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よろしく

もう暗いからと、サンジさんに施設まで送ってもらい去り際、とてもとてもとてもそれはもう盛大に悲しんでくれて見えなくなるまで振り向いて手を大きく降って船に帰っていった。それがとてもおかしくて、思い出しては笑えそうなこんな悲しくないお別れなんて初めてだな、と思った。

施設に帰ってからは夕ご飯の支度をして食卓に料理を並べる。子供たちが全員集まってきてみんなでいただきます!と元気よく言って手を合わせた。
食事が終わり、食器を洗いながらまだ食べている子供たちに残さず食べてね、と言いながら手を動かしていたら1人の男の子が私のエプロンを引っ張った。どうしたのかと尋ねれば、不安そうな表情をしておちょぼ口で私に告げる。

「あやしいひとが…そとにいた…」
「怪しい人?…どんな?」
「なんかボウみたいなの、さんぼん…コシについてた…おとこだった」
「棒か…ちょっと様子見てくるね」
「おねえちゃん、しなないで…」
「死なないよ、大丈夫。玄関の方にいたの?」
「うん…」
「分かった。お姉ちゃんが対峙してくるからね」

まかせて!と言って笑ったら、男の子も安心したのかがんばって!と応援してくれた。控えめに言って天使だと思った。
さて、棒が3本腰についてたって事は刀か何かなんだろうけど、それに対抗出来るものなんてあったかなあと物置を探せば木刀が出てきて、無いよりはマシかと思いそれを持って玄関に向かう。外に出れば人影もなくて、見間違いだったんじゃ無いかと思った矢先に奥の林でガサガサと音がして思わず木刀を構える。な、なんだ…誰だ…!施設を狙っているなら大人しく帰ってくれないかな、お菓子あげるから!

「…ここは、見覚えある、か?」

音を立てながら林から出てきた人は厳つい顔をしながら場所の確認をしていた。そして私に気付いて「お前誰だ」と言ってきた。いやあなたこそ誰ですか。

「な、なんなんですか!山賊ですか…?いや、この島には山賊いなかったな…」
「はァ?おれは山賊じゃねェ、海賊だ」
「海賊…?」
「お前、海はどっちだ」
「…海なら逆方向ですよ?」
「くそ、また逆かよ」
「また…?」
「さっきガキがいて、海の方面聞いたら逆っつーから逆の方歩いてたのにまた逆かよ」

…ん?もしかして迷っていらっしゃるのかしら?そして道を尋ねたガキっていうのはうちの施設の子なんじゃないだろうか。一回道を教えてもらってもまた迷ってしまうってもしかして、方向音痴なのかな。
「わりィな、助かった」と言って歩き出した男の人は私が案内した道とは違う道を歩き出して慌てて止める。そしたらなんだよ、と迷惑そうにされたがこれ以上周辺をうろつかれて、子供たちに不安を与えてしまってはいけないと思って海までの道を案内しようと思った。

「あの、良かったら海まで一緒に行きましょうか…?」
「あァ?別にそこまでしなくてもいい、道さえ分かれば帰れる」
「でも帰れてない、ですよね…?」
「………くっ!」
「海賊船なら私、場所知ってますよ。あなたの船かは分かりませんが…」
「…海まで行ければ何でもいい」
「なら、しっかりついてきてください」

無自覚な方向音痴っていうのが一番厄介だな、と不安になりながら案内するけど途中途中で男の人が道を外れようとするから本当に大変だ。もうこの際、初対面だからという羞恥を捨てて腕を掴む。嫌がられたがもう一度、しっかりついてきてください!と念を押せば少しムスっとして大人しくなった。
それからは何事もなくスムーズに船まで案内をする。そして、麦わら帽子の被ったドクロマークを掲げている海賊船まで連れてこればその人は「…ここだ」と呟いた。そしたら船から可愛らしい声が聞こえてきて上を向けばツノの生えたあれは、たぬき?がいた。

「あ!ゾロが帰ってきたぞ!」
「こんのクソマリモ!どこ言ってやが…ってなまえちゃん?」
「あ、サンジさん」
「また君に会えておれはとっても嬉しいよ!」
「あの、迷い人をお連れしました」

そう言ってさっきぶりに会ったサンジさんにその人を引き渡せば私に腕を掴まれていたことに対してサンジさんは猛烈に怒っていて、方向音痴のことをいじれば相手の男の人も喧嘩腰になって2人の乱闘が始まった。うわあ、どうしようと戸惑っていたら船から降りてきた、たぬきらしき動物が「アイツらはほっといてもいいぞ」と言ってきた。…ん?言ってきた?

