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#2

囮の仕事も終えて、自分のセーフハウスに戻る。仕事とはいえ、人が目の前で死ぬことはいつまでたっても慣れない。いつもは殺される直前は目をつぶっているのだけれど、今日はジンがフライングしたからちゃんとこの目で死ぬところを見てしまった。気分が悪い。ソファでうたた寝しようとしていたらその光景を思い出してしまって、気を紛らわす為に洗面所で顔を洗っていたら、携帯が鳴った。ドナドナの曲…ってことはジンか…。この着信音を聞いたらなんとも言えない気持ちになる。もちろん、これをジンに聞かれてしまったら問答無用で殴られるが、本人の前ではマナーモードに設定しているので抜かりはない。不機嫌な声で電話に出る。

「…なに」
「今からメールで送る場所にこい、すぐにだ」
「なにその脅迫。お金ならないわよ」
「はっ、金なんざいらねえ。さっさとこい」

それだけ言い残して、ぷつりと切れた携帯がミシッとなったのは気のせいではない。自分の握力で携帯を壊すところだった。せっかくメイク落としたばっかなのに…と相変わらずの俺様具合に嫌気がさしながらも軽くパウダーを乗せて、届いたメールで示された場所に向かった。ただ素直に向かうだけでは気が治らないので途中ドンキによってクラッカーを買って向かった。扉を開ける直前に慣らしてやるんだ。そして、びっくり顔をしたジンを高らかに笑ってやるんだ。…我ながら小さい野望だな…。


****

深夜0:39
都内の使われていない倉庫に到着。こんなところよく見つけたわね…なんて思いながら、倉庫の扉を少しあける。隙間から覗いたら6名の人物が確認できた。2人は知らない顔だな…なんて思いながらクラッカーを一個取り出してその隙間に入れる。念のために買った耳栓をして準備完了だ。よし、みんな驚くがいい…とくにジン。ニヒっと笑いながら意を決してそのヒモに手をかける。いちにのさん!で勢いよくヒモを引っ張ってパァン!!と鳴らしたらその横の扉にバンバンバンっ!!と発泡された。

「あっぶな…殺す気かよ!」
「ふざけてねえでさっさと入ってこい!」
「偉そうに指図しないでくれる?」
「お前は余程殺されたいらしいな」
「ちょっと、喧嘩するならわたし帰るわよ」
「…なんでベルモットがいるの」
「わたしも呼び出されたのよ、ジンにね」

ベルモットがいるなんて聞いてない。まさか、わざわざ海外から飛んで来たとでも言うの?今日の呼び出しはそんなに重要なこと?それにライがいるのも不自然だ。居心地悪そうな顔をして佇んでいる。嫌なら帰ればいいのに。わたしの視線を気づいたのか、ライはふっと笑ってタバコを加えた。…なんか馬鹿にされた気分だ。

「で、なんの用?こんな時間に」
「お前らに紹介しておこうと思ってな。新しくコードネームをもらった、バーボンとスコッチだ」
「バーボン、とスコッチ…?」
「はじめまして、バーボンです。」
「どうも、スコッチです」

自らにバーボンとスコッチと名乗った男たちを上から下まで観察する。1人はうさんくさい笑顔を浮かべ1人はひげを生やした好青年だった。あぁ、またしょうもない組織にしょうもないやつらが入ってきたものだ。顔合わせなんて今日の、しかもこんな時間じゃなくても良かったろうに。ジンはなにを考えている。それもきっとしょうもないことなんだろうけど。

「ベルモット、お前日本での足が欲しいって言ってただろ。バーボンを使え」
「あら、嬉しいわ。よろしくね、バーボン」
「はい、よろしくお願いします」

あーあ、可哀想にこの人。これからベルモットの手となり足となって用済みって言われるまでこき使われるに決まってる。ご愁傷様、なんて思っているとジンに名前を呼ばれた。

「ロゼ、お前はスコッチを見ろ」
「…なんで?」
「ない頭で考えろ」
「は?頭ないんだったら考えられなくない?だからわかんない」
「よし、そこから動くな。脳幹一発で撃ち抜いてやる」
「あ、兄貴!やめてくだせぇ!ロゼも売られた喧嘩は買うな!」
「売られた喧嘩は良い値で買わなきゃ失礼でしょ」
「そのやりとりまだ続くならわたしは帰るわよ?」

ベルモットの鶴の一声?で静まった空間に居心地が悪くなった。ジンを睨みながら喧嘩が始まったと共に構えあった銃を下ろす。はあとため息をついてスコッチと呼ばれた男に近づく。彼の後ろに置かれている物をみてわたしは呟いた。

「…ライフル」
「そいつの武器だ」
「なんで?ライフル使うならそこにいるライと組ませればいい」
「ライも最近コードネームをもらったばかりだ。新人に新人まかせられるわけないだろう」
「他にもキャンティでもコルンでも…いくらでもいるでしょ」
「お前にはそろそろ俺離れしてもらわないと困るからな」

…いまなんて?もしかしてわたしが好きでジンと組んでると思ったの?たしかにわたしの任務はだいたいジンとウォッカと一緒だ。それはあの方からの命令だからであって、こっちだって好きで金魚の糞みたくついて行きたいわけじゃない。出来るなら別がいいし、顔だって一生合わせなくてもいいくらい嫌いだ。むしろジンの方が私離れした方がいいんじゃないのかとその言葉に苛立ちを覚えて下ろした銃をまたジンに向ける。

「ばかにしないで。アンタなんかいなくても私は任務を遂行できる」
「ほう、言うようになったな。なら、証明してみろ」
「望むところよ、寂しくても泣かないでよね」
「誰が泣くか」
「あぁ、誰かさんは血も涙もないもんね」
「なんだと」
「はあ、ほんと下らないわね。バーボン、帰るわ。車出してちょうだい」
「はい。わかりました」
「ちっ、俺らも帰るぞウォッカ」
「はい!兄貴!」

ベルモットに続いてぞろぞろと帰っていくメンバーたちにもう一度大きなため息をついた。ライなんていつの間にか居なくなってるし空気かっての。なんなの。自由すぎるんじゃない?と独りごちていると気まづそうな視線を感じて目を向ける。

「スコッチ、だっけ」
「はい」
「…これあげる。一個しか使ってないし、ほかに使い道ないから」
「クラッカー…ですか」
「そう。コードネームをもらった祝い品、…ってのもおかしいか。まあひとつよろしくねってこと」
「はあ…」
「あと敬語もやめてね。堅苦しいの嫌いなの。」
「…わかった。」

よろしくロゼ。
そういって笑ったスコッチの顔はとても綺麗だと思った。