-->小説 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

恋人じゃないゾロ

私たちの関係に名前はない。

「ねぇ、ゾロ」
「なんだ」
「…なんで来てくれたの」
「はァ?お前が呼んだんだろうが」

でも、会いたいって思った時には会いに来てくれるし、寂しい時にはただ側にいてくれる。でもお互い好きじゃない。

「こないだ合コンに行ったの」
「………」
「それでね、いいなって思った人がいて。あったその日にその人とキスした」
「…そうかよ」

取るに足らない、ゾロには全く関係のない話をふれば、彼はお酒を一口飲んで私に口付けをする。まるで、この間したキスを上書きするように。何度も何度も角度を変えて強引に舌を絡められて、満足したように離れていった。

「…お酒の、味がする」
「飲んでるからな」
「そっか」

キスに対してお互い別に何も思っていない。きっとゾロになんでキスしたの?なんて聞けば帰ってくる答えは、“したかったからした”だろう。抵抗はなかった。むしろ私もキスをして欲しかったからその話を振った。ゾロは私の恋人じゃない。でも私は彼は求めている。

「…で?」
「なに?」
「そいつとはやったのか」
「…やらないよ」
「………」
「キスされて、気持ち悪くなってその場でフった」
「…そうかよ」

私と男がうまくいかなかったと聞いて嬉しそうに笑う。顔に出てるぞ、と言いたかったけど、言わないでおいた。

私たちの関係には名前がない。

でも、ゾロのとなりに知らない女の子がいれば許せないって思ってしまう自分がいる。この間も、道端で偶然ゾロと女の子が歩いているところに遭遇してしまって楽しそうだったし、スルーしようかとも思ったけど何故か私の足は彼らのいる方へ歩いていて、気がつけば目の前にゾロがいた。

「ゾロ」
「…なんだ、お前か」
「なにしてるの」
「見りゃ分かんだろ」
「…デート中?その人、彼女?」
「ちげェけど、」
「なんだ、そっか」

彼女じゃないならどうでもいいや。2人の邪魔をするように私はゾロの腕に胸を当てて自分の腕を絡める。そしてわざと頬にキスをしてニッコリ笑った。

「夜、ゾロの家にいくね」
「は?おま、」
「じゃあね、デート楽しんで」

そう言ってとなりにいる女の子にも目を配らせれば、赤い顔をして少し悔しそうだった。ゾロは少し苛立ったように困っていたのでざまあみろ、と言いたげに舌を出して私はその場を去った。
今のがよくに言う悪女というやつなんだろう。我ながら性格が悪いな、と思いながら少し後悔をする。なら、あんなことしなければ良かったのになんて思うけど、ゾロが私以外の女の子に優しくするのが気に食わない。自分勝手で傲慢で、なんて最低な女なんだろうと自分で自分が嫌になる。でも身体が勝手に動いてしまうのだから、どうしようもない。

むしろ、可愛いと思ってほしいものだ。
ゾロなんて、私と他の男の人が一緒に歩いていると見つけ次第そばに寄ってきて、その男に威嚇しながら私を抱き寄せて額と額を合わせながら「なにしてんだよ」なんて普通に会話してくる。アンタ、そんなことするキャラじゃないじゃん!っと離れようとするけれど、常日頃から鍛えている彼にはビクともしない。本っ当性格の悪い男!と思って睨むと急にキスをして、離れたと思ったら耳元で妖艶な声で囁くもんだから顔が熱くて仕方がない。

「昨日の夜は楽しかったぜ」
「ちょ…!」
「じゃあなァ」

してやったり、と口元を歪ませて笑いながら去っていくゾロ。勿論、昨日はゾロと会ってなんかいない。多分、隣にいる男の人に牽制したんだろうとは思うけど、やりすぎではないのかと激しく議論したい。でもまずはこの気まずい雰囲気から脱却することが先で、どうやって言い訳するか頭をフル回転させたけど、結局男の人の方が少し怒ったように「用事思い出したから」と言って逃げるように帰っていった。2人の男に置いていかれた私はなんて惨めな女なんだろうとため息をつくしかなかった。

私たちの関係には名前がない。

どんなに一緒に居ようとも、どんなにキスをしようとも、ゾロと身体を重ねることだけは絶対になかった。相手を牽制するために匂わすようなことは言ってもゾロが私を押し倒すことはないし、私もゾロを煽るようなことはしない。だから同じベッドで寝ようがなにも起こらず朝を迎える。

