Novel - Deep blue | Kerry

まぼろしの
青に溺れる

1

『当機はまもなく離陸いたします。安全のためシートベルトをーーー』

アナウンスのあと、ゴゴゴゴゴ……という音と共に傾く機体。重力に伴って背中が強くシートに押し付けられる。角の丸い窓の外をちらりと覗くと自分の住む街がみるみる小さくなっていった。

10日前、4年付き合った彼氏にフラれた。そりゃ最近は付き合い始めたとき程の熱はなかったにしても、4年も付き合えばそれなりに情もあったし、わたしはこの人と結婚するんだろうなってなんとなく思っていて。親にも周りの友達にも「次はナマエだね」とか「結婚式には呼んでよね」とか言われていたし、わたし自身そのつもりだった。別れたきっかけは彼の海外赴任が決まったことだった。商社勤めだから海外赴任があることは前から分かっていたし、時期が決まったタイミングでてっきり「一緒に行こう」とか「帰ってきたら結婚しよう」とか言われるものだと思っていたのに。彼の口から出てきた言葉はまさかの「俺たち別れよう」だった。

わたしが今乗っている飛行機の行き先は沖縄。付き合ってから毎年2人で行っていた場所だった。今回もかなり前から旅行の予約も有給申請もしていて、今更「別れたから行かなくなった」と同僚に言い出せず。なんなら彼と別れたことをまだ親にも友達にも言えていないわたしは、何を思ったのか1人で空港まで来て飛行機に乗っていた。

……いや、わたしマジでなにしてんの?そもそもこの旅行をキャンセルしなかった時点でかなりやばいヤツだ。未練たらたら、痛すぎる。まさか1人で行っているとは夢にも思っていないだろうな。自分のクレジットカードで飛行機もホテルも決済してあることに彼が気付くのは果たしていつなんだろう。もちろんあとでちゃんと払うつもりではいるけれど、ちゃんと後日請求されるのか、わたしを振った申し訳なさで払ってくれるのか、それとももうわたしに連絡する気がないからお金は諦めて放置しているのか。3番目がなかなか濃厚で辛い。ていうか旅行の10日前に別れ話をする彼が悪い。なんでこんなタイミングで言うんだ。せめて帰ってきてから言えよばか。ばーーーか。

「あ゛ーーーー……」
「え、大丈夫ですか?」
「あっ、すいません…大丈夫です」

席に着いて、突然頭を抱えて奇声を上げたわたしを見て隣に座っていた男性がぎょっとしつつも心配そうに声をかけてくれた。慌てて大丈夫と返すけれど、イケメンに変なところ見られた恥ずかしさで余計に頭を抱えたくなった。



なんでこんなに空港から遠いホテルを予約してしまったんだろう。せめて街中なら良かったのに。1人でレンタカーを運転しながら、何度か目尻に涙が浮かんできては鼻を啜った。海沿いの、それなりにいいお値段のリゾートホテルのロビーに着いて周りを見ると、当然のようにカップルと家族連ればかりだった。フロントで「連れが来れなくなったんで宿泊するのは1人なんですが…」と伝えたときの虚しさといったらなかった。案内された広い部屋にはキングサイズのベッドと、2人でも余裕で寝られそうなこれまた大きなソファ。一人暮らしの部屋よりもよっぽど立派なキッチンもついている。バルコニーにはバスタブまである。その先に見える青い空とエメラルドグリーンの海に、いつもなら上がるテンションもどうにも下がる一方だ。やっぱり来なきゃ良かったかなぁと重たいため息が零れた。

しばらく部屋でだらだら過ごしていたら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。別れてから3日ぐらいは本当に食欲が一切湧かなかったけれど、さすがに10日も経てばいい加減お腹も空いてくる。ホテルのレストランに1人で行く気にはなれなかったからレストランの横にあるバーにでも行こうと、軽く身だしなみを整えてから部屋を出た。

