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#01



始まりはそう、わたしが道を踏み外したことが原因だった。

生きるために必死で生きてきた。目の前の男がわたしに出してくる指示をなんの疑いもせずに遂行していた。目の前で何人、生き絶えたのを見たのかも覚えていない。気がついた頃には取り返しのつかないことになっていた。

人を殺した。いつのまにかどれだけ償っても拭えない罪を背負っていた。なにを、なにをしてしまったんだ…わたしは…!どれだけ責めても自分を痛めつけても殺した人たちは生き返らなかった。だから私も死のうとした。高い橋から飛び降りようとしたって、包丁を自分の心臓に向けて構えたって、臆病な私は涙を一粒流して諦めてしまう。私は死ねなかった。苦しい、もう組織から抜けたい。そんな精神的苦痛に悩まされていた時だった。ある事件が起きたのは。その日はジンとウォッカに連れられてトロピカルランドで取り引きをする任務についていた。ターゲットがちゃんと一人で来ているか確認するために二人はジェットコースターの列に並びに行ったが、私はそれに乗らずそのターゲットの尾行をしていた。挙動不審に歩き回っている。あれはちゃんと言いつけ通りに一人で来たんだなあ、と感心しながらジンたちが降りてくるのを待っていたが一向に出てくる気配はない。ちらっとジェットコースターの出入り口をみたら警察が入って行くのが見えて冷や汗が流れた。まさか…私たちの計画がバレて…?と心配したが、周りにいたカップルがそのアトラクションで殺人事件が起きたと話していた。まさかジンたちの乗ったコースターで事件があったんじゃないでしょうね…なんて思っていたら案の定、厄介ごとに巻き込まれた。ターゲットを逃すなよとメッセージが入ってきた。はあ、とため息をひとつ付いて、警察が来たことに焦っているターゲットの背後に近づき、周りから見えないように拳銃を背中に当てた。

「焦るな、わたしたちには気付かれていない」
「っ!う、撃たないでくれ…!」
「こんな公衆の面前で撃つわけないでしょ、計画通り指定された時間に指定された場所へ」

そう言ってすぐにターゲットの側から離れる。人混みに紛れて視覚になるところへ隠れながらターゲットをまた尾行する。日が暮れそうになって来た頃にジンたちはその事件から解放されたのかやっと連絡がきて場所を伝える。正直、捕まってくれていればなんて望みのない野望を持ったって仕方ないのだから考えるのはやめよう。いつのまにか背後に立っていたジンに「ターゲットは落ち着かせた。指定通りに」と言うとフンと鼻を鳴らして2人は取り引き場所へ向かった。私は最後まで見守り役だから見つからない場所でその取り引きを見る。息を潜めて待っていたら先ほど会話した男が取り引き現場にやってきてウォッカとやりとりをしている。その現場に違和感を感じた。ジンがいない。彼はどこに行ったんだ。計画ではウォッカと一緒に取り引きを行うはずだったのに…気になって今いる場所から回って現場の死角となる場所を探した。そしたらジンが人を棒で殴りつける瞬間だった。私は咄嗟に隠れてそのあとの行動を見た。すぐに異変に気付いたのかウォッカがジンのもとに寄ってきて拳銃を出そうとしているところをジンに拒否られていた。未だ捜査中の警察を恐れているのか、ジンはあることを思いついたと懐からあるケースを取り出した。

「こいつを使おう…組織が新開発したこの毒薬をな…」

あれは…摂取したあとなのにその死体からは毒物を検出されない、言わば完全犯罪が可能な薬…そんなものをなんでジンが持ち出しているのか…!まだ人間には試されてない試作品だとジンは呟いていた。そのままジンはウォッカに急かされるがままその場を逃げ出した。私もすぐに逃げようとしたとき、その薬を飲まされていた人間が苦しみ出した。その光景を見たとき逃げようとした足がすくんで動けなくなった。激しく呼吸をし苦しむ人間から煙のようなものが出ていてその時、助けなきゃって思った。気づけばその人間に駆け寄っていて大丈夫!?と声をかけていた。ずっと苦しむ人間はまだ若い青年だと知った時はこの子の未来を奪ってしまうのが怖かった。でもその状況をなんとかする方法なんて知らなくて無力な自分に絶望していた時、彼は意識を失っていてその身体は先ほどとは違って幼くなっていた。

「ど、ゆ…こと…?」

ジンが飲ませたのは殺人薬じゃないの…?この子はそれを飲んで死んだんじゃないの…?慌てて脈を図ると波打つように動いていてまだ生きていると実感させた。よかった。彼はまだ生きている。彼の未来を奪わずに済んだ。それが嬉しくて涙が溢れてきてどうしようもなかった。ただ、守らなくてはと思った。この子が生きていると組織に知られればまたこの子は危険な目にあう。それを阻止しなければと使命感に溢れた。私は立ち上がってその場を後にした。少し歩いて園内にいる捜査官の人にすみません、と声をかけて少年が血を流して倒れていると伝え場所を告げた。慌てて去って行く捜査官を見送り、私はその遊園地から足早に帰って行った。