Kiss me before I rise.


女の服の首元からブラの肩紐が見えているのがあんまり好きじゃない。ちょっとだらしない感じがするから。でも明らかにサイズの大きい俺のTシャツを着て隣で無防備に眠る彼女の首元からちらりと見えているピンクのそれに関しては話は別である。規則正しい寝息を立てて俺の二の腕に頭を乗せて眠るナマエの前髪に触れる。目元が少し赤くなっているのを見て、平日にも関わらず激しく求めすぎたことをほんの少しだけ反省した。でも勝手に俺のTシャツを着て煽ってきたコイツも悪い。俺が他の女を選ぶ訳がないのにバカだなと思う。でもそんなところも可愛くて仕方がないとも思ってしまう自分も大概だ。


年下の、しかも会社の後輩なんて全く興味なかったはずなのに。これまで付き合ってきた相手もみんな年上か同い年で、年下と言われるとなんとなくめんどくせーなってイメージがあった。年上でもめんどくさい女なんていくらでもいるんだろうけれど。でも場地さん場地さんって俺に懐く姿は庇護欲を唆られるっつーか、まぁ好意を向けられて悪い気はしなかった。それでも最初はただ小動物を愛でているような気持ちだったのに。

いつだったか、ナマエの残業に付き合ってやったあと「お礼に何かご馳走させてください」と言われて、なぜか双悪に連れて行ってしまったのは、会社から歩いて行けて手軽食べられる店が他に思いつかなかったからだ。もちろん最初から奢られる気なんてなかったけれど、頑なに払おうとするナマエの手から財布を取り上げて、自分の財布から札を数枚取り出す。納得いかない、という顔をしながらも「…ご馳走様です」と渋々頭を下げたナマエのつむじがちょっと可愛いと思ってしまった。それから毎月末、残業終わりにナマエと双悪に行くのがいつの間にか恒例になっていた。


「最近場地がたまに女の子連れて来るんだよ」

元東卍メンバー数人で双悪に行ったときのことだ。ニヤニヤしながら話すスマイリーをじとり睨むけれど、そんなのは気にしないと「しかもまぁまぁ可愛い」と続けた。

「えっ、まじっすか!?場地さん!俺なんも聞いてませんよ!」
「そういうんじゃねーよ、ただの会社のコーハイ」

真っ先に食いついてきた千冬を軽くあしらいながら割り箸を割り、ついでに千冬の皿から餃子も奪っておく。

「ただの会社の後輩、ここに連れて来るか?」
「別に会社から近かっただけだワ」
「えー、場地が狙ってないなら紹介してよ」

「可愛いんだろ?」と隣から顔を覗き込んできた一虎から目を逸らす。

「……だめに決まってんだろ」

一言そう言うと周りが一気に騒ついて、千冬が声にならない悲鳴を上げた。あーくそ、うぜぇ。じわじわと自分の顔が熱を持つのを誤魔化すように、ズルズルとラーメンを啜った。


「場地に年下って合ってると思うけどな」

帰り道隣を歩いていたドラケンが、千冬にもタケミっちにも懐かれてるし場地って結構面倒見もいいし、と続けた。面倒見がいいのはお前の方だろ、と言い返そうとしてやめた。

「つーかお前もうその子のこと手放してやれねーだろ?」
「あー……多分、無理」
「はは、そうだろうなと思った」

場地がここに連れてくるような女の子、もう特別に決まってんじゃん、と笑うドラケンにうるせーと蹴りを入れる。こんなはずじゃなかったのに。年下なんて興味なかったはずなのに。ナマエが俺以外の男に楽しそうに笑う姿は見たくない、なんて思ってしまった時にはもう手遅れだった。

休みの日に2人で出かけたこともあったし、正直好かれているという自覚はあった。しかし誰にでも愛想の良いナマエは部署内でも可愛がられていたし、ナマエの同期だといういかにもな爽やかイケメンが昼休みにたまにやってきて「差し入れ」と言ってチョコやコーヒーを渡しているのも何度か見たことがある。そいつからの熱い視線に本人は気付いていないようだったけれど。

「クリスマス暇?」

その男が近くにいることが分かった上で聞いた。大きな目を更に見開いたナマエが食い気味に「暇です!!」と返しているのを見てガックリと肩を落とす男を視界の端で確認してざまぁみろ、なんて思ったことはナマエには一生言えない。顔を真っ赤にして今にも泣きそうな顔をしながら「場地さんが好きです」って言ってくれたナマエをその場で抱き締めそうになるのをどれだけ必死に堪えたことか。「俺も好き」そう言うと、目尻を下げて笑った顔が可愛くて、こいつのことを守りたい、なんて柄にもなく思った。



分厚いカーテンの隙間、レースの薄いカーテンを突き抜けて朝日が部屋に差し込む。まだ起きるには随分早い時間だったが、小さく身動いだナマエが目を閉じたまま「んん…」と声を漏らした。

「はよ」
「ん、おはよう…」

寝ぼけているのか、いつもより砕けた口調で甘えるように胸元に擦り寄ってくるナマエの髪から自分のものと同じシャンプーの匂いがふわっと香る。恐らく無意識に、するりと脚を絡められるとそれだけで昨夜の記憶が蘇り発散したはずの熱が沸々と湧き上がってくるんだから困る。するりとシャツの中に手を差し込み柔らかい肌を下から上へなぞるように撫でると「ん…」と小さく甘い声が漏れた。そのまま下着越しに突起を摘むとぴくんと小さな身体が揺れる。

「ふ…ぅ、ん…」

薄い唇に軽く吸い付くと、ようやく瞼を持ち上げたナマエがまだ眠そうな瞳をこちらへ向ける。

「え…なに…?」
「起きた?」
「んっ、ぁ…っ」

背中にあるホックを外し直接触れるとふるりと身体を震わせた。

「ゃっ、ばじさ、ちょ、まって…っ」
「無理」
「んん…っ」

柔らかい唇に自分のそれを重ねて誘うように舌先でつつく。恐る恐る差し出された小さな舌を絡め取り吸い上げる。吐息混じりの声を口の端から漏らしながら、なんとか口付けに応えようとする健気な姿が愛おしいと思った。布の下で再び手を動かすとやんわりとその手を止められる。「明るいのやだ、はずかしい…」なんて煽るのも大概にしてほしい。

「も、せめてカーテン閉めて…」
「却下」
「えっ、やだやだ待って!」
「待たない」
「ぁ…っ!」





「腰痛いです」
「……」
「ていうか身体中痛いです」
「……」
「しかも歯型、付けましたよね」
「…あー」
「首元隠れる服あったかなぁ」

俺の腕にすっぽりと収まるナマエの頭に顎を乗せる。下の方から聞こえる不満げな声に悪ぃ、とぼそりと呟くとくすくすと小さな笑い声が返ってきた。

「わたしの分の書類回していいんですよね?」
「いいけど」
「やった」
「その代わりもう一回付き合えよ」
「えっ」

朝から2回なんて無理です!と俺の身体を突っぱねるナマエの上に跨り強引に唇を塞いだ。

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