エレベーターを降りてすぐ、隣のエレベーターから降りてきた人が「あ、」と声を上げた。振り返るとそこにいたのはさっき飛行機で隣の席に座っていた男性だった。そういえばこの人も1人だったけど、現地で待ち合わせとかだったのかな。こんなホテルに1人寂しく泊まってる人なんてきっとわたしぐらいだろう。あーあ、このイケメンも彼女と来てるのかな、いいなあ。なんて考えながら軽く会釈をしてその場から立ち去ろうとすると、「あの!」と再び声をかけられた。

「…わたしですか?」
「はい。その、おひとりなのかなって、思って」

…1人で悪かったな。かといってこんなところで嘘をつくのも虚しすぎる。「1人ですけど」と答えた声が少し冷たくなってしまったのは仕方のないことだと思う。

「あ、すいません!失礼な聞き方して」
「いえ…」
「飛行機でも具合悪そうっていうか、元気なさそうだったからちょっと気になってて」

こんな見ず知らずの人に心配されるほどやばい顔をしていたんだろうか。思わず反射的に「大丈夫ですよ」と答えたけれど、「全然大丈夫そうに見えませんけどね」と返されてしまった。この人、一見物腰柔らかい雰囲気だけど、結構ズバッと言うな。

「あー…その、俺も1人なんで、もし良かったら一緒に飲みません?」

そう言われて驚く。まさかわたし以外にも1人で泊まっている人がいるとは。仕事の関係で来ている、とかなのかな。普段ならこういう誘いには乗らないけれど、こんなところで1人でいるのも寂しかったしどうせこの人と会うのもこれきりだろうしたまにはいいかと思って「じゃあ、1杯だけ」と答えた。


薄暗いバーのカウンターに等間隔に置かれたオイルランプの火がゆらゆらと揺れているのを、頼んだカクテル越しに眺める。ちなみにこれはもう3杯目である。声をかけてきた男性、松野さんは思った以上に気さくで話しやすくて、歳も同じだったこともあってすぐに打ち解けた。この人がこういう手口で女の子を引っかけまくってる悪い男だったらどうしよう、なんて警戒していたはずなのに、彼と話している時間が楽しくてつい飲みすぎてしまった。わたしが3杯目をこくりと飲み干したとき、アルコールで濡れる松野さんの綺麗な瞳がわたしを捉えて、空よりも綺麗な青から目が逸らせなかった。

「良かったら、部屋で飲み直さない?」

その言葉に小さく頷いてしまったのは、長く付き合ってきた彼氏と別れた寂しさのせいにしてしまいたい。


わたしが予約している部屋よりも3フロア下の階だった。部屋の作りはほぼ同じ。大きなベッドとソファ、キッチンもついている。バルコニーにバスタブはなかったけど。「ビール飲める?」と部屋の冷蔵庫からオリオンビールを2本取り出した松野さんの言葉に頷きそれを受け取る。ホテルの売店でさっき買ってきたおつまみを適当にお皿に盛って、冷えたビールをグラスに注いで、せっかくだからとバルコニーで乾杯した。東京はもうすっかり秋だけど、こっちはまだじっとしとした夏らしい湿気が残っていて、冷たいビールがより美味しく感じられた。

「なんで1人で来てるかって、聞いてもいい?」
「あー…」
「あ、言いたくなかったらいいけど」

バーで飲んでいたときに真っ先に聞かれるのかと思いきや、なかなかこの話題に触れられなかったことに、この人の気遣いを感じていた。話しやすいけど、深くまでは立ち入ってこない。そういうところが良いなとも思ったし、少し寂しいなとも思ったけど。

「本当は彼氏と来る予定だったんだけど、」
「え、ミョウジさん彼氏いる!?うわ、ごめん!」
「あ、ちがくて…その、もう元カレ」
「…それはそれでなんか、ごめん」
「あ、いいの。気にしないで」

