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よい旅を

「でもなまえには助けられっぱなしね」
「いやいや、そんな…!あ、かわいいお洋服買えました?」
「もうバッチリよ!」
「おれの腕がもげそうになるくらい買いやがったぞ、こいつ」
「ウソップちょっと黙ってて」
「お前、もう平気か?」
「はい!落ち着いたからもう立てますよ。ありがとう、チョッパーさん」

かわいすぎて思わず抱きしめてしまい、そのまま私のお膝へと座らせた。なんというフィット感。この子欲しい、と癒されていたらサンジさんが出来上がった料理を次々とテーブルに並べていい匂いが漂ってくる。クオリティが高い…まるでレストランで出されるみたいな料理ばかりでびっくりする。美味しそう…と呟けばチョッパーさんが「サンジの料理はうめェぞ!」と嬉しそうに言った。かわいい。

「すごいですね、こんなにたくさん…みなさんで食べきれるんですか…?」
「あァ、ルフィ1人で5分あれば平らげるな」
「5分…!?そんなに早くなくなるんですか…!だからあんなに買い込んでいたんですね…」
「そういうこと」

私の目の前に見た目がかわいいデザートを置いてくれてウインクをするサンジさんに少しどきっとする。おぉ…久しぶりにトキめいた…と自分にびっくりしながらそれを頂くことにした。その際、私のお膝にいたかわいいチョッパーさんが離れてしまって少し寂しかったけど、食べたデザートが美味しすぎてすぐにそれに夢中になった。

「お、美味しい…!こんなに美味しいの初めて食べましたぁ…!」
「そう言ってくれると作った甲斐があるよ」

うまうまと幸せ気分で食べていたらお代わりもあるからね、と言ってくれてお礼を言えばまた目をハートにしながら体をくねくねしていた。
目の前で次々と消えていく料理にびっくりしながらデザートを食べていたら目の前に座っていたルフィさんと目があった。そしたら「サンジのメシ、うめェだろ!」とニカっと笑った。それに、はい!とっても!と返せばルフィさんが嬉しそうにするもんだからいい人だなあと思う。なんだか、気持ちがあったかくなる。サンジさんの周りにこんないい人たちがいっぱいいて、幸せだっただろうなと私が嬉しくなってしまった。

「みなさんはいつ出航しちゃうんですか?」
「本当はゾロが帰ってきたら直ぐにでもって思ってたんやけど、こんな時間だしね。明日の朝には出ようと思っているわ」
「そうなんですね、…ゾロさん」
「っんだよ、なんか文句あんのか」
「いや、ないですけど…」
「あるわよ!迷うくらいなら船から出ないでよね!全く!」

ナミさんは相当ご立腹な様子で、ゾロさんは苦い顔をして何も言えないという感じだった。それにしても、ルフィ…ゾロ…うーん、聞いたことある…なんだっけかなあ、確か最近聞いた気がするんだよな…うーんうーんと唸っていたら麦わら帽子が目に入ってきてそこでハっと思い出した。

「なんだお前、具合でもわりィのか?」
「あー!思い出した!麦わらのルフィ!」
「お?」
「スッキリしたぁ…モヤモヤが取れた時の爽快感って気持ちいいですよね」

はあ、スッキリー!と1人で満足していたら目の前でルフィさんが「お前なんの話してんだ?」とお肉を食べながら聞いてきて、周りのみんながついていけないという表情をしていた。それもそうだ、自己完結されてしまえば相手は不愉快だろうと慌てて謝罪する。

「はっ!すみません!ルフィさんの名前どこかで聞いたことあった気がして、それを思い出したんです」
「ルフィは新聞とかでよく名前が載っているわよ?」
「私、新聞とか読まないので世間のことは疎いんです…でも最近施設にきた男の子がいて、何が好き?って聞いたらルフィさんって答えたんです!」

その子は施設に来る前からずっと新聞を読んでいたらしくてルフィさんの記事が出るたびに切り抜いてそれをファイリングしているルフィさんマニアなんです!と説明すればみんなに「すごいじゃない!」「ルフィさんの魅力が伝わってるなんて良いですね、ヨホホ」「スーパーいい話じゃねェか…!」などと嬉しそうに話していた。

「なので、旅の邪魔をして申し訳ないんですが…明日の朝ここにその子を連れてくるので、会ってやってもらいませんか…?図々しいお願いで申し訳ないんですけど…」
「いいぞ」
「…ですよね、だめですよ…って、え!いいんですか!?」
「おう、勿論だ!友達の頼みなら聞くしかねェだろ」
「とも、だち…?」
「俺たちもう友達だろ?」

そう言われ、心の中がふわあと何かが溢れてきた。な、なんだこの気持ちは…!う、嬉しい…!周りのみなさんに目を向ければ笑顔で頷いてくれて、私、友達少ないから嬉しいです…!と半泣き状態で言えばルフィさんは大爆笑していた。

明日の時間を決めて私はそろそろお暇しようと立ち上がれば、もう深夜も回ってるしとサンジさんがまた送ってくれることになった。

「何度も何度もすみません…」
「いや気にしないで、おれはまだなまえちゃんと居れて嬉しいからさ」
「そう言ってくださると、助かります」

そうして他愛もない話をしながら施設まで送ってもらった。勿論、別れの時はまた見えなくなるまで振り向い手を振ってくれた。明日もまた会えるのに、と笑いをこぼして見えなくなってから中へと入った。


