title by Bacca



「千冬今日機嫌良いな」

なんか良いことでもあった?
金曜の夜の閉店作業中、レジ締めをしていたときに場地さんにそう言われ一瞬どきりとする。そんなに態度に出ていたのだろうか。

「…別にそんなことないっスよ」
「明日休みだからだろ」
「一虎くん!」

ニヤニヤしながら言った一虎くんを見てあぁ、そういうこと…と納得する場地さんにぶわっと顔が熱くなる。

「違いますから!」
「何も言ってねぇよ」
「焦りすぎウケる。そんな溜まってんの?」
「うるさい素人童貞が」
「は、はぁ!?ちげーし!」
「動揺してんじゃん」

一虎くんに噛み付くように言い返していると、いいから早く手を動かせと2人して場地さんに怒られた。



明日は土曜だけど久しぶりのオフで、一般企業勤めでカレンダー通りの休みのナマエとは半月ぶりに被った休みだった。

別に休みじゃなくてもやることはやってるし溜まっていたわけでもないけれど、翌日も仕事があると思うとまぁそれなりに気を遣ったりもするわけで。お互いに休みが被っているとなれば前日の夜なんて当たり前に期待するし、もう俺はこの休みが決まってからずっと"そういうこと"をする気でいた、のに。

「…それ観んの?」
「うん」

夜10時。それぞれ風呂に入ったあと、俺としてはこのままベッドでもいいんだけどさすがにまだ早いか…なんて思っていたら、ナマエは最近会社の人にお薦めされてハマっているという韓国ドラマを見始めた。テレビの前のソファを陣取って、酒とおつまみがわりのお菓子を置いて。いや、完全に長時間観るつもりのやつじゃん。

「これ、そんなに面白い?」
「うん」
「ふーん…」

さっきから「うん」しか言わないナマエのすぐ隣に座ってドラマが終わるのを待ってみるけれど、一向に終わる気配はない。というか終わってもすぐに次の話が自動再生で始まってしまう。一体何話まであるんだと思ってスマホで調べてみたら全16話だった。ナマエが今再生しているのが12話…あと4話もあんのかよ。恋愛ドラマなら一緒に観ようかとも思ったけれど、ナマエがハマっているのはサスペンスものだ。それも12話から観てもなぁ、と思いながらスマホを弄ってナマエが寝室に行くのを待つことにした。


途中でそれとなくナマエの方に寄りかかってみたり膝に頭を乗せてみたりするけれど、テレビから目を離す気はないらしい。ほとんど無意識に俺の髪を撫でる手が気持ち良くてこのまま寝てしまいそうになる。

「なぁ、まだ寝ないの?」
「うん。千冬くん先寝てていいよ」
「……もうちょっと起きてる」
「そう?あ、ごめん。もしかして観たいとか番組あった?」
「別に…」

そう言ってナマエの腹に頭をぐりぐりと押し付けてみる。ちらりと顔を見上げると一瞬目が合ったけれど、すぐに逸らされてしまった。いや…今のはちょっと傷付くんだけど…。
その後も何度か起き上がったり腰に腕を回してみたけれど、どうもドラマが佳境を迎えているらしく、テレビから目を離すことはなかったし、なんならパジャマの中に入れようとした手をやんわりと拒否された。

結局12時まで待っても相変わらずナマエがソファから動く気配はない。ていうかもう俺が眠い。このままだと本当にソファで寝落ちしかねないと思い「…そろそろ寝るわ」と言って起き上がった。

「はーい、おやすみ」
「……ナマエまだ寝ないの?」
「うん」

あっさりしたナマエの態度に、あっそ、と少し拗ねた声が出てしまった。慌てて「明日休みだからってあんま夜更かしすんなよ」と言ってから寝室へ向かい、ひんやりとした布団に潜る。

マジかよ…久しぶりのオフ被り前日にヤらねーとかある?ないだろ。くっそ、だんだん腹立ってきた。明日はぜってー朝からヤる。そんなことを考えながらも未だに期待は捨てきれず、つーかこっちはもう数日前から今日はヤるって決めてたんだぞとリビングの方を睨み付けていると扉がガチャ、と開く音がした。

「千冬くん、もう寝ちゃった?」

起きていたけれどここまで焦らされて素直に誘いに乗るのも何だか癪で、慌てて目を閉じて寝たフリをした。

「ちーふーゆーくん」

布団に潜り込んできたナマエが、後ろから腰にぎゅっと抱きついて脚を絡め、首筋や耳に柔らかい唇を押し付けてくる。起きてるでしょ、と小さく笑いながら今度は俺の上に跨るようにして乗ってきた。

「…遅い」
「ごめんって」

もう一度、今度は唇にキスをしてからくすくすと笑いながらゆっくりと腰を動かしたナマエの後頭部を引き寄せて唇を奪えば合間に漏れる甘い吐息。

柔らかいナマエの身体に手を這わせているだけで高まる熱を下から押し付けるようにすれば「んっ、」と合わせた唇の隙間から高い声が零れた。

「千冬くんの誘い方が可愛すぎてつい意地悪しちゃった」
「はぁ…」

やっぱり気付いててやってたのかよ、と思わず小さく溜息を吐いた。怒った?と揶揄うように笑うナマエの小さな肩を押せば体勢は簡単に入れ替わった。

「怒った」
「えぇー…お手柔らかにお願いします」
「じゃあ焦らすなよ」

甘えるように首に回された腕に応えるようにもう一度唇を重ねた。あーーーーもう!今日は絶対優しくなんてしてやらねぇ。



選りすぐりの夜たち

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