続けて謝る姿は、やっぱり女の子を騙すような人には見えなかった。

「結構長く付き合ってた人だったから未練っていうか、まだちょっと引きずってて…それでなんとなく来ちゃった」

ダサいでしょ?と続けると「そんなことねーって。つーか俺の方がダサいし」と言われて、隣からすっと伸びてきた手に軽く頭をぽんぽんと撫でられてうっかり泣きそうになってしまった。そういえば彼と別れたことを人に話したのは、これが初めてだった。

「松野さんはなんで1人なの?」
「名前、千冬で良いよ」
「じゃあ…千冬、くん」
「ん、俺もナマエちゃんて呼んでい?」
「うん」

男の人に名前で呼ばれたぐらいでいちいちときめくような歳でもないのに、耳によく馴染む少し低い声で名前を呼ばれるとやけにドキドキしてしまった。

「俺さ、何年も片想いしてた人がいて」
「へぇ…」

この出だしで既になかなかのダメージだった。自分だって10日前まで4年付き合った彼氏がいたくせに。

「半年前ぐらいからその人と付き合ってたんだけど、1番目どころか2番手ですらなくて」
「え、ひどい…」
「な、ひでーよな。まさかの3番目で」

それでも好きだったんだよなぁ、と苦笑いしながらビールを飲む千冬くんの姿に胸が苦しくなって、なぜだか勝手に傷付いたような気分になった。

「そんで普通にフラれて、しばらく抜け殻みたいになってたら職場の人たちが休みくれてさ。どうせなら遠くにでも行ってやろうと思って、でも直前だったからこんな高いホテルしか空いてなくて」
「良いホテルと取っちゃったね」
「でもナマエちゃんに会えたからこのホテルにして正解だったかもな」

そんな言葉も都合良く解釈したくなってしまう。でも「わたしも」と、喉まで出かかった言葉は思わず飲み込んでしまった。だってこれは所謂トラベラーズハイとかいうやつで、絶対家に帰ったあとで虚しくなってしまうやつだから。それからまたしばらく夜風に吹かれながらバルコニーでのんびりお酒を飲んで、買ってきたおつまみがなくなる頃にはさすがに眠くなってきていた。そろそろ部屋に戻らないと、と数時間ぶりにスマホの画面を眺めながら、でも1人の部屋に戻るのいやだなぁ、なんて思っていたら「もしかして眠い?シャワー浴びる?」と当たり前のように聞かれて、びくりと一度肩が跳ねた。

シャワー浴びるって、つまりそういう意味だよね?まぁでもそうか、部屋で2人でこんな遅くまで飲んで、そりゃするよね…そうだよね…いい歳して、しない方がおかしいか。

「…じゃあ、借りようかな」
「クローゼットにバスローブあったと思う。ちょっと待ってて」
「あ、ありがとう」

シャワーを浴びながら、いくら良い人だからってこんな旅先で出会ったばかりの男性と体の関係を持つなんて…本当にこのまま流されていいのかな、なんて考えながらもこれからするであろう行為を意識しだ途端、身体の奥が期待に震えてじんわりと熱を帯びるのを感じた。本当に嫌だったらちゃんと嫌って言えばいい。きっと千冬くんはわたしが本気で嫌がれば止めてくれる。まだ出会ったばかりだけど、そういう人だっていうのは話していれば分かった。

「ごめんね、千冬くんの部屋なのに先にシャワー借りちゃって」
「いいよ。俺もシャワー浴びてくる」

バスルームから出るとホテルに備え付けられていたミネラルウォーターのペットボトルを手渡されたけれど、シラフでは到底この空気に耐えられそうにもなかったから、テーブルに置いてあった飲みかけのビールをぐいっと煽った。すっかりぬるくなったビールの弱々しい炭酸が舌の上で軽く弾ける。熱っぽい思考はそのままで、数分もしないうちにバスルームから出てきた千冬くんの艶のある黒髪から水滴が滴る姿に、お腹の奥で燻っていた熱がまたわずかに温度を上げた。

