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部屋の中

「で、なにを言われたの?好きすぎて会えば欲情するって?なんなの、ラブラブじゃない」
「いや、そんなことは言われてないんだけど…」
「しかも夕食後に部屋に呼び出されてるんでしょ」
「そう、だけど…」
「今はね、あなた達がいつまで続くかを賭けてるの。お願いだから結婚してね」
「また懲りずになにを…!!」

ニジ様に夜、部屋に来いと耳元で囁かれてから解放された私は熱さでふらふらになりながら頑張ってシーツを取り込んだ。それを畳んで仕舞った後、食堂へ行き夕飯を食べているところに同僚が来て、いつもと違うメイクに何があったんだと聞いていたので今日の経由を話した。そしたらまた懲りずに人で賭け事をしていると言い出してもう呆れるしかない。
そもそも、結婚なんて考えていない。それこそジャッジ様がお怒りになるだろう。可愛い息子を底辺の使用人に渡すわけない。今の関係をジャッジ様に知られるのすら怖いのに結婚話まで出たら、それを知られた瞬間に私は召されるだろう。考えただけで寒気がしてきて、背中をぶるりと震わせる。

「ニジ様は、多分どこかの王族のお姫様と結婚するだろうから私はそこでお終いだよ」
「なに卑屈になってるのよ、そう2に言われたの?」
「言われては、ないけど…そういう自然の原理なの。王族が使用人と結婚なんてありえない。」
「それ2に言った?」
「言えるわけないでしょ!」
「言ってあげればいいのに」
「どうせ召使い女が夢見てんじゃねェよ、って言われるだけよ」
「…そうかなぁ」

そうだよ、と返しながらごちそうさまと手を合わせて食器を片付ける。それに続くように同僚も付いてきて2人で食堂を出た。世間話をしながら使用人部屋に戻ってきてお風呂に行く支度をする。ニジ様の部屋に行くのは仕事ではない、と判断したので化粧も落としたかったし今日も汗をかいたので先に入浴を済ます。これで帰ってきたらすぐ寝れる、と一瞬機嫌が良くなったが、また「帰れると思うな」とか言われてしまったら…と考えると複雑な気分になった。

同僚にじゃあ行ってくるね、と告げると「さすがに心配だから今日も朝帰りはやめてね」と言われた。一晩中泣かせてしまった罪悪感に押しつぶされて今日はもう行かない!と言ってしまいたかったけれどそんな事をしてしまえば電気ビリビリで陽の目を見る日は来ないだろう。帰ってこれるように頑張る、と告げてニジ様の部屋に向かった。

ドアをノックすればニジ様の声で「入れ」と言われて恐る恐ると扉を開ける。失礼します、と部屋に入って行ったら珍しくゴーグルを外していて椅子に座るニジ様とご対面。目をパチクリしながら目の前まで行くと、手を握られてそのままベッドへエスコートされた。わぁ、今の王子様っぽい…って感動したけど、いやいや違う!これじゃあ強制的に朝までコースだ…!か、回避しなければ…!と考えていたらベッドに座ったニジ様の膝に座らされる。手が伸びてきて後ろから抱きしめられる形になり、照れていると頬にキスをされた。それはこめかみに移り、耳に移り、うなじ、そして首筋にまで到達してしまった。昨日自分がつけた跡を確かめるように舌でなぞってまた強く吸われる。

「や…!ま、まってください…」
「待たねェ」
「ニ、ニジ様…!」
「…んだよ」
「今日、も…その…するん、ですか…?」
「今のでしたくなった」
「えぇ!ちょと…!…んっ、」

先ほどの体制から器用にベッドに押し倒されていた。ちゅ、ちゅ、と音を立てながらするのはわざとなんだろう。そろり、と服の上から胸を撫でられてすぐに止めに入る。そしたら唇が離れて不服そうな顔をした。

「嫌なのか」
「…さすがに、2日続けては…身体が持たないと、いいますか…」
「慣れろ」
「そんな横暴な…!ほら、いつもみたいにジェンガでもしません、か」
「…チっ、お前が組み立てろよ」