****

朝起きて朝食の準備をして子どもたちを起こしに回る。例の男の子にはこのあと良いところに連れて行ってあげるからみんなには内緒ね、と言えば目をキラキラさせながら早く早く!と急かしてくる。ご飯食べ終わってからだよ、と笑えばしっかり残さず食べきって、すぐに私のところに来てまた急かしてきた。言うタイミング間違えたな、と苦笑いをしながら私もすぐにご飯を完食して後片付けを終えるまで男の子には待ってもらい、準備をして手を繋ぎながら施設を出た。

「なになになに?どこへいくの?」
「んーとね、心が躍る場所」
「心っておどるのー!?」
「躍るよ、そりゃあもう躍る!」
「サンバかな!ブレイクダンスかな!」
「それ系ではない」

はしゃぐ男の子はピョンピョン飛び跳ねながらまだかな、まだかなとウキウキしていた。今でこのテンションじゃ、憧れのルフィさんに会ったらもう限界突破しちゃうんじゃないかと心配になった。
港が近づいてきて、大きな船が見えれば男の子も「船ー!」と指差してキャッキャしていた。あの船に君の大好きな人がいるんだよ、と言いたくてもまだ言えない。私もせっかちのようだ。

「あのお船には誰が乗ってるかなー?」
「かいぞくー!」
「かもしれないね!」
「ルフィがいるかも!」
「そうだったどうする?」
「のる!」
「乗るの?」
「あとのばす!」
「伸びるの?」

ちょっと情報収集が追いつかなくて疑問がいっぱい出てきた。ルフィさん伸びるの?あれ、そういえば昨日いろんな料理によくそんな手が届くなあ、と思っていたけどあれ伸びていたの?え?と混乱していたら丁度船の前に来ていた。そしたら船の上から「おーい!」と声がして見上げればそこにこの子の大好きな麦わら帽子。

「大正解!海賊船だったしルフィさんも居たね」
「ほ、ほんもの…?」
「そうだよ、ほら見て!手を振ってる」

目線を合わせるようにしゃがんで一緒にルフィさんに手を振る。男の子はまだ信じられない…と言う顔をしていてなんだか笑えた。そうしているうちに麦わらさんたちが船から降りてきてついに目の前までやってきた。ルフィさんが「よろしくな!」と言えば感動のあまり泣いてしまったのには驚いてしまった。

「ほん…もの…だあ…!」
「にしし、おう!本物だ!おれはルフィ!海賊王になる男だ!」
「本物だあ!!」

言葉のレパートリーが少ないのは子どもだからってことで許してあげよう。本当に嬉しいんだろうな、と微笑ましく見ていれば両隣にナミさんとロビンさんが来てくれて3人で笑いあった。

「出航前にありがとうございます!」
「なに言ってんの!なまえには助けてもらったんだからこれくらい余裕よ!」
「それに男の子も喜んでいるしね」
「私まで麦わらさんたちのファンになりそうです…ていうかファンです…!」
「それなら、すみません。パンツ見せて貰ってもよろしいでしょうか?」
「やめんか!エロガイコツ!」

ふらりと現れたブルックさんに瞬時にツッコミを入れるナミさんのキレが素晴らしい。それに笑いながら男の子を見ればルフィさんとチョッパーさんと一緒にフランキーさんの身体に乗っていた。そっちに乗るんかーい、となったが楽しそうでなによりだ。
ウソップさんは「おれには8000人の部下がいるんだぜ!」と豪語していて、それにポツリとえ、すごいと呟けばゾロさんに「間に受けんな」と言われてしまった。…え、嘘なの?

「なまえちゃん」
「サンジさん、騒いじゃってすみません」
「いや全然いいよ。…なまえちゃんは優しいね」
「どうしてです?」
「あの男の子の願い、叶えてやりたいって思ったんだろ?」
「…だって見たいじゃないですか。笑顔」

そう笑ってサンジさんの方を向けばサンジさんも笑って「やっぱり、なまえちゃんの笑顔は素敵だね」と言ってくれた。それだけのことなのにまた思い出して、寂しい感情が顔を出す前に必死で隠した。それをサンジさんが苦しそうな顔で見ていたとも知らずに。

「スーパー楽しかったぜ!」
「今度はおれ様の部下を連れてきてやるぜ!」
「ヨホホホ!なまえさん、最後にパンツ…」
「なまえ!元気でね!」
「次は酒、用意しとけよ」
「うふふ、また会えるといいわね」
「お前ら、体調崩すんじゃねェぞ!」
「なまえちゅあーん!寂しくなったらおれの事思い出してねー!」

「じゃーなー!お前ら!ありがとうー!」

一人一人、個性のある別れ文句で出航していった麦わらさんたちに2人で大きく手を振って私たちもありがとう!と声を張り上げた。男の子はまだ興奮が冷めないようでルフィさんにあれしてもらったこれしてもらったと話が止まらなかった。

「ルフィさんたちかっこよかった!」
「そうだね!」
「フランキーみたいなサイボーグにおれはなる!」
「それだけはやめて、お願いだから」
「次はね!ジェルマ66にも会ってみたい!」
「…っ!ジェルマ…?」
「お姉ちゃん知らないの?あくの組織、ジェルマ66!」
「し、知らない…なあに、それ?」
「せかいけいざいしんぶんにのってたんだよ!あとで教えてあげるね!」

止まっていた時計の針が、動き出す音がした。