2人で並んでベッドに横になると、そういうことをする前に眠ってしまいそうだった。

「ナマエちゃん眠そ」
「うん、ねむい」
「かわいー」
「うそ」
「嘘じゃないって」

こんな甘い空気に耐えきれずふい、と顔を背けるとガサガサとシーツの擦れる音がした。ベッドの上で身体の向きを変えた千冬くんの腕が腰に回されて、後ろからぎゅうっと包み込むように抱き締められると結局さっきまでの酔いなんて一瞬で覚めて、どきんどきんと心臓がうるさいぐらいに高鳴った。

「ごめん、ちょっとだけ」
「う、ん…」

確かめるようにもう一度腕に力を込められて、背中に感じる体温をなぜかずっと前から知っているような心地良さを感じる。でも千冬くんはそれ以上何もしてこなかった。もしかして寝てしまったのかも、とくるりと身体ごと後ろを振り向くと至近距離でくりっとした猫目と目が合った。寝ていたわけではないらしいけど、何も言わずに目を細めて頭を撫でられると胸がぎゅっとなってたまらなかった。

「……しないの?」

まるで強請るような言葉が、気付けば唇からこぼれ落ちていた。

「ナマエちゃんに軽い男って思われたくねーから今必死に我慢してるとこ」
「我慢してるの?」
「うん」
「千冬くんかわいー」

さっきのお返しとでもいうように同じ台詞を口にしてみれば、「かわいーのはそっち」とカウンターで返されてまた心臓がきゅーっとなる。

「わたしがしたいって言ったら、軽い女だって思う?」
「…まだ出会って数時間しか経ってないけど、ナマエちゃんが軽い気持ちでそういうこと言う子じゃないってのは分かるよ」
「わたしも…千冬くんが簡単にそういうことする人じゃないって分かってるよ」

そう言い終わるのと同時に唇を塞がれて、そのままシーツに両手を縫い付けられた。

「今ならまだ止められるけど」
「ほんとに?」
「…ごめんやっぱ無理」
「んっ、」

もう一度重なった唇の隙間から入り込んだ舌に咥内を擽られて、それだけで忘れかけていた身体の熱がまたじりじりと高まっていくのを感じる。するりとバスローブの隙間から熱い掌が差し込まれた。



間接照明の灯りがぼんやりと部屋を照らしているのが意外と明るいことに気付いたときはもう遅かった。中途半端に脱がされたバスローブが背中の下でくちゃくちゃになっている。下着だけを器用に剥ぎ取られて、思いの外明るい部屋でこの日出会ったばかりの男の人の前で全てを晒け出していると思うと恥ずかしくて仕方ないのに、そんな思考はすぐにどろどろの快感に流されていった。

「ぁあっ、それだめっ、んぅ〜〜〜ッッ」
「ん、これすき?」
「ちがっ、ぁっ、あぁんっ」

脚の間に顔を埋めた千冬くんが1番敏感な突起を吸い上げて、その度に甘い声が出てびくびくと太腿が震えた。元カレにはほとんどされたことのない行為に、未知の快感が背筋を駆け上る。やばい、これ気持ちいい。

「うそ、ナマエちゃん絶対これ好きでしょ」
「ぁっ…」
「だってほら、」

ここもうこんなになってる、と割れ目をツーッと指でなぞられるとそれだけでぐちゅ、と卑猥な水音が鳴った。ゆっくりとナカに入ってきた指が浅いところで探るように動かされる。そういえばこんなに丁寧に時間をかけて前戯をされたのはいつぶりだろう。長く付き合っていればこういう行為が作業的になるのは仕方のないことだとは思ってはいたけれど、改めて丁寧に抱かれると彼の方はやっぱりもう冷めていたのかもと思い知らされたような気がした。

