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02

カーテンから朝日が差し込んで太陽の光で目が覚める。アラームが鳴らないのは今日が仕事が休みだからだ。携帯を開いて待ち受けの零くんにおはよ、と挨拶をする。あぁ今日も零くんの笑顔可愛いなあ、なんてニヤけた。そのまま携帯をいじりながら二度寝しようかなー今日はやることないしなーでも瞼がバッチリと開いてしまったのだからもう起きてしまおうとむくりとベットから起き上がる。伸びをしてからキッチンに向かい、適当に朝ごはんを作ってソファに座ってテレビをつけた。

「今日は晴れやかな天気になりますが、夕方には雨が降る可能性があるでしょう」
「雨か…」

ベランダから見た空は雲ひとつない青空なのに、これから天気崩れてくるのか。夕方から降るなら洗濯出来るな、と考えながらご飯を食べ終え、お茶を流し込む。他に面白い番組ないかなあとチャンネルを変えようと手に持ったら流れてきたニュースに思わずそれを床に落としてしまった。

「ニュースです。昨日、女性を殺害した容疑で米花町に住む40代の男性が逮捕されました。」
「え!?」

米花町…?見間違いかなと何度も目をこすって画面を確認してみるも、米花町の文字はそのままだった。あれ、わたしいつの間にまた妄想をしてしまったんだ…無意識って怖い…それにしてもいつもする妄想と少し違うな…いつもならすぐに零くんが登場してお節介を焼いてくれるはずなのに。でも今回は零くんはいないけど、米花町が登場だ。ついにその世界まで妄想してしまうなんて…あっぱれだよ、わたし…。もちろんわたしの住む世界には米花町なんて治安の悪すぎる街はない。わたしは妄想であの街に行きたいの…?いやいや、あそこに行けば命がいくつあっても足りないよ…と独りごちりながらテレビを消した。私服に着替えて洗濯を回す。あー、そういえばシャンプー切れそうだったなと考えたらあれも欲しいこれも買わなきゃと物欲が出てきたので、干したら出かけようと準備を始めた。雨が降る前に帰れば洗濯を取り込めるだろうとベランダに干して、家を出た。

違和感に気づいたのは駅に着いてからだった。さて、新宿へは何円だったかなと切符を買おうと料金表へ目を向けた時、いつも乗ってる路線が消えていて代わりに東都環状線という路線が出来上がっていた。もしやこれは…と思い駅名を見て行くと書いてあったのは。

「べ、米花…?って…あの米花町…?」

朝からしてるわたしの妄想はいつまで続くんだと頭を抱えた正午。でもこの妄想が続いているのなら、行ってみるのもありかもしれないと乗り気になったのはものの数分たってからだ。わたしは少しウキウキしながら米花駅までの切符を買った。しかしながら乗った電車はなんだか居心地が悪くて、いけないことをしている気分だった。

****

「ついた…けど、ほ、ほんもの…?」

周りの景色はどこにでもあるような駅前で本当にここがあの街なのだろうかと疑いたくなるけど、これは所詮、わたしの妄想…。よく出来た妄想だ。歩きながらここまで来たのなら、とあの毛利探偵事務所を探すことにした。しかし問題が発生したのは歩き出して5分してからだった。

「毛利探偵事務所…どこ…?」

そうだ、わたしはあの家の場所を知らない。行ったことも見たこともないのだから当然だ。どうしよう…と立ち止まって考えていたらあることを思いついた。そうだ、ここはわたしの妄想の世界だ。とゆうことは携帯でその場所を探せるんじゃないか?とダメ元で地図アプリを開いて事務所までのルート案内を検索した。そしたらあれよあれよとルートが表記されてグッジョブわたしの妄想!ここからだと歩いて10分といったところか…案外近いのね。鼻歌を歌いながらそのルートに沿って歩いていくと、あらま、着いてしまった。毛利探偵事務所、とその下にあるポアロ。おお…わたしの妄想がついに現実味を帯びてきている…と少し感動しながら思わず写真を撮っていた。

「お姉さん、そこでなにしてるの?」
「え?」

どこからともなく声をかけられて周りを見回してみたけどその声の主が見つからない。どこだ…?と不審がっていたら下だよ!下!とちょっと怒りながら言われたので素直に下を向くとあらなんと、見覚えのありすぎる男の子がわたしをジト目で見ていた。こ、これは…あの有名な…彼がいる所、事件ありと言う…しにが、いやコナンくんではないか…!!わたしの妄想はついにコナンくんを登場させてしまった。尊い。あわあわとしているとわたしを不審者だと怪しんだのか、彼は尋問を始めようとしていた。

「お姉さん、誰?」
「わ、わたしはみよじって言います!えと、今日はたまたま仕事が休みで、観光?にきた、の。」
「そーなんだ!でもなんでここに?観光地なら他にもっとあるよね?」
「え!えっとわたし毛利さんに憧れてて!テレビで見たことがあって、近くに来たから生で見れるかなあって…それで!」
「おじさんのファンなの?」
「そうなの!ファンなの!色々事件解決してて、かっこいいなって!」
「へえ!」

