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側にいて

一歩一歩近付いてくるニジ様に私もベッドから出て、一歩一歩ニジ様から遠ざかる。逃げる私に苛立つニジ様は不機嫌な顔をして私に詰め寄ってくる。でもこれ以上近付かないで、と私も両腕を突き出すと、約1メートルの距離で止まったニジ様は舌打ちをした。

「なんだ、この腕は」
「ち、近付かないで…ください…」
「はァ?何言ってんだ?てめェ」
「ニジ様に病気が移ります!」
「おれは風邪を引いたことがねェ!」
「それは聞きました!ですが、万が一…いや、億が一にもニジ様が風邪を引かれてしまったら私は…!」
「うるせェ、黙れ」

そう言って突き出していた手を絡められいつのまにか抱き締められていた。あぁ、もうニジ様のペースだ。隣の部屋にジャッジ様がいると言うのに、会いたかったニジ様の温もりを感じてしまったらもう突き放すなんてこと出来ない。

「…せめて、マスクをしてください」
「それじゃあキス出来ねェだろうが」
「あの…話聞いてました…?」
「あァ?」

私の心配より、自分の欲望に忠実だなんてさすがニジ様だな…!はあ、とため息をついて無理やり離れて、距離を取る。そしたらより不機嫌な顔をしたニジ様がベッドに座り、腕と足を組んだ。
そんな顔したってキスしませんよ、と言いながらテーブルに置かれたニジ様が持ってきてくださった食事に手をつける。少し時間が経ってしまって熱々ではなくなったけど、ちょうどいい温度になったおかゆはとても美味しい。コゼットさんが作ってくれたのかな、治ったらお礼を言いに行こうとおかゆを食べていたら「おい」とニジ様から声をかけられた。

「なんでお前はここにいる」
「皆さんに風邪をうつしてはいけない、と隔離されています」
「…誰に」
「さあ、誰でしょう」
「父上はお前の居場所を知らないと言った。でもここは、父上の隣の部屋だ。どうなってやがる」
「ジャッジ様の、優しさではないですか」
「はァ?何のだ」
「大事なご子息に体調を崩させるわけにはいきません。ニジ様だけでなく、きっと他のご兄弟のことも思ってのことでしょう」
「………」
「どうか、納得してください。ニジ様」

ジャッジ様の肩を持つわけではない。こう言わないとニジ様が何をするか分からないから怖かった。
おかゆを食べながら納得していないであろうニジ様を見つめると、舌打ちをして「そういうことにしといてやるよ」と折れたように納得してくれた。そして食事を続ける私に近づいて横に座った。その口元はとても嬉しそうに笑っている。

「お前、前におれ達は結ばれねェっつたな」
「…言いましたね」
「喜べ、父上から許可が下りた」
「何の…ですか?」
「お前をおれの妻にする」
「…結婚、するんですか私たち」
「嬉しいだろ」
「ニジ様の方が嬉しそう」
「あァ?」

そんなに私と結婚したいんですか?
と挑発してみればおでこに血管が浮き出て口元を歪めた。あ、やばい。怒らせちゃったかな、と危機感を覚えマスクをして丁度食べ終えたおかゆの食器を安全な場所へ移してから、ゆっくり立ち上がって逃げようとしたらガシっと腕を掴まれた。冷や汗ひとつ流しながらニジ様の方を見れば大層、機嫌の悪そうな顔とご対面。

「嬉しくねェのか」
「とっても嬉しいです、はい」
「なまえがどうしてもおれと結ばれたいって言ったからおれが」
「そうは言ってない…」
「あァ!?」
「いたっ!う、嘘です言いました、ニジ様が大好きだから結婚しましょう!」
「っ!」

掴まれた腕がミシミシと音がなって握りつぶされそうになる。自分の身を守るためにニジ様の言うことに肯定すれば、その痛さからは解放された。もし結婚出来たとしてもこんなバイオレンスな結婚生活耐えられるのか、とちょっと…いや大分心配になりニジ様の顔色を伺うと無表情のまま停止していた。どうしたのだろう、と顔の前で手を振ってみるとその手を絡められて顎をすくわれた。

