳いでいたメダカの女の子がいました。メダカは水草を育てるのが大好きです。いつものように水草のお世話をしていたら人間のグル眉王子様に見つかってしまいました。でもそのグル眉王子様はとても優しくてメダカはその王子に恋をしてしまうのです。そしたらなんていうことでしょう、メダカの身体が見る見るうちに大きくなっていきました。気がつけば背中には甲羅がつき手と足が生えた立派な亀になりました。その姿を見たグル眉王子様はその亀に恋をして好きだと告げるのです。そして、ようやく2人は両想いになったのでした。」

どこか身に覚えのある話だと思った。
これは、多分"おれたち"の話だ。この話を誰から聞いたのかとガキに尋ねれば意地の悪い顔で教えない、と人差し指を口に当てて内緒だと言い張った。おれは容赦なくガキの頭を掴んで握った。手加減はした、一応。

「いたたた!いたいよ!おにいちゃん!やっぱ、このお話の王子様はおにいちゃんじゃないね!全然優しくない!」
「うるせェよ、さっさと誰に教えられたか言え!クソガキ!」
「いーやーだー!こんな優しくもない知らない人に教えられないよ!あ、僕知らない人に声かけちゃダメってお姉ちゃんに言われてるんだった!はーなーせー!」
「お姉ちゃん…?」

妙に引っかかる。ガキが話しだした物語しかり、お姉ちゃんと呼ばれる奴しかりここは多分、正解の場所だ。なまえはきっとここにいる。もうすぐ、見つけ出せる。

「おい、ガキ。お前の家はどこだ」
「え、来るの?不審者お断りだよ」
「つべこべ言ってねェで、早く答えろ!さもなくばまたさっきのするぞ」
「やだ!痛くされるのも嫌だけど、施設の場所を知られるのもいやだ!」
「わがままは一個にしろ」
「じゃあ施設の場所知られるのやだ」
「………」
「いたたたた!いたい!いたいよー!」

さっきより痛くしたのが効いたのか、観念したようで施設まで泣きべそかきながら案内をすると言ったガキについていく。途中泣き止んで、「つかれたー、足いたいー、おんぶ!だっこ!肩車ー!」と絡まれて激しくウザかった。ガキのくせにおれに持ち上げさせるなんていい度胸してんじゃねェか、と自分の額に青筋が立ったのが分かった。めんどくせェから空を飛んで行くかと、ガキを抱えてシューズを機能させればあっという間に雲の上だ。ガキはびっくりしたが、すぐに現状を理解したようでワーキャー騒いでいる。とてもウザい。

「あ!あそこ!あそこが僕らの施設だよ!」
「…あそこになまえがいるのか」
「どうしてお姉ちゃんの名前を知ってるの?」
「おれがぐるぐるまゆげの優しい王子様だからだ」
「うそだよ!優しくないじゃん!」
「うるせェ、舌噛むから口閉じてろ」

丘の上に見えた建物のところまで一気に急降下して地上へ降りた。そしたらガキは楽しかったのかもう一回!とせがんできてこれ以上ないくらいにウザいし、鬱陶しかった。
すると、何かに気付いたガキはシーツが干されている所へ向かって一気に走っていった。誰かいるのか?と気になり近付いてみれば、懐かしい声が聞こえた。

「お姉ちゃん!聞いて聞いて!僕、空を飛んだんだよ!」
「えー?なにそれ、どんな冒険してきたの?」
「んっとね!林の中で変な服を着たおにいちゃんがいて、」
「ちょ、ちょっとまって!不審者がいたの?ちゃんと逃げたのよね?」
「え、あ、いや、逃げようとしたんだ!ぼく!でもその人悪い奴で逃がしてくれなくて…!」
「え、逃げられなかったの?でもどうやって空を飛んだって…?」
「あのおにいちゃんに抱えられて、空飛んだの!」
「あの、おにいちゃん…?…っ!」

風に吹かれたシーツ越しに見つけた姿は少し変わったようで、何も変わってない。確かになまえがそこにいた。

「見ィつけた」

壊れた時計の針がまた動きだした。