怪しまれずに誤魔化せただろうか。嘘は言っていない。おっちゃんのことも好きだ。でも1番は零くんだ。コナンくんは人懐っこい笑みを浮かべながら、わたしに近づいてきてまた質問をしてきた。気になることは本当に気がすむまで調べるたちなんだな。主人公怖い。

「おじさんなら今はいないよ」
「え、いないの?」
「うん、多分今頃パチンコか競馬に…」
「あ、そうなんだ。じゃあ、ここの喫茶店にちょっと寄って行こうかな」
「みよじさん、今日ひとりできたの?」
「そうだよー。あ、友達いないとかそんなんじゃないからね」

まあ実際友達は少ないけれど…と少し悲しくなりながら苦笑いした。ポアロに入ろうとしたところで後ろを振り返って「コナンくんも入る?」って聞いたらびっくりしたような顔をしてから「うん!」と子供らしい笑顔に戻ってわたしの後をついてきた。また気になることでもあったのだろうか、と少し考えたけどすぐに店内で迎えてくれた人物を見てすぐに忘れてしまった。

「いらっしゃいま…おや?コナンくん。それと…」
「こ、こんにちは…」
「なまえさん!来てくれたんですね!」
「え?みよじさん、安室さんの知り合いなの?」
「いや、知り合いとゆうか…なんとゆうか…」

妄想の中の住人とゆうか…なんて言えないので少し黙る。まさかわたしが安室さんと知り合いだったなんて思わなかったらしく零くんの反応をみてびっくりした様子のコナンくんは少し面白かった。しかし妄想の中といえどわたしと零くんにはなんの関係もない。どうゆうふうに説明すればいいんだ…いつもわたしの好きな時に現れてくれて甘い言葉を囁いてくれるよなんて言ってしまえば一気に怪しい人決定で、コナンくんからも軽蔑の目で見られるだろう。それだけは絶対に嫌だ。どうしようと考えていたら零くんが思わぬ助け舟を出してくれた。

「なまえさんは僕の恋人だよ」
「え?」
「え?」
「…なんでみよじさんが驚くの?」
「あ、いやあ、その…」
「なまえさんはシャイなんですよ。あんまり問い詰めないでね、コナンくん。」
「…」

何かがおかしいとでも言うような目で見てくるコナンくんと何故かだんだんコナンくんに怪しまれて居心地が悪くなってるわたしを見かねて零くんはテーブル席に案内してくれた。あ、ここでは零くんと呼んではいけないな…。妄想の世界といえどそこはちゃんと守ろう、と思っていたらご注文は何になさいますか?と天使スマイルを向けられて全思考回路が停止した。生安室やばくないか。

「えと、おススメは…?」
「はい!おススメはハムサンドです!僕のお手製ですよ!」
「じゃあ、それで…」
「コナンくんはどうする?」
「…僕、オレンジジュース」
「かしこまりました!」

ああ、天使スマイル尊い。なんてうっとりしていたら向かいに座っているコナンくんに「おじさんのファンって言うの、あれ嘘だよね?」と質問をしてくる。この子、隙あらばわたしのことを探ってくるな…「嘘じゃないよ、おじさんの事も好きだよ」と言ってみても彼は疑う視線を辞めなかった。これは完全に怪しまれているな。参ったな。

「じゃあ一つ聞いてもいい?」
「なにかな?」
「僕、名乗ってないのにどうして名前が分かったの?」
「…ほら、店内に入った時に安室さんが呼んでたでしょ」
「みよじさんが僕の名前を呼んだのはお店に入る前だよ?その前に名前を知る方法なんてないよね?…おかしいよね?」
「それは…」
「あまり、なまえさんをいじめないでくれるかい?コナンくん」

少し責めるような声が上から聞こえて現れたのはトレーを持った安室さんだった。コナンくんは少し不機嫌になりながら「…はあい」と返事をしていたが全然納得いってないんだろう。わたしにとってはこの場を収めてくれた零くんに感謝しかない。いいところに来てくれてありがとう!零くん!

「はいお待たせしました、ハムサンドです!」
「あ、ありがとうございます」
「はい、コナンくんもどうぞ」
「え?僕もいいの?」
「毛利先生にはいつもお世話になってるからね」
「ありがとう!安室さん!」
「どういたしまして、なまえさんには紅茶を」
「え、頼んでない…」
「ハムサンドだけでは喉が乾いてしまいますからね、ほんのサービスです」

そういってウインクをした零くんに心打たれた。本当出来た零くんだ。なんだなんなんだ、今回の妄想はサービス多くないか。恋人設定に天使スマイルにウインク…!安室透…おそるべし…。ああ、いつもは降谷零として妄想しているからか…安室透に変わった瞬間こんなにも爆発力が増すのか。照れながらお礼をゆうと、わたしの耳元で「あと少しで終わるんです。待っててくれますか?」なんて囁いてくる。それに顔を赤くしてうんうんと何回もうなづいた。それを見ていたコナンくんがおいおい…といい表情でこっちを見ていた。小学生に見られてるなんて恥ずかしい。「じゃあまたあとで」とわたしの頭を撫でてキッチンに戻っていく零くんを見送ってもうわたしの幸せは絶頂の彼方であった。

「コナンくん…ハムサンド…美味しいね…」
「そうだね…」

カタコト喋りになってしまったわたしにコナンくんが若干引きながら返事をしてくれた。