「今のもう一回言え」
「え!な、なにを…」
「おれの事がなんだ?」
「ニジ、さまの事が…大好き、だから…?」
「…もう一回」
「だいすき…ニジ様、大好きです」

ニィ、と満足そうに笑ってそのままマスク越しにキスをされてしまった。風邪、ひいていると言ったはずなのにな。本当に自分の欲望にだけは忠実なんだから。まあ、煽ったのは私だから文句は言えないけれど。
いつもとは違うキスだからすぐに離れたニジ様はそのまま私を抱きしめた。その温もりに目をつむりやっぱり、離れたくないと強く願っていた時にニジ様の手が私の胸に添えられた。

「増えてねェな、胸」
「…雰囲気が台無しです」

そのまま胸を揉まれて、これじゃあニジ様をその気にさせてしまうと思い、すぐに離れた。面白くなさそうな顔をしていたけど、私は一応病人でそんな体力はないし、これ以上ニジ様のそばにいると本当に風邪をうつしてしまいそうだったから、その背を押してすぐ部屋の出口へと誘導する。

「ニジ様、これ以上の長居はいけません。どうぞ、ご自分の部屋へお戻りください」
「なまえの分際でおれに命令すんのか」
「ジャッジ様に!ニジ様とは会うなと命じられております。なので、バレてしまったら…困り、ます…」

ジャッジ様の名前を使えば、ニジ様は舌打ちをしてすぐに出ていかれた。内心、ホッとしてその背を見えなくなるで見送ってから部屋の扉を閉めた。まるで嵐のようだったな、と頭痛がして頭を抑える。フラフラしながらもう休もうとベッドに入った瞬間に、部屋の扉が開いた。今度はなんだ、とそちらに目を向けてみれば、そこにいたのはジャッジ様だった。

「ジャッジ、様…!」
「ニジがここに来たな」
「っ、申し訳ありません…」
「まあ、いい。お前にとっては最後だったかもしれないからな」
「さ、いご…?」

何のことを言っているんだ…?と疑問の目をジャッジ様に向ければ、私のいる場所まで来て睨みつけられた。その威圧感で立ち上がろうとした身体は一切動かなくなって、汗が大量にでる。

「ニジがお前を妻に迎えたいと言ってきた」
「…聞き、ました」
「私はそれを受け入れる条件としてニジにある提案をした」
「提案…とは…」
「これからある国同士で大規模な戦争が始まる。それを収めてこいと」

それはニジ様にとってはいつもの任務と変わらないんじゃないだろうか。なんでそんな条件を提示したんだろう、ジャッジ様にはなんの考えがあるんだろう。色々模索していたらジャッジ様が背を向けて顔だけこちらを向いた。

「約1カ月、ニジは帰らない。その間にお前にはこの国から出て行ってもらう」
「っ…!ジャッジ様、それは…!」
「お前の意思、でな」
「え…」
「ニジには幸せになってほしい。だが、お前はふさわしくない。ならば、お前はどうする」

私は…どうする…。それを考えたことは何回もある。でも、その度に出る答えはいつも1つしかなくて。ニジ様の幸せを願うなら、私では幸せに出来ないなら…。

「ニジ様の前から、消えます…」

そう答えれば、ジャッジ様は満足そうに口角を上げた。「そういうことだ」と言って私の部屋から出て行こうとしたジャッジ様のマントを失礼ながら掴んで、引き止めた。

「私の…最初で、最後の、願いを聞いていただけませんか…」

私にできることは、ニジ様を思って去ることしか出来ない。でもそれは見せかけの私の意思だ。本当の気持ちはそうじゃない。ずっと一緒にいたい。結ばれたい。私が幸せにしてあげたい。その本当の気持ちを救ってあげるように、私はジャッジ様の背中にすがった。