「ふっ、はぁっ、ん」
「我慢しないで」
「ぁ、ん…ぅっ」
「もっとナマエちゃんのヤラシー声聞かせて」
「あぁっ」

長い指がお腹側をトントンと一定のリズムで叩いて、同時にクリトリスへの愛撫も再開される。口に含んで飴のようにちろちろと舐められると、再び脚がびくびくと震え出した。

「ぁんっ、ゃ、まって…」
「ん、ここきもちい?」
「ぁ、だめっ、ちふゆく、お願いまって…っ」

こわい、と小さく零すと指と舌の動きを止めた千冬くんが顔を上げた。泣きそうな顔を見られたくなくて慌てて腕で顔を覆ったけど、すぐに千冬くんに退けられてしまった。

「ナマエちゃん、もしかしてイったことない?」
「あ、の…わたし…」
「わ、ごめん」

泣かないで、と優しく頭を撫でられると余計に泣きたくなった。いい歳して恥ずかしすぎる。これまでの彼氏との行為中、ナカでも外でも一度も達したことがなかった。別にそれでも十分気持ち良かったし、自分はそういう体質なんだと思っていた。もちろんそれに不満もなかったのに。でも突然本能的に感じた絶頂の予感に、さっきのふわふわした快感が弾ける前みたいな今まで経験したことのない感覚が急に怖くなってしまった。

「ごめん、めんどくさいよね…」
「そんなことないって」

涙が溜まった目尻に優しく口付けられる。それからまた脚の方へと顔を近付けられて慌てて脚を閉じようとしたけれど、「だめ」と言われて更に大きくぐいっと脚を開かれてしまった。

「そんなかわいい顔見せられたらもう無理」
「えっ、ひゃ、あぁんっ」
「ナマエちゃんのイくとこ見せて」
「あぁっ、だめっ、それ…っ」
「イキそう?」
「んっ…も、イっちゃ、う…っ」

敏感な突起をぺろぺろと舌先で何度も舐められて、ふわふわとした快感がお腹の奥に溜まっていく。再び訪れた絶頂の予感に、何度も待ってとかだめとか言いながら髪を振り乱して、でも彼はもう止まってはくれなくて。

「イっ、く…ぅ、〜〜〜〜っっ」

お腹の奥で弾けた快感が身体中を駆け巡って、脳まで突き抜けた。達した瞬間にぎゅうっと強張った身体から力が抜けて、大きく息を吸い込むと全力疾走したあとのようにはぁはぁと荒い呼吸を繰り返した。

「イけた?」
「はぁ…う、ん…」
「ん、かわい」

汗に濡れる前髪を寄せて額に口付けられる。まさかこんなところで、出会ったばかりの男の人とこんな体験をしてしまうなんて夢にも思っていなかったのに。一度知った快感はこれまでの身体の記憶を容易く塗り替えてしまった。

「あっ、あんっ、も、だめなの…ひぁ、」
「だめじゃないでしょ」
「んぅっ、あぁっ、それもうやだぁ…っ」
「またイきそう?」
「イく、また、イっ、ちゃうぅ、〜〜〜っ」

一度イって、身体の熱が引いて落ち着いてきた頃にまた舌や指でクリを弄られてイって、その繰り返し。本当にさっきまで外イキを知らなかったとは思えないほど、もう何度もイかされている。

「あぁっ!?」
「イくときナカに指あるのきもちい?」
「やぁっ、それ、きもちい…っ」

必死にコクコクと頷いて、また与えられる快感に溺れていく。

「ちふゆくん、もう…」
「ん?」

ナカ、挿れてほしい、なんて初めて口にする言葉だった。自ら脚を開いてお願いすれば、ふ、と吐息のような笑みを零した千冬くんが脚の間に身体を入れてソコに薄い膜を被せた熱いものが宛てがわれた。ほんの少しだけ残っていた冷静な思考で、あ、ゴム持ってたんだ、なんて考えていたのも束の間で、ゆっくりとナカに沈められたソレに再び蕩けるような快感を与えられる。