「たぬきが喋った…!」
「おれはたぬきじゃねェ!トナカイだ!」
「どっちにしても動物が喋った…!」
「あれ、かわいい女の人がいますね。すみません、パンツ見せてもらってもよろしいでしょうか」
「ガイコツも喋った…!え、怖い…!」
「今ので私の胸が傷つきました。あ、私傷つく胸、無いんですけど。ヨホホホ」
「あれ?なまえじゃねェか、どうしたんだ?」
「鼻が長い人も喋った…!」
「っておれはさっき会っただろうが!」
「はっ、すみません!そうでした!」

登場人物が個性的すぎてついていけない…。なんて愉快な仲間たちなんだ、この海賊団は…!びっくりしすぎて腰を抜かしているとトナカイさんが大丈夫か?と心配してくれた。かわいい。
混乱して状況が把握できないと言えばとにかく船に乗ろうと言って急にトナカイさんが大きくなって私を持ち上げた。え?なにこれ?だれこれ?とまた訳のわからないことになっていてさっきのかわいいトナカイさんがどっかに消えて私は毛深い人…?に抱きかかえながら船に上がった。

「なんだ、チョッパー。そいつ誰だ?」
「多分、ゾロを連れてきてくれた人みたいだ。なんかサンジとウソップは知り合いみたいだったぞ」
「あれ、なまえじゃない。…どうしたの、座り込んじゃって」
「ナミも知り合いか?」
「まあね」
「おそらくブルックを見て腰を抜かしたんだと思う。椅子を持ってきてくれ」
「それならおれにスーパーまかせろ!」
「サイボーグがいる…!喋ってる…!」

もう全てのことに驚いてしまう。私を抱きかかえて船に乗せてくれた毛深い人はいつの間にかいなくなりまたもやかわいいトナカイさんが現れた。どんな原理なんだ、と考えてもキリがない。1つ1つ整理していこうにも何から手をつければいいかわからない。私はサイボーグさんが用意してくれた座り心地がめちゃくちゃいい椅子に座ってナミさんに助けを求めた。

「あのナミさん、ここはあの世ですか」
「違うわ、現実世界よ」
「現実…!喋るガイコツも…?」
「あぁ、1人ずつ紹介していくわね。あなたの隣にいるトナカイがチョッパー、うちの船医よ」
「チョッパー、さん…。かわいい」
「そ、そんな褒めても嬉しくねぇぞ!このやろが!」
「かわいい」
「そこのサイボーグがフランキー。船大工よ。見た目は…まぁ、気にしないで」
「フランキーさん…」
「スーパー座り心地がいいだろう、その椅子」
「はい、とっても」
「そして本を読んでいるのがロビン」
「ロビン、さん…めっちゃ美人…」
「あら、ありがとう」
「んで、この麦わら帽子を被っているのがうちの船長、ルフィよ」
「ルフィ…聞いたことあるような…」
「にっしし、お前ゾロを連れてきてくれたんだろう?いい奴だなー!」
「あ、いやそれほどでも…」

続いてサンジさんとウソップさんを省いて紹介されたのが、私が一番気になっているガイコツのブルックさんだった。どうやって動いているのか気になってじーっと見ていると「なんだか照れますねヨホホホ」と急に話し出したから肩がビクッとなった。「怖がらせんじゃないわよ!」とナミさんが注意してくれたけど、少し申し訳ない気持ちになる。
そして最後に紹介されたのが私がこの船まで連れてきた人、名前をゾロさんと言うらしい。まだサンジさんのと乱闘は続いているみたいで誰も止めに入らないのかなと疑問に思っていれば、ルフィさんのお腹が鳴って「サンジー腹減ったー!メシー!」という声でその喧嘩が終わったのでやっぱりこの船長凄いなと思った。伊達にこの愉快な仲間たちを束ねているだけはある。ある意味尊敬だ。

「なまえちゃんも食べていくかい?」
「あ、いや私はもう済ませましたので…」
「ならデザートはいかがかな?最高のを作るよ」
「デザート…い、いいんですか?」
「もちろんだよ」

まかせて!と言って厨房に入っていったサンジさんの後ろ姿はとても楽しそうだった。
ブルックさんだけはまだ少し苦手意識はあるけれどみんなとっても楽しくて優しくて面白しい人たちだなあと思った。そんな時、ゾロさんが少し気まずそうに私のところに寄ってきて何か言いたそうにしていたので、どうしました?と声をかけると鋭い目つきで睨まれる。それにギョッとして隣に座っているロビンさんに抱きついた。

「ゾロ、そんなんじゃ伝わらないわよ」
「…るせェ、送ってくれてありがとな」
「あ、はい…あの、もう迷わないように気をつけてください」

そう言えば周りみんな大爆笑だった。な、何がおかしいんだろうと思っていたらゾロさんが少し顔を赤くして「うるせェよ!」と怒鳴ってきたのでまたロビンさんに抱きついた。豊富な胸が柔らかかったけど、決してこの胸を堪能したいから抱きついているわけではない。本気でゾロさんが怖いんだ。