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#02

ジンたちは私を見捨てて″いつも通り″先に帰ったみたいで私はタクシーを拾って自分の家に帰った。もちろん、電話はひっきりなしにかかってきていて落ち着いてからその電話に出てみるとドスの効いたひっくい声で「どこで何してやがった」なんて聞いてくるもんだから言い訳するのに必死だった。一応、私も一緒に逃げたけど途中躓いて転んでしまって足から血が出ているのを見ていた人に助けられて救護室にいたという設定だ。我ながら無理があるなあと思っていたらドジるくらいなら死ねと言われ一方的に電話を切られた。そりゃねーぜ兄貴…死ねるもんなら死んでるわなんて愚痴をたれつつ、家に着くまでどうやって足を怪我させようか考えていた。


あれから月日たって、私はあの日、倒れていた子を調べていた。遊園地でのことはウォッカに聞けばすぐに口を開いてくれて調べるのにもそう苦労はしなかった。工藤新一、彼の名前らしい。調べれば有名な高校生探偵をしているらしい。なるほど、正義感からあの現場にたどり着いたのか。納得。しかしあれ以降彼の関わる事件がない。彼の家に組織の調査員が2回ほど調べに行ったところ、家には誰もいなかったらしく、最近その家に出入りした人物はいないと断定され、工藤新一は死んだと肯定された。彼が生きているとは誰も気づいてはいない。なら私がすべきことは決まった。彼の保護と護衛だ。私は休みの日があれば工藤くん家付近を捜索した。家に帰っていないとなれば一体彼は今どこにいる。隣の家の住人は近所からは博士と呼ばれる人物らしいし、そこが怪しいか?と2.3日周辺を捜索してみたが、彼の姿は見えなかった。ここではないのか…なら工藤くんはどこで身を潜めているんだと住宅街から離れて大通りに出て歩いていたら喫茶ポアロという文字を見つけて自分のお腹が鳴ったのが聞こえた。あぁ、そういえば朝からなんにも食べてないなあと思い、その喫茶店に入った。

「いらっしゃいませ!おひとりさまですか?」
「はい」
「カウンター席どうぞー!」

迎え入れてくれたのは可愛らしい女性でなんだか癒された。水を出されて注文を聞かれたのでメニューにおススメと書かれたカラスミパスタを注文した。そしたら女性はすごく嬉しそうに笑ってかしこまりました!と浮足でキッチンに入って行った。なんか嬉しいことでもあったのか?と女性の顔を伺っていたらそれに気づいたようにえへへーと彼女は笑った。かわいいな…!

「実はそれ、私の得意な料理なんです!」
「あぁ、店員さんの。だからか」
「え?だからって?」
「すごく嬉しそうな顔をしているので」
「やだ、私ったら出てましたかー!食べた人みんな美味しい美味しいって褒めてくれるんです!だから自信ついちゃって…」
「それは楽しみだなあ」

笑顔は伝染するとはよく言ったものだ。彼女を見ていたら私まで笑顔になる。最近は探し他人の捜索で疲れていたのかだんだん身体の中心から癒されて行くのを感じる。息抜きも必要なんだなあと実感しながらその料理が作られていくのをカウンター席から覗き見た。そのとき、カランカランと入り口のベルが鳴りお客が入ってきたのを知らせた。いらっしゃいませーと店員な顔を向けたので私もそちらに目を向けたら、信じられない人がそこにいた。

「こんにちは!父が出かけて行ったのでお昼を食べにきました!」
「あら、蘭ちゃん!こんにちは!」
「ほらコナンくんも挨拶して」
「こんにちは、梓姉ちゃん!」
「コナンくんもこんにちは!空いてる席に座ってねー!」

彼だ。身体を幼児化された彼がそこにいた。当たり前だが名前も違う。コナン…とはまた変わった名前を名乗ったし、メガネをかけているが、間違いなくあの少年は工藤新一だろう。高校生くらいの女の子と一緒にいるということは彼女が彼を匿っているのか、ここの近所に住んでいるのか…?店員さんが知り合いみたいだから少し探りを入れてみることにする。

「知り合い、なんですか?」
「あぁ、彼女たちはこのポアロの上にある探偵事務所のオーナーの娘さんと…コナンくんは最近居候として一緒に住んでいるみたい」
「居候…」
「はい!カラスミパスタ!お待たせしました!」
「あ、ありがとうございます」

美味しそうな匂いを漂わせ出されたパスタは私の食欲をそそった。梓と呼ばれた店員は私に料理を出した後先ほど入店してきた彼女たちに注文を聞きにいっていた。私の後ろのテーブル席に座った彼女たちの会話をパスタを食べながら聞き耳を立てる。少年の迎えに座っている女性に蘭姉ちゃんと声をかけているのが聴こえて女性の名前が蘭だということが判明した。ついで上の探偵事務所の娘とゆうことは、先ほど窓ガラスに映った文字が間違いでなければ姓は毛利。毛利蘭が本名で間違いないだろう。工藤新一には幼馴染がいたと調べはついている。彼女で合っているはずだ。とゆうことは幼馴染のよしみで家に上がらせてもらっているのか…?このままだと埒が開かなそうなので一旦持ち帰って調べ直そう、と食べ終わって席を立った。ごちそうさまと店員に声をかければ笑顔でありがとうございます!とレジまで案内された。

「よかったらまたきてください!うち、コーヒーも美味しいんですよ!」
「じゃあ次はおやつどきにこようかな」
「はい!お待ちしてますね!」
「ありがとう、美味しかったよ」

また食べたくなる味でとても気に入ってしまった。喫茶ポアロね、覚えておこう。会計が終わって視線を少年に投げると丁度彼もこちらも見ていた。目があって泳ぐのも怪しいと言ってるようなものだし、少し口角をあげて手を振ってみる。さながら、目があった赤ちゃんのような扱いをしてしまったが、少年ははっとして小さく手を振ってくれた。可愛くなっちゃって、とまた口元が緩んで振り返りポアロから出て行った。