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セロリと降谷さん

私は何故か畑にいた。炎天下の中で頑張って育とうとする野菜たちに一生懸命、水をあげていて気付けば周りは色んな野菜が育っていた。トマトにきゅうり、あっちのレタスも収穫どきだ。でもどうしてかセロリだけが全然育たなかった。肥料が悪いのか水のあげ方に問題があるのか、色々考えてやり方を変えて見たけど全然育たない。頭を悩ませていた時、誰かが現れた。

「すみません、セロリ貰えますか?」

顔は光を当てられて見えなかった。でもその人はセロリを所望していた。どうしよう。よりにもよって全然育たないセロリが欲しいだなんて。他の野菜ならちょうど食べごろなのですぐにでも渡せると伝えたところ、その人はどうしてもセロリが欲しいと言った。でもないものはないので、その日は大根1本をあげて諦めてもらった。しかしその人は次の日もその次の日もまた次の日も現れて、セロリが欲しいと言った。不思議なことにその人が現れてからセロリが芽を出し育つようになってきた。ただ、まだ食べれるまでは成長していない。なので来る日も来る日もその日食べごろの野菜を与えて、その人には帰ってもらった。あの人が来るたびにセロリが育っているような気がする。なので、大変失礼ながらその人のことを私はセロリの精霊さんと呼ぶことにした。精霊さんはいつまでたっても顔は見れない。どんな人かは分からない。ただ、分かっていることはセロリが大好きだということだ。そんなに好きならスーパーや他の畑から貰えばいいのに。何故わたしの畑の、しかも全然育たないセロリが欲しいのか?考えても分からなかった。

そしてセロリの精霊さんは今日もやって来る。

「すみません、セロリ貰えますか?」

丁度、畑の様子を見に行こうとしていた時だった。セロリの精霊さんが私を訪ねてきたので一緒に畑に行くことになった。歩いていると前方に違和感を感じた。私の畑が大きな緑に覆われていた。葉っぱだけじゃなくて樹木も緑の木なんて見たことない、いや違う。あれは木じゃなくて…

「もしかして…セロリ…?」
「やっと育ちましたね」
「え?」
「僕はあれを待ってたんですよ」

待ってたって?あれを?
え、セロリってあんなに大きく育つものなの?他の野菜すら呑み込んでむしろ大きなセロリ1本になっている。あんなに一生懸命育てた野菜たちが全部セロリになってしまうなんて誰が思うのだろうか。となりにいたセロリの精霊さんはいきなり駆け出してあの大きなセロリに飛びついていた。

「そ、そんなに…セロリが好きなの…?」

セロリに抱きついた精霊さんはとても嬉しそうで、幸せそうだった。そんな反応をしてくれるならと、そのセロリはあなたにあげますよー!と叫んで見たらとても満足そうな顔でニコリと笑った。そしたら精霊さんは私に向かって叫んだ。

「ここまで育ててくれてありがとう!」
「…え?」
「お礼にいっぱいセロリをプレゼントするよ!」
「ん?」

セロリの精霊さんが何言っているかよく分からなくてはてなマークを頭上に20個ぐらい出していると、私の足元からにょきにょきと緑の物体が生えてきてそれは後ろにも前にも周りにいっぱい芽を出してそのまま育っていく。もしかしてこれは…

「これ全部セロリ!?」

気付いた時には森みたいになっていてセロリの匂いが蔓延していた。私は慌てて逃げていると追いかけて来るようにセロリがいっぱい生えてきた。しまいには逃げ込んだ家の中にもセロリはやってきて、セロリがセロリでセロリなのでセロリセロリセロリ…



「うわああああああ!!」

目を覚ませばベッドの上にいた。冷や汗をかきながら周りを見渡してみるけどそこにはセロリはなかった。なんだったんだ…あれは夢か、夢なのか…。

「セロリの、恩返しだ…」
「何を言っているんだ?」
「はっ!ふ、降谷さん…!?」
「起きたなら早く顔を洗え、ご飯もうすぐ出来るから一緒に食べよう」

妙なことを呟いていると降谷さんが急に現れた。そしてご飯を作ってくれているとは、なんて出来た人なんだ。ていうか、なんで私の家にいるんだろう…なんて思いながら顔を洗いに洗面所へ行く。歯を磨きながらキッチンから漂って来る匂いに気がついて、この匂い…確か夢の中で嗅いだものと一緒…?ということは…。私は急いで口をゆすぎ、キッチンに向かうと食卓に美味しそうな料理かたくさん並べられていた。

「セロリ、だ…」
「君が寝言でセロリセロリって言ってるから相当食べたいんだと思って」
「え、寝言で言ってましたか…?」
「それはもう何回もね」
「は、はあ…」

苦笑いしか出なかった。そりゃあ、あれだけセロリに侵された夢を見れば寝言もセロリになるでしょうよ…それにしてもこの量はなんだ。朝ごはんですよね?と聞いてみると少し照れたように「つい、作りすぎてしまって…」なんて言われたなら全部食べるしかないよね、うん。降谷さんが作ってくれたんだから責任持って残さず食べよう。太ってしまったら降谷さんのせいだ。

沢山の朝食を食べながら何故セロリの寝言を言っていたか、夢の内容を降谷さんに話しているとクスクスと可笑しそうに笑っている降谷さんをみて朝から幸せだなあ、なんて考える。その時にふと、気が付いた。そういえば、

「セロリの精霊さん、降谷さんにそっくりだ」