そんなある日に、集まれるメンバーで飲み会をしようってなった。集合場所はサンジくんのお店で、少し遅れて店に入れば個室に案内された。中にいたのは、ルフィとナミとウソップとサンジくん、それにゾロだった。私が来た頃にはみんなだいたい出来上がってきて、ルフィは相変わらず肉肉肉ぅー!といってひたすら来たお肉料理を平らげてウソップは負けじとそれに対抗している。サンジくんはナミにハート目になりながら口説いている。そしてゾロはぼっちでお酒を飲んでいて、可哀想だから隣に行ってやろうと向かおうとしたら一早く私が来たことに気付いたサンジくんが目の前に現れた。

「んなまえちゃーん!今日も君はとってもラブリーだ!」
「わ、サンジくん…びっくりしたぁ」
「お腹は空いてますか、レディ?こっちにおいで、君のために美味しい料理を用意しているよ」
「ありがとう、お腹すいてるの!」

王子のように手を差し出されてそれに重ねるように手を置けば、サンジくんは目をハートにしてぐふふぅ、と変な顔になって席まで案内してくれた。それにしてもルフィよく食べるなぁ、誰がここのお金払うんだろうと考えていたら隣にドカっ!と誰かが座ってきて横を向けば一升瓶を持ったゾロがいた。

「寂しくなったの?」
「…うるせェよ」
「強がっちゃって」
「黙っとけ」

そんなこと言いながら私の腰にちゃっかり腕を回すのは無意識なのかわざとなのか。深く考えても意味のないことだから気にしないでおいた。

「あ、おい!クソマリモ!なまえちゃんの隣は俺の席だ!」
「黙れ、クソコック。お前の席は隅っこで十分だ」
「お前が隅っこで座ってろ!さっきまでそこに居ただろ!」
「気が変わったんだよ!悪いか?」
「悪いに決まってんだろ、そこどけ!」
「アンタら喧嘩するなら外へ行け!」

2人の言い合いがヒートアップするたびに一升瓶が揺れて倒れそうになったのでそれを抱えてどうしようか迷っていたらナミがその喧嘩を止めてくれた。そしたら2人はおとなしくなって私の両隣に座った。サンジくんは持ってきてくれた料理を私に渡してくれてありがたくそれを頂く。美味しい美味しいとそれを食べていたら「アホ面」と嫌味が横から聞こえてきてゾロを睨む。腹が立ったので反対側の隣に座るサンジくんに上目遣いで寄り添った。

「ねぇサンジくん、私甘いお酒が飲みたいな」
「っ!まかせてなまえちゃん、君のために最高のお酒を作ってくるよー!」

そう言って部屋を出ていったサンジくんを見送ってまだ残っている料理を食べる。ゾロは静かにお酒を飲んでいるからその場は無言で少し居た堪れない。すると私のスマホが鳴りそれを確認すると、今から会えないかという男の人からのメッセージだった。今日は無理だなぁ、と断りの返信を入れようとしたら隣から手が伸びてきてスマホを掴まれ気付けばそのスマホは床に叩きつけられていた。その音で食べていたルフィとウソップもそれを止めて、ナミはうわぁと言いながらこっちを向いていた。私はなにが起こったか分からず呆然としていたら急に隣に座っていたゾロが立ち上がった。

「酔いが冷めた。俺んとこで飲み直すぞ」
「え、ちょっと…!」

そして腕を掴まれて私のカバンも勝手に持たれて引っ張られる。そのままお店を出て歩幅が合わない私は早足でゾロについて行くのに必死だった。

「お、お金払ってない…!」
「クソコックんとこだ、必要ねェ」
「そんなわけにいかないでしょ…!それにスマホ!なんで勝手に壊すの…!」
「…ムカついたから」
「はぁ!?なにそれ!意味分かんない!」

なんで勝手に怒ってるの。なんで私に八つ当たりしてくるの。なんで、なんでなんて思ってもきっとゾロはまたそうしたかったからって言うんだろう。ここは私が折れるしか無さそうで、もう投げやりになりながら少し速度を上げてゾロの前に立つ。そして背伸びをしてキスをした。

「スマホ、弁償してよね」
「…チッ」

今度は私がゾロの腕を掴んで歩き出した。

「なまえちゃーん!スペシャルドリンク作ってきたよー!」
「あら、サンジくん。なまえならゾロが連れて帰ったわよ」
「な、なんだって!?」
「本当、くっ付くなら早くくっ付きなさいよね」
「クソマリモー!」

私たちの関係には名前がない。

でも好きな人いないの?なんて聞かれれば頭をよぎるのはお互いの顔なんだと思う。