俺が勝ったら今日も抱く
そういいながら私の上から退いてくれたニジ様。これは、折れてくれたと思ってもいいのだろうか…。いやでも勝負に負ければ今日も朝までコースになってしまう…!頑張って勝たなければ、と気合を入れてジェンガの準備をする。
パーツを組み立てて、ニジ様の紅茶の用意をしてる時にふと思い出してしまった。そういえば、私ジェンガ勝ったことない…それに気づいた時既に遅しだ…!それを分かっててあの人はわざわざ勝負事に持ち込んだのか…!全て手のひらで踊らされていた屈辱で少し不機嫌になる。いっそこの紅茶に睡眠薬でも混ぜたろか、と企んでみたけど肝心の睡眠薬がここにない…運が悪いな、私…。今度から常備しておこう…。

「ニジ様、準備が整いました」
「じゃあやるか」
「…あの、今更ながら私が負けた時のアレを取り消しては」
「やらねェ」
「ですよね」

食い気味に言われてしまっては押すところも押せない。とにかく、頑張ってこのゲームに勝つしかない。いつも通り先行はニジ様から始まる。最初の方はお互い取れるところから取って行っているが、だんだんタワーが高くなってきた頃からニジ様の本領は発揮される。この人は頭がいいから何処をどう取れば重心が保てるか計算しながらパーツを取っていく。反対に私はとりあえずここは無難だろう多分、という感覚で取っていくから毎回パーツが外れるたびにタワーが揺れてビビりまくりだ。ドキドキしながら行方を見守っていたら見事私のターンでタワーは崩れた。

「…あの」
「ほらベッド行くぞ」
「…あの、もう一回」
「はァ?」
「さ、3回勝負ってのはどうでしょ…?」
「往生際がわりィな」
「ずるいです!いつもニジ様が勝ってるじゃないですか!ハンデ!ハンデを要求します!」
「ハンデ与えてもおれが勝つに決まってんだろ」
「じゃあそれを証明してみてください!」
「…上等だコラ、早く組み立てろ」

よっしゃ!と心の中でガッツポーズをして早急にまたタワーを作っていく。ニジ様はこういう時に扱いやすいから助かる。私が必死で組み立て作業をしていると丁度、ニジ様が飲んでいた紅茶が無くなったのでおかわり、いりますか?と聞くと不機嫌そうな声で「いる」と言われた。素直に怖い。
タワーが完成して紅茶を入れてニジ様の前に置く。さぁ、二回戦の始まりだ。ハンデはニジ様は利き手じゃない方の手を使い、私は両手を使ってもいいとの事。いざ始まってみれば私の方が有利だろうと思っていたけど、利き手じゃなくてもなんのその状態のニジ様無双がエゲツない。出来ないことないのかよ…!と悔しがっていたら見下すような笑みで見てくる。結局2回目の勝負も私がタワーを倒してしまって負けた。

「ハハハ!お前じゃおれに勝てねェ!」
「3回勝負です!あと1回あります!」
「時間の無駄だ、諦めろ」
「…キスだけじゃダメなんですか」
「ダメだ」
「…今日は使用人部屋に帰りたいです」
「ダメだ」
「なんでもするからぁ…!」
「なら抱かれろ」
「そういうんじゃなくて…!」

いつのまにか横抱きにされてベッドに連れて行かれる。もうおしまいだ…何を言ってもこの人はわたしを抱くことしか考えていない。とんだスケベ脳だ。ふわふわのベッドに押し倒されてついに私の方が折れた。せめて、電気を消してほしいと頼めば嬉しそうにリモコンを操作して部屋を暗くする。雨のように降ってくるキスに必死に答えながら心の中で同僚に謝り倒した。

「あ、それと」
「…?」
「おれの寝てる間に帰るな、出ていくなら起こせ」
「…朝、寂しかったんですか?」
「黙れ」