「ぁっ、あっ、あんっ」
「はぁ…、ナカやば…」
「あぁっ、なにっ、これ、奥当たって…っ」
「子宮口当たる?」
「んぅ、〜〜〜っっ、あたっちゃう…っ」

ゆっくりと前後に動かしていた腰を奥にぐりぐりと押し付けられると、また今まで感じたことのない快感の波が押し寄せてきた。誰にも触れられたことのない場所を攻められて、絶頂感に身体が震える。

「ちふゆく、ちふゆくんっ、もうイっちゃう、それ、イっちゃうのっ」
「奥ぐりぐりすんの好き?」
「すきっ、それ、あぁんっ、きもちいっ」

ぐっぐっ、と押し込まれるように腰を動かされると、それだけで軽く達してしまったらしい。太腿がびくびくと震え続けている。

「ナマエちゃん上乗れる?」
「やっ、てみる…」

背中に腕を回されて繋がったまま、千冬くんの太腿の上に跨った。騎乗位も、元カレは好きだったみたいだけどわたしが毎回上手く動けなくて、結局いつのまにかしなくなってしまった。

どうにか自分で上下に動かそうとした腰を掴まれて、下からぐんっと突き上げられたり前後に動かされて、すぐにナカがヒクヒクと収縮し始めたのが自分でも分かった。

「ひぁぁあんっ」
「んっ、締めすぎだって」
「だって、これっ、すごいの…っ」
「ナカイキそう?」
「うんっ、ナカでイっちゃっ、うぁ、あぁんっ」

ついさっきまでイくこと自体知らなかったのに。こんなに簡単にイけるものなの?嘘でしょ?こんなの知ったら、本当に戻れなくなってしまいそうで…千冬くんじゃないと、だめになってしまいそうで怖いぐらいの快感だった。

「イっ、くぅ…あぁぁぁあっ」
「ぐ……っ」
「あぁっ、やっ、イった…っ、今イってるからぁっ」
「ん、俺ももうイけそ…」

外とは比べものにならないナカでの絶頂に、もう身体のどこにも力が入らなくて。そのまま千冬くんの引き締まった身体の上に倒れ込むと、ぎゅっと抱き締められたまま下から突き上げられた。さっきまでとは違う激しい動きに、わたしはただあんあんと嬌声をあげることしかできなかった。しばらくして耳元で聞こえた余裕のなさそうな吐息にすら胸が締め付けられる。千冬くんもちゃんと気持ち良くなってくれたんだと思うと、それだけで嬉しかった。


行為のあとは当たり前のように腕枕をしながら抱きしめられた。戯れるように何度か軽い口付けを落とされて、事後のこういう甘い空気も久しぶりでなんだかとんでもなく満たされてしまった。

「こんなにえっちでカワイイ子振るなんて、ナマエちゃんの元カレ見る目ねーな」
「…わたしも今同じこと思ってたよ」
「え?」
「こんなにえっち上手くて優しくてかっこいい人が3番目なんて、見る目ないなあって」
「なにそれ、嬉しいんだけど」

目を細めて笑った顔がちょっと幼く見えるところも、見た目のイメージより低い落ち着いた声も、人懐こくて気さくな性格も、知れば知るほどドツボにハマっていくような感覚だった。これ以上はまずいと分かっているのに、もっと彼のことを知りたい、もっと一緒にいたいと思わずにはいられなかった。

行為後の何とも言えない疲労感と眠気に襲われて千冬くんの胸に甘えるように擦り寄ると、頭を撫でていた手がするりと頬に添えられて、もう一度触れるだけの優しい口付けを落とされて、そのままあたたかい腕の中でゆっくりと目を閉じた。




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